黄金の檻 〜高慢な貴族連中を裏から支配するんでよろしく〜

とんでもニャー太

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蛇蝎の涙②

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ローレン家の書斎で、俺は窓越しに夕暮れの帝都を眺めていた。
ヴィクターとの密会から数週間が過ぎ、俺の計画は着実に進展していた。

「カイン」

振り返ると、そこにはローレン当主が立っていた。
その目には、疲れと焦りが見えた。

「ガリウス家とマーキュリー家の動きがおかしい。何か掴んでいるか?」

俺は内心で笑った。
愚か者め。お前が気づいていない間に、既に手を打っているのだ。

「はい、いくつか気になる情報がございます」

俺は、ヴィクターから入手したガリウス家の内部情報を巧みにアレンジして伝えた。
もちろん、全てを話すわけではない。
当主を操るには、過度の不安の中に僅かな希望を与え続けることが肝心だ。

「なるほど……これは厄介な状況だな」

当主は深く考え込んだ。

「ですが、チャンスでもあります」俺は慎重に言葉を選んだ。
「当面、両家は皇帝陛下の目もありますから大きく動けないでしょう。それよりも、この機にローレン家の商圏を広げるべきです。商人達は自分達の予想できない不安というものを嫌いますからね」

当主の目が光った。

「お前の言う通りだ。よし、両家と取引のある商人をローレン家に取り込もう。カイン、お前に交渉を任せる。上手く取り纏めて見せろ」

俺は丁寧に頭を下げた。

「はっ、身に余る光栄です」

これで、ローレン家をさらに俺の思い通りに操れる。


* * *


その夜、俺はセリアと密会していた。
彼女は俺の腕の中で震えていた。

「カイン、怖いの……父の行動が、ますます不可解になってきて」

俺は優しく彼女の髪を撫でた。

「どんなことがあったんだ?」

セリアは躊躇いがちに話し始めた。

「昨夜、父の書斎から声が聞こえてきて……。覗いてみたら、見たこともない男と密談していたの」

俺の心臓が高鳴った。これは予想外の情報だ。

「その男が誰か分かったか?」
「よく見えなかったけど……男が去った後、父が『黄金の鍵』と呟いていたのが聞こえたわ」

黄金の鍵――帝国を裏から操るという、謎の組織。
やはり、三大貴族家に繋がっていたか……。

「セリア、よく聞いてくれ」俺は真剣な表情で言った。
「これは重大な問題かもしれない。だが、軽はずみな行動は取るな。俺が何とかする」

セリアは俺の胸に顔を埋めた。

「ありがとう、カイン。あなただけが頼りよ」

俺は優しく彼女を抱きしめた。

セリア、いくらでも抱きしめてやろう……。
お前の純真な想いが、ローレン家において俺の最大の武器になるのだからな……。


* * *


翌日、俺は帝国議会に出席していた。
だが、そこで予想外の出来事が起こった。

マーキュリー家の若き当主、レイモンドが俺に近づいてきた。

「カイン殿、少しよろしいか」

その目には、明らかな敵意が見えた。

「どういったご用件でしょうか?」俺は平静を装った。

レイモンドは周囲を確認してから、低い声で話し始めた。

「お前の素性について、興味深い情報が入ってきた。下層街出身というのは本当か?」

俺の背筋が凍りついた。
どこから情報が漏れたのか……。

「ええ、そうですが」俺は動揺を悟られないよう、冷静に答えた。
「本当にそうか?」レイモンドの目が鋭く光った。
「お前の話す言葉遣い、立ち振る舞い、そのどれを見ても下層街育ちには思えん。一体、お前は何者なんだ?」

俺は一瞬、言葉に詰まった。
だが、すぐに冷静さを取り戻した。

「レイモンド様、なぜそこまで私の素性にご興味があるのでしょうか?」俺は逆に問いかけた。
「私の経歴が特別だとでも?下層街から取り立てられた者が、上流社会の作法を学ぶのは当然のことではないでしょうか?」

レイモンドは目を細めた。

「なるほど、口は立つな。だが、これで終わりだと思うな」

そう言い残して、レイモンドは立ち去った。

俺は冷や汗を流した。
予想外の障害が現れたものだ。

だが、同時に俺の心は高鳴っていた。

この危機を、どう乗り越えるか。
そして、どう利用するか。

俺の頭の中では、既に次の一手が練られていた。

マーキュリー家の若き当主。
そして、黄金の鍵、か……。

「面白い、そうこなくては――」

俺は再び冷笑を浮かべた。
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