黄金の檻 〜高慢な貴族連中を裏から支配するんでよろしく〜

とんでもニャー太

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蛇の抜け殻①

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俺はこの帝都の下層街で生まれ育った。
濁った空気と腐敗の臭いが漂う路地を歩きながら、俺は鼻で笑った。

上層街の連中なんて、この街の真の姿を知りもしない。
奴等にとって、下層街など存在しないも同然。
だが、その傲慢さこそが付けいる隙になる……。

――かつて俺を育てた下層の名も無き老人は言った。

『いいか、カイン。情報は使うためにある。時と場所を選んで与えれば、相手を意のままに操ることもできる。己に力がなくとも、力ある者同士を戦わせることもできる。すべてはお前の使い方次第だ』

結局最後まで己が名も語らず、俺には爺とだけ呼ばせていた。
ただ、爺の言う言葉はどれも正しいと感じた。

情報こそが力……。
この世界では、正しい情報を持つ者が勝者となる。

そして俺は、その情報を操り、この腐った帝都を支配してみせる。
どうだ爺、どうせ人生なんて死ぬまでの暇つぶしだ。
それも面白いと思わないか?


「おい、カイン!」背後から声がした。
振り返ると、古びた建物の陰から、痩せこけた男が現れた。

「例の情報、本当だったぜ。あんたのおかげで一儲けさせてもらったよ」
「当たり前だ。俺の情報が外れたためしはないからな」

「ふんっ、だからこそ、みんなあんたを頼りにしてるんだろ? ところで、新しい情報はないのか?」
「あるぜ」俺は周囲を確認してから、男に近づいた。

「マーキュリー家が来月、大量の塩を買い集めるらしい。どうやら、北方との戦争の可能性を見越してのことらしいな」

男の目が大きく見開かれた。

「マジか?そんな大物の情報を、どうやって……」
「それは俺の秘密だ」俺は意味ありげに言った。

「だが、この情報を上手く使えば、大きな波が起きるぞ。先回りして塩を買い占めておけば、値段が跳ね上がったときに――」
「ああ、わかった!」男は興奮気味に頷いた。
「代金は多めに払うぜ。いつもの場所に置いておく」

俺は男を見送りながら、内心で冷笑を漏らした。
今や奴らは俺の言葉を鵜呑みにする。疑う気配すらない。

これまでの"成功体験"が、奴らの目を曇らせているのだ。

無論、全て俺の仕込み通りだ。
下層街には、俺と同じように躾けられた男どもが溢れている。

奴らの偽りの信頼こそが、俺の最大の武器となる。
俺の言葉一つで、連中はいつでも踊る準備ができているのだから。


 * * *


夜が更けていく。
俺は薄暗い路地を抜け、ある廃屋に向かった。

そこは俺の隠れ家であり、情報の集積所だ。
壁には地図が貼られ、無数の糸でつながれている。

それぞれの糸が、この街の権力者たちの関係を表していた。
俺は地図を眺めながら、今後の展開に考えを巡らせる。

三大貴族家――ガリウス、マーキュリー、ローレン。

彼らの対立は長年続いているが、最近になって急激に激化している。
そして今夜、彼らが密かに会合を持つことは自明……これは単なる偶然ではない。

「ふん、面白くなってきたじゃないか」俺は呟いた。

三大貴族家の対立。
その裏では、目に見えぬ大きな力が動いている。

そして、その力を操る者こそが、この街の真の支配者だ。
俺は立ち上がり、窓の外を見た。

上層街の華やかな明かりが、遠くに輝いている。
あの光の中に、俺の未来がある。

「待っていろよ、たまたま生まれた場所に恵まれただけの無能どもが……」俺は低く呟いた。
「俺が、お前たちの世界をひっくり返してやる」
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