63 / 98
61.ノクトマとスビアイ山―8
しおりを挟む
結局、明日の昼に南門傍のとある食事処で会う約束をし、私たちは急ぎ宿へと戻ることになった。戻るも何も探す前に尾行されたのでまだ宿すら見つけていないのだが、急がねばならない。作戦会議……ではないが、すぐ決めるにはあまりにも情報量が多い依頼である。少し整理する時間を貰った形だ。
時間が遅かったせいかちょうどいい宿が空いておらず、私たちが昨日の宿より中央寄りで見つけたのは、そこそこ広いが一人部屋一つであった。だがもともと金銭に余裕がある一人向け、もしくは詰めて二人部屋として提供していたようで、なんとか二名宿泊可能となって落ち着くことができた。
昨日の宿より少し広いベッドとテーブルに椅子が二脚、そしてなんと簡易のシャワー室まである部屋だ。水が流れる魔道具を設置しているシャワー室付きの宿は中々に人気で、置かれたベッドも清潔。家具もよく手入れされた、少し前の冒険者ランクでは手を伸ばしにくい上等な部屋である。漸く冒険者としてのランクが上がってきたのだと実感できるような宿だ。
とはいえ、宿をとれたといっても私たちは落ち着く暇もない。お湯……ではないがまぁ温いと言える範囲かな? という水が噴き出すシャワーで身を清め、いつものように洗濯しながら話すのは今日の怒涛の出来事についてだ。
「まさか師匠たちが動いているなんてな。あの様子じゃじいさんもだろ? ルイード師匠が別件だって言ってたのは、たぶん未開の森の件だと思うんだが……」
「過去に報酬でこの魔道具を渡したって言ってたけど、あの人の剣、たぶんそれなりの環境で習ったものでしょう。騎士家系……の可能性もあるけど、高位の貴族筋だと思う」
「だろうな。正直、貴族に関わるなんてめんどくさいことこの上ないが、手紙は手に入れたい。ミナが調べたいって言ってたから、だけじゃない。俺たちはグリモワールについて知るべきだ」
「……うん」
「冒険者として周りを見れば見る程、使えば使うほど、黒のグリモワールに収められてた魔道具は規格外すぎる。使いどころがわからないものも多いだろ? そもそも鑑定機能がついてる時点で、収納がなくても黒本は驚異的なんだ。他の色の本も含めて、使い手がミナに限定されたのも気になる。じいさんの占術で出た結果でもあることだし、悪いもんじゃないとは思うが、なら猶更だ。俺たちは調べないといけない」
「うん。手紙まであったなんて、まるで……」
想いそのものが、遺されているような。
手を翳せば、ふわり、と私の意思を受けて傍ら浮かぶ黒のグリモワール。こんなものがあればいいな、という道具が詰まった、冒険者の為にあるような本だった。
「本も含めて誰かのメッセージそのもの、みたいだな。誰のものか、知らないが」
うん、と頷いてその背表紙を撫でる。
そもそも魔道具は、今現在存在する九十%以上が近代作られた、魔道具黄金期と呼ばれた時代以前の道具の模倣品の量産だと言われている。黄金期は今より八百年以上前であるとされ、模倣品や類似品ではない完全に新作とされる魔道具は九%程度になるという。時代の移り変わりにより新たに必要となったものなどがそうだ。
そんな中、残りのたった一%未満になる黄金期より残された道具のほとんどは、手に入れるのが非常に難しいと言われている。さらにその半分は、模倣すらできない高度な技術の結晶であり、存在が秘されているようなものばかりだ。そう、たとえば……この、グリモワールのように。
そんな魔道具と共に残された、手紙。歴史的価値も高いだろうし、何より長く使い手がいなかったという開かずの本にはいったい、どのような秘密が隠されているというのだろう。
「……というか、さ。おじいさま、迷宮のアイテム渡すだけでいいみたいな伝言だったけど、たぶん見越してた気がするんだよね……」
師匠はあくまで伝言を伝えに来てくれただけ。私たちに依頼を引き受けない選択肢はあったのだと思うけれど、それは強制されていなかっただけで、どのみち引き受けることになるとわかっていたんじゃないかと思う。
そもそも依頼者はグリモワールに関しての情報を知る人物であったのだ。グリモワールを持つ私と出会うことになったこと自体が、偶然の一言では済まされないだろう。
「だよな、俺もそう思う。たぶんじいさんは『視て』知ってたんだろ」
「……迷宮かぁ。ダンジョン内に泊まったりもある……んだよね」
「ただでさえ何があるかわからないんだ、体力を落とさないように休息は必須だろうな」
ユウが同意し、指で私の髪を梳いて乾かし終わると、なぜかその手が横から伸び、腹部に回された。え、と固まっている間に、肩に熱と重みを感じる。一瞬何が起きているかわからなかったが、後ろに座るユウに抱き寄せられ、その額が肩に乗せられているのだと理解してかっと全身が熱くなる。
「ユウ!?」
驚きに声を上げたが、応えずユウは伸ばした手で洗い終えた洗濯物に触れると水気を飛ばし始めた。
無言の行動に戸惑い、どうしてという思いの中に確かに嬉しさを感じてしまった。ああ、ああ。この数日をかけて戸惑いがゆっくりと消化されていったようで、私は以前よりも素直に自分の感情の変化を受け入れ始めてしまった。
ほんの数秒どうすべきかと迷う間に全ての洗濯物を乾かし終えたユウが、動いていた手をまた腹部に回してくる。
「……ユウ?」
「いやか?」
「えっ」
まさかこの状況についてこちらに質問が飛んでくると思わず、いろいろ聞きたい、いやそうじゃないと混乱が全身を支配する。
どうする、どうしようと考えていると、再度嫌かと問われて、思わず首を振った。
「それは、……いや。全然何も言わないから、何とも思ってないのかと思ってさ。ずるかったな、ごめん」
「え、え? なに?」
「……なぁ、この部屋ベッド一つなんだけど」
「え? あ、そうだね。……あ゛っ!」
「今更かよ」
くは、と笑い声を漏らされ、わたわたと暴れて逃げ出そうとすれば、腹部に回されていた手はあっさりと解かれて体が解放された。
ずりずりと前に出て振り返る。困ったような、それでいて楽しそうな笑みを見せたユウの手が伸び、暴れたせいで乱れた髪が正面から梳かれ、耳にかけられた。耳に、指が。は?
「ユウ!? 何、からかっ、なんっ」
「落ち着けって。な、俺と一緒の時、野営でも寝れるようになっただろ」
え、と動きを止め、振り返る。……そうだ、最近ユウの隣で寝て、ユウが見張りをしている時はそこそこ眠っていた気がする。あの護衛依頼中寝不足だったのは、もう一人の護衛であるベルトランさんの見張り時間にほぼ眠れなかったせいだ。
旅の当初は、ユウしかそばにいなくても野営では眠れなかったというのに。
「俺といて安心して寝れるなら、今はそれでいい。必ず守るから、ダンジョンでもできればそのまま眠ればいい。いつもみたいにくっついてていいから」
「……くっつく……あれっ、私これだいぶおかしいのでは?」
「今気づいたか。ま、いいよ今は兄替わりで」
「あに」
「そ。ま、兄じゃないから野営以外は気をつけろよ?」
「どっち!」
「なんにせよ俺のパートナーは今後もお前だけだ、絶対変わらない。それ以外答えはないぞ」
うん? と曖昧に頷き、あ、と唐突に理解する。
ユウは、同じ年ごろの女の子である依頼者がパーティーに増えることで、私が警戒する色恋のいざこざに関連するトラウマが刺激されぬよう大丈夫だと言ってくれているのだろう。
私が彼女と行動するにあたって先に気にしてしまいそうな部分を排除しようとしているのか。眠れない理由自体は、この体でもあの集落でいろいろあったので前世絡みではないと思っている可能性もあるが、そうだった、と納得も広がる。……女が、増えるんだ。男女どちらにせよ人が増えることに不安で、思考が混乱に落ちたままだったのかもしれない。
戸惑ったのが伝わったのだろう、大丈夫だって、とユウの手が私の頭を撫でる。ちらりと見た先ではもう天月もルリも休んでいて、部屋に少しの間静寂が訪れた。
「ほら、寝るぞ。状況によっては明日即スビアイに発って、予定を繰り上げてスビアイダンジョンを攻略する必要もある。ぎりぎりまであの依頼者と別行動とるとしても、一か月半後くらいには迷宮都市で待ち合わせしないといけないだろうからな」
「……うん。あの、ユウ」
「ん?」
「ここ、野営じゃないから気を付けないといけない?」
ユウはさっき、兄じゃないから野営以外は気をつけろ、なんて言っていたけれど。あの言葉がいつもとどこか、違った気がして、勝手に胸の奥に期待と、理不尽な不安が膨らんでいく。
ユウは、どうして。
「は? ……あー。正直に言えよ? お前まったく気にしてなかっただろ?」
「まったく……ではない、たぶん」
「へぇ」
途端ににやにやとしたユウからさっと顔を逸らす。……これはずるいのでは? 私の気持ちバレバレでは? いやでも、今はまだ私もよくわからないんだよ。というかこの展開どういうことなの。
ごちゃごちゃと考えている間にユウに腕を引かれ、結局ベッドに入ったところで、予想以上に熱が近くて緊張する。……やっぱ宿で寝具が一緒ってまずいのでは。というかユウは? ユウはどう思ってるの? これ聞いていいやつかな?
「あの、ユウ」
「俺、誰が見てもわかりやすいと思うんだよな」
「えっ」
「いやじゃないんなら俺もそろそろ遠慮しない。つまりこの状況で俺に何か聞くなら覚悟して聞け」
「そっ、え、……おやすみ、なさい」
はい、おやすみ。そう言って隠し切れない笑い声を零したユウになんとか背を向ける。それってもう、答え? 私の期待しすぎ? ああでも、どうして嬉しいと思う感情に、こんなにも不安が混じってしまうんだろう。……こわい。
過ぎった可能性に心臓が落ち着かなくなる前に眠れ眠れと念じると、じわりと膨らむ不安に考えること自体を慌てて放棄し、必死に跳ね回る天月を想像しているうちになんとか私は眠りに落ちていったのだった。
時間が遅かったせいかちょうどいい宿が空いておらず、私たちが昨日の宿より中央寄りで見つけたのは、そこそこ広いが一人部屋一つであった。だがもともと金銭に余裕がある一人向け、もしくは詰めて二人部屋として提供していたようで、なんとか二名宿泊可能となって落ち着くことができた。
昨日の宿より少し広いベッドとテーブルに椅子が二脚、そしてなんと簡易のシャワー室まである部屋だ。水が流れる魔道具を設置しているシャワー室付きの宿は中々に人気で、置かれたベッドも清潔。家具もよく手入れされた、少し前の冒険者ランクでは手を伸ばしにくい上等な部屋である。漸く冒険者としてのランクが上がってきたのだと実感できるような宿だ。
とはいえ、宿をとれたといっても私たちは落ち着く暇もない。お湯……ではないがまぁ温いと言える範囲かな? という水が噴き出すシャワーで身を清め、いつものように洗濯しながら話すのは今日の怒涛の出来事についてだ。
「まさか師匠たちが動いているなんてな。あの様子じゃじいさんもだろ? ルイード師匠が別件だって言ってたのは、たぶん未開の森の件だと思うんだが……」
「過去に報酬でこの魔道具を渡したって言ってたけど、あの人の剣、たぶんそれなりの環境で習ったものでしょう。騎士家系……の可能性もあるけど、高位の貴族筋だと思う」
「だろうな。正直、貴族に関わるなんてめんどくさいことこの上ないが、手紙は手に入れたい。ミナが調べたいって言ってたから、だけじゃない。俺たちはグリモワールについて知るべきだ」
「……うん」
「冒険者として周りを見れば見る程、使えば使うほど、黒のグリモワールに収められてた魔道具は規格外すぎる。使いどころがわからないものも多いだろ? そもそも鑑定機能がついてる時点で、収納がなくても黒本は驚異的なんだ。他の色の本も含めて、使い手がミナに限定されたのも気になる。じいさんの占術で出た結果でもあることだし、悪いもんじゃないとは思うが、なら猶更だ。俺たちは調べないといけない」
「うん。手紙まであったなんて、まるで……」
想いそのものが、遺されているような。
手を翳せば、ふわり、と私の意思を受けて傍ら浮かぶ黒のグリモワール。こんなものがあればいいな、という道具が詰まった、冒険者の為にあるような本だった。
「本も含めて誰かのメッセージそのもの、みたいだな。誰のものか、知らないが」
うん、と頷いてその背表紙を撫でる。
そもそも魔道具は、今現在存在する九十%以上が近代作られた、魔道具黄金期と呼ばれた時代以前の道具の模倣品の量産だと言われている。黄金期は今より八百年以上前であるとされ、模倣品や類似品ではない完全に新作とされる魔道具は九%程度になるという。時代の移り変わりにより新たに必要となったものなどがそうだ。
そんな中、残りのたった一%未満になる黄金期より残された道具のほとんどは、手に入れるのが非常に難しいと言われている。さらにその半分は、模倣すらできない高度な技術の結晶であり、存在が秘されているようなものばかりだ。そう、たとえば……この、グリモワールのように。
そんな魔道具と共に残された、手紙。歴史的価値も高いだろうし、何より長く使い手がいなかったという開かずの本にはいったい、どのような秘密が隠されているというのだろう。
「……というか、さ。おじいさま、迷宮のアイテム渡すだけでいいみたいな伝言だったけど、たぶん見越してた気がするんだよね……」
師匠はあくまで伝言を伝えに来てくれただけ。私たちに依頼を引き受けない選択肢はあったのだと思うけれど、それは強制されていなかっただけで、どのみち引き受けることになるとわかっていたんじゃないかと思う。
そもそも依頼者はグリモワールに関しての情報を知る人物であったのだ。グリモワールを持つ私と出会うことになったこと自体が、偶然の一言では済まされないだろう。
「だよな、俺もそう思う。たぶんじいさんは『視て』知ってたんだろ」
「……迷宮かぁ。ダンジョン内に泊まったりもある……んだよね」
「ただでさえ何があるかわからないんだ、体力を落とさないように休息は必須だろうな」
ユウが同意し、指で私の髪を梳いて乾かし終わると、なぜかその手が横から伸び、腹部に回された。え、と固まっている間に、肩に熱と重みを感じる。一瞬何が起きているかわからなかったが、後ろに座るユウに抱き寄せられ、その額が肩に乗せられているのだと理解してかっと全身が熱くなる。
「ユウ!?」
驚きに声を上げたが、応えずユウは伸ばした手で洗い終えた洗濯物に触れると水気を飛ばし始めた。
無言の行動に戸惑い、どうしてという思いの中に確かに嬉しさを感じてしまった。ああ、ああ。この数日をかけて戸惑いがゆっくりと消化されていったようで、私は以前よりも素直に自分の感情の変化を受け入れ始めてしまった。
ほんの数秒どうすべきかと迷う間に全ての洗濯物を乾かし終えたユウが、動いていた手をまた腹部に回してくる。
「……ユウ?」
「いやか?」
「えっ」
まさかこの状況についてこちらに質問が飛んでくると思わず、いろいろ聞きたい、いやそうじゃないと混乱が全身を支配する。
どうする、どうしようと考えていると、再度嫌かと問われて、思わず首を振った。
「それは、……いや。全然何も言わないから、何とも思ってないのかと思ってさ。ずるかったな、ごめん」
「え、え? なに?」
「……なぁ、この部屋ベッド一つなんだけど」
「え? あ、そうだね。……あ゛っ!」
「今更かよ」
くは、と笑い声を漏らされ、わたわたと暴れて逃げ出そうとすれば、腹部に回されていた手はあっさりと解かれて体が解放された。
ずりずりと前に出て振り返る。困ったような、それでいて楽しそうな笑みを見せたユウの手が伸び、暴れたせいで乱れた髪が正面から梳かれ、耳にかけられた。耳に、指が。は?
「ユウ!? 何、からかっ、なんっ」
「落ち着けって。な、俺と一緒の時、野営でも寝れるようになっただろ」
え、と動きを止め、振り返る。……そうだ、最近ユウの隣で寝て、ユウが見張りをしている時はそこそこ眠っていた気がする。あの護衛依頼中寝不足だったのは、もう一人の護衛であるベルトランさんの見張り時間にほぼ眠れなかったせいだ。
旅の当初は、ユウしかそばにいなくても野営では眠れなかったというのに。
「俺といて安心して寝れるなら、今はそれでいい。必ず守るから、ダンジョンでもできればそのまま眠ればいい。いつもみたいにくっついてていいから」
「……くっつく……あれっ、私これだいぶおかしいのでは?」
「今気づいたか。ま、いいよ今は兄替わりで」
「あに」
「そ。ま、兄じゃないから野営以外は気をつけろよ?」
「どっち!」
「なんにせよ俺のパートナーは今後もお前だけだ、絶対変わらない。それ以外答えはないぞ」
うん? と曖昧に頷き、あ、と唐突に理解する。
ユウは、同じ年ごろの女の子である依頼者がパーティーに増えることで、私が警戒する色恋のいざこざに関連するトラウマが刺激されぬよう大丈夫だと言ってくれているのだろう。
私が彼女と行動するにあたって先に気にしてしまいそうな部分を排除しようとしているのか。眠れない理由自体は、この体でもあの集落でいろいろあったので前世絡みではないと思っている可能性もあるが、そうだった、と納得も広がる。……女が、増えるんだ。男女どちらにせよ人が増えることに不安で、思考が混乱に落ちたままだったのかもしれない。
戸惑ったのが伝わったのだろう、大丈夫だって、とユウの手が私の頭を撫でる。ちらりと見た先ではもう天月もルリも休んでいて、部屋に少しの間静寂が訪れた。
「ほら、寝るぞ。状況によっては明日即スビアイに発って、予定を繰り上げてスビアイダンジョンを攻略する必要もある。ぎりぎりまであの依頼者と別行動とるとしても、一か月半後くらいには迷宮都市で待ち合わせしないといけないだろうからな」
「……うん。あの、ユウ」
「ん?」
「ここ、野営じゃないから気を付けないといけない?」
ユウはさっき、兄じゃないから野営以外は気をつけろ、なんて言っていたけれど。あの言葉がいつもとどこか、違った気がして、勝手に胸の奥に期待と、理不尽な不安が膨らんでいく。
ユウは、どうして。
「は? ……あー。正直に言えよ? お前まったく気にしてなかっただろ?」
「まったく……ではない、たぶん」
「へぇ」
途端ににやにやとしたユウからさっと顔を逸らす。……これはずるいのでは? 私の気持ちバレバレでは? いやでも、今はまだ私もよくわからないんだよ。というかこの展開どういうことなの。
ごちゃごちゃと考えている間にユウに腕を引かれ、結局ベッドに入ったところで、予想以上に熱が近くて緊張する。……やっぱ宿で寝具が一緒ってまずいのでは。というかユウは? ユウはどう思ってるの? これ聞いていいやつかな?
「あの、ユウ」
「俺、誰が見てもわかりやすいと思うんだよな」
「えっ」
「いやじゃないんなら俺もそろそろ遠慮しない。つまりこの状況で俺に何か聞くなら覚悟して聞け」
「そっ、え、……おやすみ、なさい」
はい、おやすみ。そう言って隠し切れない笑い声を零したユウになんとか背を向ける。それってもう、答え? 私の期待しすぎ? ああでも、どうして嬉しいと思う感情に、こんなにも不安が混じってしまうんだろう。……こわい。
過ぎった可能性に心臓が落ち着かなくなる前に眠れ眠れと念じると、じわりと膨らむ不安に考えること自体を慌てて放棄し、必死に跳ね回る天月を想像しているうちになんとか私は眠りに落ちていったのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?
水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。
貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。
二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。
しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。
アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。
彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。
しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。
だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。
ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。
一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。
しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。
そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる