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本編
28 妖怪のはなし
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とある日の昼食時。なぜか社員食堂で同席になった安元さんと一緒にご飯をつついていた。
海ぼうずって何だろうなあ、と呟いたら、俺の独り言を拾った安元さんが食いついてきた。なぜか知らないが、妖怪にとても詳しい。見た目に反してオタク気質がある人だったのか。知らなかった。いや、そんなことはどうでもいい。
安元さんが語った海ぼうずの伝承は、めちゃくちゃ怖かった。船をぶっ壊してくるのは知っていたが、人に化けて人間を海に誘ってそのまま波にさらってしまうだとか海に引きずり込むとか、そんな話は聞いていない。ついでにと見せてもらった海ぼうずの画像は家にいるクラゲさんと違い、人の形をしており、厳つい顔立ちで不気味な赤い口を開けていた。
どの角度で見てもクラゲさんと別の形をしているが、これもかつてから伝承された海ぼうずの姿絵の一つらしい。伝承は伝承だから、これでクラゲさんに対する印象が変わるわけではない、けど。
「え……こわ……こわ……」
「そうだろうそうだろう!」
「なんで嬉しそうなんですか」
俺が怖がっていると何故か安元さんが得意げに笑い出した。人が怖がっているところを見るのが好きなのかよ。安元さんの趣味がよくわからない。
ショッキングな画像にガクブルしてると、安元さんが違う妖怪の話をしだした。見た目のせいで誤解されやすく人々に嫌われてばかりだが、本当は人間より情深く、愛する人につくすという、蛇男という妖怪だ。顔が蛇の形をした人の形の妖怪らしい。形以外はほとんど人間と同じようだ。
醜い姿のせいで誰からも誤解され、それでも人間に恋をするという。そのせいで壮絶な一生を遂げるらしい。その悲しくも深みのある長い愛物語を聞かされた俺は、今度は感動して泣きそうになっていた。いや、泣いた。
「う……ぐずっ、なんて救いのない話だ……」
「そうだろうそうだろう!」
「ううう……どうして皆彼の良さに気づかないんだろう……」
「海ぼうずと違って、素晴らしい妖怪だろ?」
「今聞いた話だけだとそう思わざるを得ない」
目元を抑えていると、安元さんがティッシュを差し出してくれた。ここまで泣かされると思っていなかった。疲れで涙もろくなってんのかな。
安元さんはそんな俺を見て、満足そうに笑っていた。ちょっとにやにやしてるから、悪意もあると思う。ドSなのかなこの人。
「なあ、もしも俺が───」
「そういえば安元さんも、蛇男みたいな舌をしてましたよね」
「えっ?……そ、そうだったか?」
「あれ、見間違いだったのかな。少し見せてくださいよ」
ずいっと身体を寄せて口の中を覗き込む。以前ホテルで、安元さんの舌を見たことを思い出したのだ。安元さんは食事をするのも忘れて固まっている。半開きになってる口を見ていたら、直ぐに線に結ばれた。口を閉じられたら見えないんだけどな。
顎を掴んでむりやり口を開けさせたら、そこには普通の舌が一本あるだけだった。あれ?おかしいな。
「見間違いだったのか……?」
首をひねらせていると、顎を掴んでいる手を安元さんがタップした。
「か、かぎた」
今まで聞いたことないような、余裕のない声。
慌てて手を離すと、安元さんはまだ呆然としていた。やばい、調子に乗りすぎた。距離感やばいやつって思われたかな。勝手に触っちゃったし、不愉快だったかもしれない。いやでもこの人も勝手に触ってくる節あるからな……。
すみませんと謝っても安元さんは心ここにあらずといった感じだった。気まずい雰囲気から早く抜け出したくて、俺は残りの昼食をかき込むと、俺は早めに席から立ち上がった。
「せっかくセッティングしてやったのに、いざ向こうから触られると動けなくなる質っすか」
「…………」
「憐れっすね」
「うるせえよ田川!」
海ぼうずって何だろうなあ、と呟いたら、俺の独り言を拾った安元さんが食いついてきた。なぜか知らないが、妖怪にとても詳しい。見た目に反してオタク気質がある人だったのか。知らなかった。いや、そんなことはどうでもいい。
安元さんが語った海ぼうずの伝承は、めちゃくちゃ怖かった。船をぶっ壊してくるのは知っていたが、人に化けて人間を海に誘ってそのまま波にさらってしまうだとか海に引きずり込むとか、そんな話は聞いていない。ついでにと見せてもらった海ぼうずの画像は家にいるクラゲさんと違い、人の形をしており、厳つい顔立ちで不気味な赤い口を開けていた。
どの角度で見てもクラゲさんと別の形をしているが、これもかつてから伝承された海ぼうずの姿絵の一つらしい。伝承は伝承だから、これでクラゲさんに対する印象が変わるわけではない、けど。
「え……こわ……こわ……」
「そうだろうそうだろう!」
「なんで嬉しそうなんですか」
俺が怖がっていると何故か安元さんが得意げに笑い出した。人が怖がっているところを見るのが好きなのかよ。安元さんの趣味がよくわからない。
ショッキングな画像にガクブルしてると、安元さんが違う妖怪の話をしだした。見た目のせいで誤解されやすく人々に嫌われてばかりだが、本当は人間より情深く、愛する人につくすという、蛇男という妖怪だ。顔が蛇の形をした人の形の妖怪らしい。形以外はほとんど人間と同じようだ。
醜い姿のせいで誰からも誤解され、それでも人間に恋をするという。そのせいで壮絶な一生を遂げるらしい。その悲しくも深みのある長い愛物語を聞かされた俺は、今度は感動して泣きそうになっていた。いや、泣いた。
「う……ぐずっ、なんて救いのない話だ……」
「そうだろうそうだろう!」
「ううう……どうして皆彼の良さに気づかないんだろう……」
「海ぼうずと違って、素晴らしい妖怪だろ?」
「今聞いた話だけだとそう思わざるを得ない」
目元を抑えていると、安元さんがティッシュを差し出してくれた。ここまで泣かされると思っていなかった。疲れで涙もろくなってんのかな。
安元さんはそんな俺を見て、満足そうに笑っていた。ちょっとにやにやしてるから、悪意もあると思う。ドSなのかなこの人。
「なあ、もしも俺が───」
「そういえば安元さんも、蛇男みたいな舌をしてましたよね」
「えっ?……そ、そうだったか?」
「あれ、見間違いだったのかな。少し見せてくださいよ」
ずいっと身体を寄せて口の中を覗き込む。以前ホテルで、安元さんの舌を見たことを思い出したのだ。安元さんは食事をするのも忘れて固まっている。半開きになってる口を見ていたら、直ぐに線に結ばれた。口を閉じられたら見えないんだけどな。
顎を掴んでむりやり口を開けさせたら、そこには普通の舌が一本あるだけだった。あれ?おかしいな。
「見間違いだったのか……?」
首をひねらせていると、顎を掴んでいる手を安元さんがタップした。
「か、かぎた」
今まで聞いたことないような、余裕のない声。
慌てて手を離すと、安元さんはまだ呆然としていた。やばい、調子に乗りすぎた。距離感やばいやつって思われたかな。勝手に触っちゃったし、不愉快だったかもしれない。いやでもこの人も勝手に触ってくる節あるからな……。
すみませんと謝っても安元さんは心ここにあらずといった感じだった。気まずい雰囲気から早く抜け出したくて、俺は残りの昼食をかき込むと、俺は早めに席から立ち上がった。
「せっかくセッティングしてやったのに、いざ向こうから触られると動けなくなる質っすか」
「…………」
「憐れっすね」
「うるせえよ田川!」
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