白猫の嫁入り

キルキ

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17 風邪

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大輝のベッドを自分のものにして、寝床と取られた飼い主の反応を見てやろうと彼の帰りを待った。暫くして大輝はスマホで誰かと通話をしながら、部屋に戻ってきた。何やら急いでいるような、焦っているような感じだった。

急いで服を引っ張り出して部屋着から外着に着替えていく大輝を呆然と見ていると、通話を終えた大輝は俺に向かってこう言った。

「ごめん、バイト先でトラブルが起きたみたい。ヘルプに行ってくるから、いい子で待っててね」

え、今から??

声をかける暇もなく、大輝は慌ただしく部屋を出ていってしまった。やがて玄関からドアの締まる音が聞こえた後、家が静寂に包まれる。

なんか、肩透かしを食らった気分だ。仕返しをしてやりたかったのに、間が悪かったせいで触れられもしなかった。

……もう、ふて寝してやろう。

どうせ大輝が居ないと一回に降りることもできないし。俺が眠っている間にも帰ってきてくれるだろうし。俺はもう寝るからな!

布団に潜って背を丸める。大輝の匂いに包まれると同時に、口の中が少し痛んだ。





なんか、苦しい……

息苦しさで目を覚ます。カーテンの隙間からは、朝を知らせる太陽の光が差し込んでいた。だんだん明確になっていく視界と思考。

息苦しさの正体はすぐに判明した。昨晩いきなり俺をおいてバイトに行った大輝が、俺にのしかかって寝息を立てていたのである。いつの間に帰ってきたんだろう、全然気づけなかった。

そろりと慎重に大輝から抜け出して、ベッドから降りる。無事に起こさず抜けれたことにほっと息を吐いた時、大輝の様子がおかしいことに気がついた。

苦しそうな呼吸に、赤みがかった顔。寝ているのに時折、けほけほと咳を出していた。

「…………」

額に手のひらを当てると、明らかに高くなっている体温が直に伝わってきた。まじか。

大輝が風邪をひいてしまった……

ここに来て初めての事件に、俺はピシャリと立ち尽くした。

「どうしよう…俺、看病とかしたことない」

とりあえずそのへんにあったタオルを濡らして額に置いてみたけど、当然これだけで状況が良くなるわけではない。

薬箱も体温計がどこにあるかもわからないし……。お粥とか作ったほうがいいかな。でもそのためには一回に降りないといけないし、そもそも箸も握れない今の俺が料理なんてできるの?料理の知識は覚えているけど、慣れないことをして事故でも起こしたら却って状況が悪化するだろう。

まずい、大輝にずっと甘えっぱなしで怠けていた愚行が今まさに効いている。俺はなんにもしてやることができないんだ。

俺ではきっと上手く看病できないから、他の人に助けを呼んだほうがいいな。そう思って最初にしたことは、大輝のスマホの電源をつけることだった。

しかし俺の目論見は失敗に終わる。スマホで誰かにメールしようと思ったけど、丁寧にロックがかけられていた。当てずっぽうにパスワードいれてデータ初期化とかなったら申し訳ないし、スマホを使うことは諦めよう。

だったら、俺が外に出て直接誰かに助けを求めるしかない。大輝は人当たりがいいから、ご近所さんとも良好な関係を保っているはずだ。頼んだらきっと誰かが助けてくれるはず……なのだけれど、ここで一つ問題がある。

一人で階段を降りないといけないのだ。

「まじか……絶対無理だってぇ……」
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