白猫の嫁入り

キルキ

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15 日常

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なんだろうこれ。えーと、手紙の差出人は……"みきより"。みきちゃんから貰った手紙か。

手紙の内容はありきたりのないものだ。今日は学校で縄跳びをした。給食で苦手なものが出た。数学のテストで100点を取った。みきちゃんの優しい気持ちがすごく伝わってくる。前世での妹を思い出して、少し泣けてきた。鶴や猫、ヘビなど様々な動物の形をした折り紙が机に飾られていた。これもきっとみきちゃんが大輝にあげたのだろう。

あれくらいの歳の子は、敬愛を"恋愛感情"として捉えてしまうことがある。だからもし仮にあの子が告白して振られたとしても、大人になればよき思い出となるはず……と思っていたんだけどな。

こうして直接彼女の想いの形を目にすると、胸に来るものがある。みきちゃんの想いを伝えると意気込んでおいて、一番彼女のことを理解できていなかったのは俺だったのだ。どんな形であれ、みきちゃんが大輝のことを大好きなことに変わりはない。

あの子、振られたらすごく傷つきそうだなぁ。

……どうすればいいんだろう。

このまま彼女の想いが冷めていくのを待てば誰も傷つかないんだけど、恋心が消えると限らないし。仮にそうだとしても俺の使命が果たせなくなる。

やっぱりあの子に告白してもらうしかないかぁ。

「はーあ……神様が余計なことをしなければこんなに悩まなくて済むのに。いや、そもそもあの子があんな願い事を俺にしなければ……」

大輝が居ないから、言いたい言葉がそのまま口から出てくる。

改めて辺りを見渡すと、部屋はそこそこ整頓されていた。大学生にしては物が少ないけど、至って普通の男子大学生の部屋だ。ベッドの脇に置かれた、小さな仏壇以外は。

「……誰だろう、この人たち」

二人の男女の写真が置いてある。目を凝らしてよく見れば、大輝にどことなく似ている気がした。えっ、これってもしかして?

「とらまる?」

背後から大輝の声が聞こえて飛び上がった。何も悪いことはしてないのに、やましいことをした気分になる。勝手に見てごめん。

片手に薬箱を持った大輝が、俺の視線の先を目で追う。

「ああ、写真を見てたのか。その人たちは、俺の家族なんだ。父さんと母さん。ふたりとも数年前に亡くなったんだ。……よかったら挨拶してあげて」

ああー、やっぱりそうだよなぁ。……辛いな…………。

続けて話を聞いたところ、両親がなくなってからは親戚のところで世話になっていたらしい。しかしあまり歓迎されてなかったから、大学入学をきっかけに縁を切る覚悟で家を出たと言う。思い切ったことをするものだ。

「父さん、母さん。この子がとらまるだよ。俺の新しい家族なんだ。本当は猫だったんだけど……この話は長くなるから、また今度ね」

喋らない俺の代わりに、大輝が仏壇に向かって話し始める。ずっとこうして話しかけてきたのだろうか。

家族が一番だった俺には、痛いほど彼の気持ちがわかる。一人は辛いし、寂しい。

「二人にはいつか会わせてやりたいって思っていたんだ。だから、今日とらまるが俺の部屋に来てくれて嬉しいよ」

家族は側にいないとだめなんだ。だから、こんな───こんなことはあってはいけない。


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