【R18】溺れる身体~そこに愛はない

遙くるみ

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そこに愛はない

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「んあっ!」

「お前今オサムのこと考えてただろ」

 両方の尖りを同時につままれ、身体が跳ねた。
 急に与えられた強すぎる刺激に、思いがけず大きな声が漏れる。ぐりぐりと尖りを捏ねられれば、沈んでいた思考が強制的に戻され、また頭の中が快楽で侵される。

「んー!ああっ、んんっ!」

「あんな童貞臭い奴がこんなにテクニシャンなわけねーだろ」

 荒くなる息を抑えながら何とか口を塞ごうとするも、絶え間なく与えられる刺激にそれは叶わない。自分のものとは思えない甘い高い声を聞きたくなくて、男の手を止めようと手を伸ばすが、身体を密着させられればそれも叶わない。最後の抵抗とばかりに思いきり男を睨みつければ、ケラケラと声を上げて笑われた。

「ああ、でと。あいつも今頃ナミちゃんとやってんのかなー」

 男の言葉に胸が痛む。
 私が欲してやまなかった場所に別の女が居座り、そしてオサムに愛されるなんて。私が想像することしかできなかった情事中のオサムを、あの女は実際に見ることができるなんて。
 まだ実感がない。そんなのは嘘だ。信じられるわけがない。
 それなのにさっきから締め付けてくる胸の痛みが、これは現実だと私に訴えている。

 私の胸を枕代わりに男が頭を預けてくる。そして、まるで暇つぶしでもするかのように私の尖りをくりくりとこねながら、憂鬱げにため息を吐いた。

「いいなー、俺もナミちゃんの清楚おっぱい揉みたかった。こんなでかいおっぱいじゃナミちゃんの代わりにならねーよ」

 なおも男は顔を横に向け片胸に頭を乗せたまま、反対側の胸をまさぐっている。
 最低の言葉、最低の状況シチュエーション、最低の光景。

「うるさい。黙れ」

「こっえーの。まあまあ、フラれた者同士仲良くしようって」

 倒していた頭を上げて、上目遣いで私を見る男に、私は嘲笑うかのように鼻で嗤った。

「あんたなんて、オサムの代わりよ」

「うわー、ひでえ言い種。オサムとの妄想セックスに付き合わされるなんて、俺可哀そう」

「どうせあんただって一緒でしょ」

 オサムがナミと付き合うということは、私が失恋し、そしてこの男も失恋したということだ。
 この男がさっき言った通り、フラれた者同士寂しさやむなしさを紛らわすのにちょうど良かっただけ。

 欲しかったものが手に入らなかったから、目の前にあるものを取りあえずの代役に仕立ててるだけ。

 最低なのはこの男だけじゃない。ーー私もだ。

「はいはい。じゃあ、童貞っぽくやればいいんだろ?」

「オサムっぽく、よ。あんたはその下品な口を閉じるだけでいい。私が用があるのは身体だけなんだから」

 自分でもかなり最低なことを言っている自覚はあったが、男は怒りもせず反対に噴き出す様に笑ってから、「はいはい。仰せのままに」と言って本当に口を噤んだ。
 そのことを確認してから、私もそっと目を閉じる。
 消えかけていたオサムを呼び起こす様に暗闇を見回せば、すぐにオサムは現れた。

 ナミと付き合うことを嬉しそうに私に報告してきたそんな顔を、私にもずっと向けてほしかった。女として私を見てほしかった。一度でいいから、私のことを好きになってほしかった。


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