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続 その後の話

40 同僚が酔っ払ったときの話①

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飲みに行こうぜ、と田川に誘われて仕事終わりに寄った居酒屋。そこで俺は困り果てていた。

「振られたあああああ!」
「うるさ……っていうか、そろそろ離れてよ」

ついこの前、彼女に振られたらしい。酒が進む度にヒートアップしていく田川の口調に焦りを覚えて、その手からグラスを取り上げた。しかしその頃には手遅れになっていて、酒を取られて更にぐずりだした田川は俺の腰にしがみついて喚き始めてしまった。

「うるさいから静かにしよ?他のお客さんに迷惑だよ」
「お前も俺を見捨てるのか!?」
「見捨てるって……」

そもそも田川が振られた理由は、自分の浮気がバレたかららしい。……うん、実際に浮気されたことあるから、正直何とも言えない気持ちだ。だた、彼女さんはかなり傷ついたんじゃないだろうか。

だる絡みに突入した田川の顔を押しのけながら、腕時計を確認する。そろそろ帰らないといけない。こういうとき、さらっと助けてくれる上司は側にいない。

そろそろ出るぞ、と声をかけるが、酔っぱらいからまともな返事が返ってくるわけでもなく。うわ。こいつどうしよう。

これ以上お店に迷惑をかけたくなくて、半ば強引に店から連れ出す。タクシーを捕まえて放り込んで、住所を運転手に言わせようとするが、田川はへにょへにょになってうまく喋れない。困った顔をしてる運転手を見かねて、田川の頬を軽く叩いた。

「おい、お前……家どこだ。言って」
「え~~?このあたり!」
「いやそれだけじゃわかんないよ」
「わかんないかー、そっかそっか。じゃあ、一緒に探しに行こうぜ!大丈夫だ、俺が最後まで付き合ってやる!」

肩を組まれて身体が傾いた。へにょへにょしてるくせに、腕の力は強い。おい離せ。

この時の俺と運ちゃんは、同じことを考えていただろう。

だ、だめだこいつ……。

「…………後でタクシー代請求するからな」

交通費節約しようと思って電車で帰ろうと思っていたが、思ったよりやばい状態だ。このまま一人にしたらダメなやつ。俺は田川と共にタクシーに乗り込むと、運転手に自分の住所を伝えた。








「あ~?なんだここ~?」
「早く入って」

酔っ払いの言うことにいちいち反応していられない。俺は田川を無理やり家に引き入れて、リビングの床に転がした。

ソファに寝かしてやるべきなんだろうけど、こいつ体重重いんだよな。

「ただいま、クラゲさん」

田川が泥酔してることをいいことに、透明なグラスの中のクラゲさんに話しかける。先程から慌ただしくしてる俺をずっと見守ってくれていたのだ。

「田川がいるから、いいこにしててね」

どうせ田川にクラゲさんの姿は見えてないだろうけど。念のためだ。

水面を指先で撫でると、ぽちゃんと水音をして水がはねた。うん、いい返事。

「……俺もけっこう飲んじゃったな」

家のお茶を飲みながら、テーブルに手をついた。今日は入浴を控えておこう。

田川の分の麦茶もついで、持っていく。床に転がった田川は虫のように蠢きながら、ソファーに頭だけもたれさせていた。後生だから吐かないでくれよ。タクシーでは我慢できたんだから。

お茶を一口のんだ田川は、女性の名前を呼びながら呻き出した。例の彼女の名前だろうか。さっきよりは酔いが冷めてきてるように見えるが、まだまだこの状態は続きそうだ。

……布団、もう一つ出しておくか。しょうが無い奴だなぁ。

敷き布団をいそいそと出してる間、暇つぶし程度に田川に話しかける。

「なんで浮気するの」
「だって、さびしーじゃん。一人のよるって」
「彼女さんがいたんでしょ?」
「あのコが一緒にいてくれないときもあるじゃん。人肌恋しい夜ってさぁ、無性にヤりたくんるんだよな。そういうときって、本当に誰でもいいんだよ。お前もわかるだろ?」
「ヤ……」

ここに姉御がいたら、「これだから男は」と説教し始めそうなことを言いだした。俺は頬を引きつらせながら、なんとか苦笑いに留める。田川とそこそこ仲がいいつもりだが、ここまで踏み込んだ話はしたことがない。しかも、こんな下世話な話は特に。
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