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18 風邪
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部屋を出てすぐのところにある階段に、恐る恐る近づく。ちらりと一階につながるそこを見るだけで、"ヒイィィ"という情けない声が出る。
どうしよう。やっぱり他の方法を探すべき?でも、窓から顔を出して助けを呼ぶのはさらに無理だし。病人の隣で大声出すっていうのも、体に障りそうだよな。第きには申し訳ないけど一度起きてもらって、スマホのパスワードを聞き出して見る?
やっぱり部屋に戻ろう。そう思って部屋の方を振り返ったとき、ベッドから布が擦れた音がした。
「かあさん……」
「……!」
掠れた大輝の声に、急激に脳みそが冷えていく感覚がした。
両親がいたときはお母さんに看病をしてもらっていたのかな。だから母親の夢でも見ているのかもしれない。でも……いくら彼が焦がれても、想い慕う人がここに来ることは永遠にない。
大輝にはもう、俺しか居ないんだ。
───俺の新しい家族なんだ
仏壇に向かって話しかける大輝の姿が脳裏に蘇った。俺を家族にしてくれた人。俺を一人じゃなくしてくれた人。こんなにも優しい人のために、俺が頑張らない理由はどこにある?
「……くっそ、腹括るか」
たった一人の飼い主のために、いっちょ頑張ってみようか。
◇
連日出勤は辛い。なかなか睡眠時間が取れない、取れたとしても疲れたときの睡眠ってあっという間だからすぐに朝が来てしまう。朝=出勤&仕事だから、目を覚ましてしまえば二度とお布団に戻ることはできない。かなしい。休めるときに休んでおかないと、仕事中に倒れてしまいそうだ。
そんな激務の中でも、出張で海外に行くことは珍しいことじゃなかった。だから、飛行機に乗ることもなれていた。移動中に眠っておこうと思って、機体に乗り込んで早々微睡んでいた。もう少しで意識を手放す、その直前のこと。世界が急激に傾いたのだ。
いや、正しく言うと、傾いたのは旅客機だ。
『機内トラブルが発生いたしました。復旧まで席でお待ち下さい』
『シートベルトの着用をご確認し、今しばらくお待ち下さい』
『当機はこれより、緊急着陸体制に入り───』
───エンジントラブル発生、修復不可能
がくりと全てが傾いて、絶望あふれる浮遊感に意識が遠くなる。誰かの悲鳴や乗務員と思われる男性の焦ったような声を遠くに聞きながら、そのまま目の前が暗くなった。
辛うじて幸いだったのは、早い段階のうちに気絶できたことだろう。あの後のことを想像すれば、地獄絵図が待っていたに違いない。
猫に転生した後も、死ぬ前の感覚が身体に染み付いて離れなかった。高い場所は落ちたときの死に様を連想してしまうし、浮遊感を感じると航空機の中を思い出して吐き気がした。
そういえば、もしもあの後もう何日生きていたら、誕生日を迎えられたんだった。仕事が忙しすぎて忘れていたけど、最後に頑張った自分にケーキでも買ってやればよかったなぁ。もちろん、家族の分も一緒に買って。
どうしよう。やっぱり他の方法を探すべき?でも、窓から顔を出して助けを呼ぶのはさらに無理だし。病人の隣で大声出すっていうのも、体に障りそうだよな。第きには申し訳ないけど一度起きてもらって、スマホのパスワードを聞き出して見る?
やっぱり部屋に戻ろう。そう思って部屋の方を振り返ったとき、ベッドから布が擦れた音がした。
「かあさん……」
「……!」
掠れた大輝の声に、急激に脳みそが冷えていく感覚がした。
両親がいたときはお母さんに看病をしてもらっていたのかな。だから母親の夢でも見ているのかもしれない。でも……いくら彼が焦がれても、想い慕う人がここに来ることは永遠にない。
大輝にはもう、俺しか居ないんだ。
───俺の新しい家族なんだ
仏壇に向かって話しかける大輝の姿が脳裏に蘇った。俺を家族にしてくれた人。俺を一人じゃなくしてくれた人。こんなにも優しい人のために、俺が頑張らない理由はどこにある?
「……くっそ、腹括るか」
たった一人の飼い主のために、いっちょ頑張ってみようか。
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連日出勤は辛い。なかなか睡眠時間が取れない、取れたとしても疲れたときの睡眠ってあっという間だからすぐに朝が来てしまう。朝=出勤&仕事だから、目を覚ましてしまえば二度とお布団に戻ることはできない。かなしい。休めるときに休んでおかないと、仕事中に倒れてしまいそうだ。
そんな激務の中でも、出張で海外に行くことは珍しいことじゃなかった。だから、飛行機に乗ることもなれていた。移動中に眠っておこうと思って、機体に乗り込んで早々微睡んでいた。もう少しで意識を手放す、その直前のこと。世界が急激に傾いたのだ。
いや、正しく言うと、傾いたのは旅客機だ。
『機内トラブルが発生いたしました。復旧まで席でお待ち下さい』
『シートベルトの着用をご確認し、今しばらくお待ち下さい』
『当機はこれより、緊急着陸体制に入り───』
───エンジントラブル発生、修復不可能
がくりと全てが傾いて、絶望あふれる浮遊感に意識が遠くなる。誰かの悲鳴や乗務員と思われる男性の焦ったような声を遠くに聞きながら、そのまま目の前が暗くなった。
辛うじて幸いだったのは、早い段階のうちに気絶できたことだろう。あの後のことを想像すれば、地獄絵図が待っていたに違いない。
猫に転生した後も、死ぬ前の感覚が身体に染み付いて離れなかった。高い場所は落ちたときの死に様を連想してしまうし、浮遊感を感じると航空機の中を思い出して吐き気がした。
そういえば、もしもあの後もう何日生きていたら、誕生日を迎えられたんだった。仕事が忙しすぎて忘れていたけど、最後に頑張った自分にケーキでも買ってやればよかったなぁ。もちろん、家族の分も一緒に買って。
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