30 / 30
大輝side 番外
しおりを挟む
住宅街の片隅にお行儀よく座っていたあの猫に、目を奪われた。
空の色と同じ青色の瞳を見て、なにか運命のようなものを感じたのだ。もしもあの子がみきちゃんの腕で眠らず、連れていけなかったとしても。俺は何度でもあの猫を探しにあの路地を訪ねたと思う。
あのか弱そうな猫のことを、見捨てたくないと思ったのだ。
身体を洗い病院でノミ取りしてもらって、すっかり普通の家猫になったとらまるはとても美しい白い毛並みを持っていた。雲のように白くてふわふわしてて、目に入ると思わず手が伸びた。撫でると嬉しそうに目を細めてくれるからいっぱい撫でたくなってしまう。本当に可愛い子だ。
随分人馴れしている猫だったけど、抱っこは頑なに嫌がった。もしかして、昔悪い人間に連れ去られそうになったことがあったりするのだろうか。とらまるはとにかく、俺に主導権を渡すのを恐れているように見える。彼が安心して暮らせるように、俺は彼が嫌がることを極力しないように努めた。
・
・
・
まさかとらまるが人間になった挙げ句、俺のお嫁さんになりたいと言い出すなんて誰が予想できただろうか。そんなことがあるなんて、夢の中くらいじゃないと起きないと思っていたけれど、夢じゃなかった。本当にびっくりした。
そもそもあの子、お嫁になるとか言ってるけど、自分が男の子だってちゃんとわかっているのだろうか?
動物って生まれた環境次第では自分のことでも勘違いしてしまうことがあるらしいから、とらまるも自分のことを女だと思っているのかもしれない。男同士でどうこうなりたいとか気軽に言う事じゃないって、あの子はわかっていないんだろうな。
……でも、男であるとらまるにああいうこと言われても、不快な気持ちは一ミリも湧いてこなかった。
・
・
・
ある日洗濯物を干していると、とらまるが背中にくっついてきた。俺が家事をしているときに甘えてくるなんて珍しい、と思い振り返ると、彼は俺に何かを手渡してきた。
これは……、四つ葉のクローバー?
そういえばうちの庭には、シロツメクサが咲く場所があるんだった。きっとそこから探してきてくれたのだろう、けど。
猫って四つ葉とか知っているのか?
「だいきー」
無邪気に笑うとらまるに、何を言えばいいかわからなくなってしまった。聞きたいことは山ほどあるんだけどなぁ。
でも、彼が俺のためにクローバーを摘んできてくれたということは間違いない。優しく笑ってお礼を言うと、とらまるは機嫌良さそうに身体を揺らした。
「すーき!ふははっ」
幼子のように笑いながらどこかに走っていく彼の背中を見届けながら、彼の気まぐれを愛おしく思った。
……うん。本当にあの子は、出会ったときからずっとかわいいやつだ。
空の色と同じ青色の瞳を見て、なにか運命のようなものを感じたのだ。もしもあの子がみきちゃんの腕で眠らず、連れていけなかったとしても。俺は何度でもあの猫を探しにあの路地を訪ねたと思う。
あのか弱そうな猫のことを、見捨てたくないと思ったのだ。
身体を洗い病院でノミ取りしてもらって、すっかり普通の家猫になったとらまるはとても美しい白い毛並みを持っていた。雲のように白くてふわふわしてて、目に入ると思わず手が伸びた。撫でると嬉しそうに目を細めてくれるからいっぱい撫でたくなってしまう。本当に可愛い子だ。
随分人馴れしている猫だったけど、抱っこは頑なに嫌がった。もしかして、昔悪い人間に連れ去られそうになったことがあったりするのだろうか。とらまるはとにかく、俺に主導権を渡すのを恐れているように見える。彼が安心して暮らせるように、俺は彼が嫌がることを極力しないように努めた。
・
・
・
まさかとらまるが人間になった挙げ句、俺のお嫁さんになりたいと言い出すなんて誰が予想できただろうか。そんなことがあるなんて、夢の中くらいじゃないと起きないと思っていたけれど、夢じゃなかった。本当にびっくりした。
そもそもあの子、お嫁になるとか言ってるけど、自分が男の子だってちゃんとわかっているのだろうか?
動物って生まれた環境次第では自分のことでも勘違いしてしまうことがあるらしいから、とらまるも自分のことを女だと思っているのかもしれない。男同士でどうこうなりたいとか気軽に言う事じゃないって、あの子はわかっていないんだろうな。
……でも、男であるとらまるにああいうこと言われても、不快な気持ちは一ミリも湧いてこなかった。
・
・
・
ある日洗濯物を干していると、とらまるが背中にくっついてきた。俺が家事をしているときに甘えてくるなんて珍しい、と思い振り返ると、彼は俺に何かを手渡してきた。
これは……、四つ葉のクローバー?
そういえばうちの庭には、シロツメクサが咲く場所があるんだった。きっとそこから探してきてくれたのだろう、けど。
猫って四つ葉とか知っているのか?
「だいきー」
無邪気に笑うとらまるに、何を言えばいいかわからなくなってしまった。聞きたいことは山ほどあるんだけどなぁ。
でも、彼が俺のためにクローバーを摘んできてくれたということは間違いない。優しく笑ってお礼を言うと、とらまるは機嫌良さそうに身体を揺らした。
「すーき!ふははっ」
幼子のように笑いながらどこかに走っていく彼の背中を見届けながら、彼の気まぐれを愛おしく思った。
……うん。本当にあの子は、出会ったときからずっとかわいいやつだ。
36
お気に入りに追加
154
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
えっ…!やばいです( ´›ω‹`)
可愛いすぎて…私の中の感情が暴走しております…!幸せです…(*´˘`*)♡
感想ありがとうございます〜!とても嬉しいです!
幸せを感じていただけたようで何よりです⸜(* 'ᵕ' *)⸝