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本編
23 恋人疑惑
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残業してると、後ろから声をかけられた。
「あれ、鍵田。まだ残っていたのか」
外はもう暗くなってきている。安元さんに話しかけられて、初めて気づいた。
「もう少しで一段落つくので、これが終わったら帰りますよ」
「おー。気をつけて帰れよ。そうだ、頑張りやの鍵田にご褒美をやろうな」
ほい、と渡されたのはチョコレートクッキー。これ、俺が好きなやつだ。
思わず笑みを浮かべていたら、上司がこちらを凝視する気配がした。まずい。菓子で喜ぶなんて子供っぽいと思われただろうか。視線に気づかないふりをして、差し入れのクッキーを齧る。うん、甘い。脳に糖分が行き渡ってる感じがする。
というか、安元さんはいつまでここに居るつもりなんだろう。後ろにいられると怖いし気まずい。
クッキーが残り三分の一くらいになった頃、背後の安元さんが動く気配がした。ようやく移動してくれるかと思ったそのとき、予想外のことが起きた。
うなじに、柔らかくて濡れたものが触れた。生暖かい息が首筋をくすぐる。ちゅ、と音を立てて離れていったそれに、顔が熱くなる。
「ほい、ごほーび」
「安元さん!!」
「ははっ」
どういうノリ!?
急いで項を手で隠し、安元さんを睨みあげる。顔が赤くなってるだろうから、なんの凄みも無いだろう。無念。
まだ首に、安元さんの感触が残っている。いつまで経っても、この上司のことが理解できそうになかった。
衝撃的な出来事に気を奪われ、ぼーっしながら家に帰ったら、クラゲさんにジト目で見られた。どうしたんだろう。
その日は久々に吸盤攻めされた。腕とか胴とか、アレなところとかを散々弄られて、一回気絶してしまった。入念に項を吸盤で吸われて、擽ったくて死ぬかと思った。
「お前の恋人って、もしや男?」
「えっ?」
「いや、女にしては……なんというか……」
次の日。首筋に色濃く残った痕を見た同僚が、さらなる勘違いを広げていた。まあ、女はなかなかここまで独占欲見せないよね。
向こうが気まずそうにしているのを利用して、その話はさり気なく流してやった。深入りされても何も話せないし。
その日から、田川の中の俺は独占欲強めの彼氏に束縛されてる男という認識になった。
吸盤攻めの痕が濃くなった身体は、見た目通りに疲弊していた。風呂に入るといつも通り腕を絡めてくるクラゲさんに、げんなりしながらこう言った。
「もー、今日は疲れてるんだって。エロいことは今日はしたくないの」
ぺしぺし水面を叩くと、触手がそろそろと離れていく。よし、それでよろしい。
肩の力を抜いて、クラゲさんによりかかる。今日は湯を楽しむ日にしよう。偶にはこういうのもいいな。
ちらりとクラゲさんの顔を見上げる。
あっ、悲しそう……。
どうやらクラゲさんにとってあの行為は、コミュニケーションと同等の認識があるらしい。あの行為がないと、寂しさを感じてるようだった。
でもなあ、正直今日の俺は行為に耐えられるほどの体力は無い。主に、昨晩のクラゲさんのせいだけど。だからこれはクラゲさんの自業自得なのだ。
……だけど、ちょっと可愛そうかも。
目をわなわなさせてるクラゲさんがかわいそうだけど、そんな姿が可愛いとさえ思う。
どうしようかと迷った末、水面に口づけを落とすと、クラゲさんの目が一瞬大きくなった。彼から急いで顔をそらして、再び湯に肩まで浸かる。
「これ我慢して」
その日のお風呂は穏やかだったから、機嫌を治すことに成功したんだと思う。
「あれ、鍵田。まだ残っていたのか」
外はもう暗くなってきている。安元さんに話しかけられて、初めて気づいた。
「もう少しで一段落つくので、これが終わったら帰りますよ」
「おー。気をつけて帰れよ。そうだ、頑張りやの鍵田にご褒美をやろうな」
ほい、と渡されたのはチョコレートクッキー。これ、俺が好きなやつだ。
思わず笑みを浮かべていたら、上司がこちらを凝視する気配がした。まずい。菓子で喜ぶなんて子供っぽいと思われただろうか。視線に気づかないふりをして、差し入れのクッキーを齧る。うん、甘い。脳に糖分が行き渡ってる感じがする。
というか、安元さんはいつまでここに居るつもりなんだろう。後ろにいられると怖いし気まずい。
クッキーが残り三分の一くらいになった頃、背後の安元さんが動く気配がした。ようやく移動してくれるかと思ったそのとき、予想外のことが起きた。
うなじに、柔らかくて濡れたものが触れた。生暖かい息が首筋をくすぐる。ちゅ、と音を立てて離れていったそれに、顔が熱くなる。
「ほい、ごほーび」
「安元さん!!」
「ははっ」
どういうノリ!?
急いで項を手で隠し、安元さんを睨みあげる。顔が赤くなってるだろうから、なんの凄みも無いだろう。無念。
まだ首に、安元さんの感触が残っている。いつまで経っても、この上司のことが理解できそうになかった。
衝撃的な出来事に気を奪われ、ぼーっしながら家に帰ったら、クラゲさんにジト目で見られた。どうしたんだろう。
その日は久々に吸盤攻めされた。腕とか胴とか、アレなところとかを散々弄られて、一回気絶してしまった。入念に項を吸盤で吸われて、擽ったくて死ぬかと思った。
「お前の恋人って、もしや男?」
「えっ?」
「いや、女にしては……なんというか……」
次の日。首筋に色濃く残った痕を見た同僚が、さらなる勘違いを広げていた。まあ、女はなかなかここまで独占欲見せないよね。
向こうが気まずそうにしているのを利用して、その話はさり気なく流してやった。深入りされても何も話せないし。
その日から、田川の中の俺は独占欲強めの彼氏に束縛されてる男という認識になった。
吸盤攻めの痕が濃くなった身体は、見た目通りに疲弊していた。風呂に入るといつも通り腕を絡めてくるクラゲさんに、げんなりしながらこう言った。
「もー、今日は疲れてるんだって。エロいことは今日はしたくないの」
ぺしぺし水面を叩くと、触手がそろそろと離れていく。よし、それでよろしい。
肩の力を抜いて、クラゲさんによりかかる。今日は湯を楽しむ日にしよう。偶にはこういうのもいいな。
ちらりとクラゲさんの顔を見上げる。
あっ、悲しそう……。
どうやらクラゲさんにとってあの行為は、コミュニケーションと同等の認識があるらしい。あの行為がないと、寂しさを感じてるようだった。
でもなあ、正直今日の俺は行為に耐えられるほどの体力は無い。主に、昨晩のクラゲさんのせいだけど。だからこれはクラゲさんの自業自得なのだ。
……だけど、ちょっと可愛そうかも。
目をわなわなさせてるクラゲさんがかわいそうだけど、そんな姿が可愛いとさえ思う。
どうしようかと迷った末、水面に口づけを落とすと、クラゲさんの目が一瞬大きくなった。彼から急いで顔をそらして、再び湯に肩まで浸かる。
「これ我慢して」
その日のお風呂は穏やかだったから、機嫌を治すことに成功したんだと思う。
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