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29 エピローグ
しおりを挟む彼と思いが通じたあの夏から、6年が経った。あれから俺はカフェでバイトをしながら、大輝と同居を続けている。恋人の形はもちろん変わっておらず、喧嘩はたまにすることはあれど仲睦まじく暮らすことができていた。
大輝は無事大学を卒業して就職し、みきちゃんは花の高校生になった。時間の流れというものは早い。すっかり成長した二人を見ながら、つくづく思うのだ。
みきちゃんとの交流は今の今までずっと続いていた。まあ、平日はほぼ毎日会うから、最近は大輝よりも俺の方がみきちゃんと会っている気がする。
というのも、俺が働かせてもらっているカフェはみきちゃんのお家が経営しているお店なのだ。困っている俺を見かねたみきちゃんが、両親に掛け合ってくれたのである。みきちゃんもそのご家族も優しすぎて、初出勤日では涙が出そうになった。
みきちゃんは学校帰りに、店の客席に訪れて度々夕食を食べている。今日も普段と同じく店に訪れてきたのだが、何故か今日は様子がおかしい。
「とらまるも大輝くんも、酷いんだから!私に隠し事ばっかりして……あーあ、もうやけ食いしちゃおっかなー」
どうやら、俺と大輝がみきちゃんに隠し事をしていることへの不満が爆発しているらしい。もしかしてここに来る前に、大輝に何か言われたのだろうか。因みに、隠し事の大半は俺と大輝が恋人同士であるということである。
……そろそろ、俺と大輝が恋人同士って打ち明けてもいいのだろうか。みきちゃんも大輝への想いは完全に吹っ切れているようだし。うーん……でも、大輝はみきちゃんにまだ言いたくないみたいだし。
「荒れてるね、みきちゃん。食べ過ぎは身体に良くないよ」
「誰のせいでこうなってると思ってるの?本当、とらまるは女心っていうのをいつまで経っても理解できないよね」
幼き頃よりも毒舌になったみきちゃんの言葉に、胸が痛くなる。女心の件は前世から気にしていることだからやめて。
「あーあ……とらまるは天然だし、大輝はいつまで経っても私のことをガキ扱いしてくるし…。こまったものだわ」
俺が天然とか恐ろしいことが聞こえた気がするが、気のせいだろう。
みきちゃんはそう言ってため息をつくと、たった今俺が配膳したケーキを食べだした。
「……ねえ、ところでさ」
「うん?」
「とらまるって、カノジョいなさそうだよね」
突拍子もない言葉に、首を傾げる。わりと失礼なことも言われた気がする。確かに、"彼女"はいないけど。
「うん、いないよ」
「ふーん」
みきちゃんは興味なさげにそう言うと、黙々とケーキを食べ始める。彼女が何も話さなくなったので、仕事に戻ろうとキッチンに向かって歩き出そうとしたとき。
片手をみきちゃんに引っ張られた。
「ん……?」
足を止めて目をパチパチさせていると、みきちゃんはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。首元のネクタイを掴まれて、腰掛けている彼女のもとに引き寄せられる。その瞬間、小さな温もりを頬に感じた。
はあ……?
その温もりは、キスをされたからだということに数秒経って気づく。何事もなかったかのように再びケーキと向き合う彼女を呆然と見ていると、がたんという音が店の入り口から聞こえてきた。
目を向けると、仕事用のバッグを床に落として俺たちの方を凝視する大輝の姿がある。
「何やってるの、二人共……?」
浮気の現場を見られたような、そんな心情だ。慌てて否定しようとしたその時、俺よりも先にみきちゃんが割って入るように答えた。
「大輝くんにはひみつ!」
その言葉を聞いた瞬間、大輝の顔から感情が抜け落ちていくのを見て、俺は叫びだしたい衝動に駆られた。
……もう、二人のことで巻き込まれるのは勘弁してくれ!
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