黄金の檻 〜高慢な貴族連中を裏から支配するんでよろしく〜

とんでもニャー太

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蜘蛛の糸①

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約束の日、俺はセリアと密かに会った。
彼女は興奮と不安が入り混じった表情を浮かべていた。

「本当に大丈夫?」セリアが小声で尋ねる。
「ご心配なく、私がお守りいたします」

俺は穏やかに微笑んだ。

俺たちは人目を避けるように下層街へと向かった。
セリアは粗末な服に身を包み、化粧を落としている。それでも、その立ち振る舞いには気品が漂っていた。

下層街に足を踏み入れた瞬間、セリアの表情が凍りついた。
狭い路地、汚れた建物、そして疲れ果てた表情の人々。彼女の知る世界とは、あまりにもかけ離れていた。

「こ、これが...現実なのね」セリアが呟いた。

俺は彼女を導きながら、下層街の日常を説明していく。
貧困に喘ぐ家族、病気と闘う子供たち、そして必死に生きる人々の姿。

セリアの目に涙が浮かんだ。「どうして...こんなに」

その時だった。路地の奥から悲鳴が聞こえた。

「泥棒だ!誰か捕まえてくれ!」

俺たちの目の前を、一人の少年が駆け抜けていく。
その手には小さな袋が握られていた。

セリアが身を竦ませる中、俺は瞬時に動いた。
少年の逃走経路を読み、近道を通って追いかける。

路地を曲がったところで、俺は少年を捕まえた。

「離せ!」少年が叫ぶ。
「落ち着け――」

俺はセリアに聞こえるように「なぜ盗んだ?」と問いただした。

少年の目に涙が浮かぶ。

「妹が...妹が病気なんだ。薬を買う金がなくて...」

その時、追いかけてきた店主が到着した。怒りに満ちた表情で少年に詰め寄る。

「このクソガキ……ただじゃおかねぇぞ……」
「待ってください!」

セリアの声だった。
彼女は震える手で財布から銀硬貨を取り出すと、店主に差し出した。

「こ、これで、盗まれた分は十分でしょう……どうか、彼を許してあげてください」

店主は困惑した表情を浮かべたが、下卑た笑みを浮かべて頷いた。

「へっへっへ、こりゃあどうも、十分でさぁ……」

ホッと胸をなで下ろすセリア。
よし、もういいだろう。

「薬を買うんだろう?」俺は静かに言った。「急げ」

少年は涙ながらに頭を下げると、走り去っていった。
うん、良い演技だな。あとで報酬を追加してやろう。

セリアはその後ろ姿を見送りながら、黙って立ち尽くしていた。

「お嬢様」
「ええ」セリアが振り返る。
その目には、何かが変わったように見えた。

「カイン、私のした事は間違っているのかしら……」
「いいえ、間違いなくお嬢様が慈悲を施したことで、彼と彼の妹は救われるでしょう」

セリアは俺をじっと見つめた。

「私にできることは、限られていますけど……」

俺は静かに首を振った。

「お嬢様にできないことなど、この下層にはございません」

セリアの目に決意の色が浮かぶ。

「カイン、私の手助けをしてもらえる?」
「ええ、もちろんですとも」

その日以来、セリアは俺を完全に信頼するようになった。
彼女は俺の助言を熱心に聞き、下層街の実情を学び始めた。

俺は内心で冷笑を浮かべていた。
愚かな女め。善意など、この世界では何の役にも立たない。

だが、彼女が俺に向ける信頼こそが、俺の計画には不可欠だ。

そして、数ヶ月後――。
俺はセリアの客分として、ローレン家の晩餐会に招待されることになった。


* * *


晩餐会当日――。

俺は鏡の前に立ち、最後の仕上げをしていた。
上質な生地でできた服は体にぴったりと馴染み、髪も丁寧に整えられている。
まるで生まれながらの貴族のようだ。

「完璧だな」

俺は満足げに微笑んだ。
今夜、俺はセリアと共にローレン家の晩餐会に潜入する。
貴族たちの間に入り込み、彼らの秘密を探る絶好の機会だ。

セリアは俺の変装の腕前に目を丸くしていた。

「カイン、私、信じられないわ……。まるで本物の貴族みたい」
「お褒めいただき光栄です、お嬢様」

俺は丁寧に頭を下げた。
セリアは俺のことを、下層街出身の単なる情報屋だと思っている。

だが、俺の能力はそんなものじゃない。

下層には多様な人間が集まってくる。
世界中を荒らし回った詐欺師、組織を追われた諜報員、剣の道だけに生きる求道者。

俺は彼等を師として学んだ。

人を欺く術、潜入する技術、相手を制圧する武術……。
全て、今夜のために用意されたようなものだ。

「さあ、行きましょう」

俺たちは馬車に乗り込んだ。目的地はローレン家の邸宅だ。
セリアは緊張した様子で、小刻みに震えている。

「大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと緊張しているだけよ」

俺は優しく微笑んだ。

「心配いりません。私がついています」

その言葉に、セリアは少し安心したようだった。
馬車は静かに夜の街を進んでいく。

俺の頭の中では、既に計画が練られていた。
まずは、ローレン家の主要人物たちの関係性を探る。

次に、彼らの弱みを見つける。
そして最後に、その情報を利用して俺の地位を確立する。

全ては綿密に計算されていた。

馬車が止まり、俺たちは降り立った。
ローレン家の邸宅は、まるで小さな宮殿のようだった。

「準備はいいですか?」
「ええ」

セリアは深呼吸をして、背筋を伸ばした。
俺たちは並んで、邸宅の入り口へと歩いていった。

執事が俺たちを出迎え、広間へと案内した。
そこには既に大勢の貴族たちが集まっていた。華やかな衣装に身を包み、シャンパングラスを片手に談笑している。

俺は周囲を観察しながら、ゆっくりと部屋の中を歩いていった。
耳を澄ませば、あちこちで興味深い会話が聞こえてくる。

「ガリウス家の当主が病気だそうですね」
「ええ、後継者争いが始まるのは時間の問題でしょう」

「マーキュリー家の末娘が、隣国の王子と婚約するらしいわ」
「まあ、それは第二王子? だとしたら……」

俺は内心で笑った。
こんな場所で、こんなにも簡単に機密情報が漏れているとは。

貴族たちは自分たちの世界が安全だと思い込んでいる。
自分達の敵は自分達と同じ貴族しかいないと――。

その思い込みこそが、彼らの最大の弱点だ。

「カイン」セリアが俺を呼んだ。
「こちらに来て。父に紹介するわ」

俺は優雅に頷き、セリアについていった。

部屋の隅には、年老いた男性が立っていた。
その威厳ある態度から、ローレン家の当主だとすぐにわかった。

「父上、こちらがカインです」セリアが俺を紹介した。
「彼には……私の家庭教師をしていただこうかと思っています」

俺は丁寧に頭を下げた。
「お目にかかれて光栄です、ローレン様」

ローレン当主は俺を品定めするように見つめた。

「ほう、家庭教師か。どの分野を教えているのかね?」
「歴史と政治学です」俺は落ち着いた様子で答えた。

「最近では、光栄にも三大貴族家の歴史的変遷について、貴族家のご子息方に教える機会をいただいております」

その言葉に、ローレン当主の目が光った。

「そうか、それは興味深いな。どう思う?我が家の立場について」

俺は慎重に言葉を選んだ。

「ローレン家は常に帝国の中心にあり、その影響力は計り知れません。しかし……」

俺は声を潜めた。

「最近の政治的変動を考えると、新たな戦略が必要かもしれません」

ローレン当主は驚いたように俺を見た。

「……ほう、詳しく聞かせてもらおうか」

俺は内心で勝ち誇った。
これで、ローレン家の内部に入り込める。
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