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毒蛾の鱗粉②

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数日後、俺の仕掛けた罠が効果を発揮し始めた。
ガリウス家とマーキュリー家の対立は表面化し、帝都の政治は混乱に陥っていた。

そんな中、俺は下層街の人脈を駆使して、両家の醜聞をでっち上げ始めた。

「ガリウス家の跡取り息子が、下層街の娼婦と密会している」
「マーキュリー家が、隣国と密約を結んでいるらしい」

こうした噂を巧みに流布させることで、両家の信用は日に日に失墜していった。

その一方で、俺はローレン家での地位を着実に固めていった。
当主の信頼を得た俺は、家の重要な意思決定にも関与するようになっていた。

「カイン、お前の助言のおかげで、陛下から直々にガリウスとマーキュリーの調停を頼まれたぞ! はっはっは!」

ローレン当主は満足げに笑った。
俺は丁寧に頭を下げる。

「お褒めにあずかり光栄です。これからも、ローレン家のために尽力させていただきます」

だが、俺の本当の目的はまだ先にある。
この混乱に乗じて、自身の地位をさらに上昇させることだ。

そして、その機会はすぐにやってきた。
帝国議会で、新たな法案の審議が始まったのだ。

この法案は、貴族の権限を制限し、皇帝の力を強化するものだった。
俺は、この機会を逃すまいと決意した。

まず、ガリウス家とマーキュリー家に接触し、法案反対のために協力することを持ちかけた。
両家は、自分たちの権力が脅かされることを恐れ、すぐに同意した。
次に、ローレン当主に進言した。

「当主様、この機に乗じて、皇帝陛下に近づくべきです。他の貴族が反対する中、我々が支持を表明すれば、さらに陛下の信頼を得られるでしょう」

当主は俺の提案に頷いた。

そして、議会当日――。
ガリウス家とマーキュリー家が激しく法案に反対する中、ローレン家は唯一、支持を表明した。
皇帝は驚き、そして破顔して大いに喜び、ローレンを称えた。

「ローレン公爵、そなたの忠誠心に感謝する」

こうして、ローレン家は皇帝の信頼を得、帝国内での影響力を大きく高めることに成功した。
そして当然、その立役者である俺の地位も、飛躍的に向上した。

「カイン、お前には感謝してもしきれん。これからは、我が家の顧問として迎えよう」

ローレン当主が俺に告げた。俺は丁寧に頭を下げた。

「身に余る光栄です」

俺は内心で高らかに笑った。
つい一年前まで下層の情報屋だった俺が、今や帝国の中枢にまで食い込んでいる。

だが、これでもまだ序章に過ぎない。

真の目標は、この腐敗した帝国そのものを操ることだ。
俺はこの帝国に毒を蒔く。

ゆっくりと、確実に、相手を死に至らしめる毒蛾のように――。
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