白猫の嫁入り

キルキ

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19 風邪

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まぶたを開けると、目の前に床があった。思い切り打ち付けてしまったようで、体中が痛い。

のそりと起き上がって背後を見れば、2階へ続く階段があった。ああ、やっぱり最後まで意識を保てなかったんだな。途中から転げ落ちちゃったみたいだ。
でも、下まで辿り着けたのなら一先ず安心。立ち上がったとき一瞬頭がくらっとしたけど、無理やり足を動かして玄関に向かった。あ、猫耳と尻尾は隠したほうがいいな。

大輝の帽子を借りて、しっぽはむりやりズボンに押し込んだ。耳はまだしも、しっぽは膨らみでバレそうだなぁ。大きめのズボンを探して、やっとのことで外に飛び出し住宅街を歩く。靴は大輝のものを借りたけど、サイズがあってないから歩きにくい。

ふらふらしながら住宅街を徘徊していると、前方に一人の女性を見つけた。

「あの……っ、すみません!」
「あら、どなたかしら」
「俺、大輝の友達……っていうか、同居人なんですけど……」
「大輝くんのご友人なの?」

よかった、大輝のことを知っているみたいだ。

事情を話すと、「大輝のお家で待っててね」と言ってすぐに買い物に行ってくれた。た、頼もしい……!

お家の玄関でそわそわしながら待ってると、15分後くらいに女性は家に来てくれた。本当に良かった。

家主の許可なしに他人を家に入れるのは少し気になったけど、やむを得ない。後でいっぱい謝っておこう。

テキパキ動く女性の手伝いをしながら、少しだけ彼女と話をした。女性は、初日に俺が行った動物病院の医者の奥さんだったみたいだ。素晴らしい偶然に、俺は神様に感謝した。それなりに関わりのある人間だったみたいで、めちゃくちゃ安心だ。

卵がゆ、薬、体温計、氷枕等々を二人で準備して、再び2階に上がる。例のごとく卒倒しそうになったが、女性の腕を握ることでなんとか耐えた。セクハラにならないといいけど。

「とらまるくん、顔真っ青だけど大丈夫?あなたも風邪を引いちゃったんじゃないかしら」
「だだだ大丈夫です本当に。さっき階段から落ちたせいかなハハハハハ」
「落ちたの!?大変!あなたも後で手当しないといけないわね」
「い、いやそんな酷くない……」
「医者の妻に口答えするつもり?いいから、大人しくお世話されていなさい」

ごめんなさい……。

なんか、母親と接しているような気持ちだ。彼女は完全に俺を、言うことの聞かない子供のように思ってるみたいだし。俺ってそんなに幼いか?





「大輝くん。よかった、目が冷めたのね」
「あ……」

昼過ぎになって、ようやく大輝が目を覚ました。部屋の隅っこに座ってずっと彼の様子を見守っていた俺は、すぐに二人のところに駆け寄った。奥さんと同様にベッドに腰掛けて、彼の様子をうかがう。

大輝は状況が読み込めず困惑した様子だった。だって、顔見知りとはいえ家に入れたはずのない人が眼の前にいるからな。

奥さんは大輝が起きると、少し冷めてしまった卵がゆを大輝に渡した。病人には丁度いい温度になっているだろう。

ベッドから上半身だけ起こした大輝が、匙を持ってゆっくり粥を食べだした。食べる元気があるみたいで、良かった。食欲が無いと食べるのが苦痛だからね。

「あ、ありがとうございます、本当に。いつからここに……?」
「今朝買い物に出ていたら、慌てた様子のとらまるくんがあなたの様子を伝えてきたのよ。急なことだからびっくりしたわ……。ああ、熱はだいぶ下がっているけど、もうひと踏ん張りってところね。今夜ゆっくり寝たら、回復すると思うわ。洗濯機の中に入れっぱなしになってた洗い済みの服はもう一回洗って干してあるから安心して」
「はい……ありがとうございます」
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