白猫の嫁入り

キルキ

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14 日常

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声にならないうめき声を上げると、即座に大輝に気づかれてしまった。直ぐにコップの水を口に含んだけど、やっぱり舌がじくじく痛みだす。うわあ、最悪。

「うー……大輝ぃ」
「ごめん、もっと冷めてから呼べばよかったね。お口の中見せてくれる?」

俺の自業自得なんだから大輝が謝る必要ないのにな。

ひりひりする舌を口から出して冷たい空気に触れさせていると、幾分ましになる。正面から顎を優しく掴まれて、上に向かされた。

「あーんして」
「んにゃ……」
「舌を火傷してるな……そんなに酷くはなさそうだね。今から流水で冷やそうか。ご飯を食べ終わって歯磨きしたら、薬を塗ってあげる」

薬を塗るなんて大袈裟な……でも、大輝はすごく俺を心配しているようだし。うー、面目ない……。

火傷したところを冷やして、再び食卓に戻る。大輝が食べさせようとしてくるのを押し払って、今度は注意を払って自分でシチューを食べた。

せっかくの食事なのに、怪我をしてしまったのは残念だったなあ。

夕飯を食べ終わると、俺が歯磨きをしている間に大輝が薬を探しに行った。なかなか見つけられないようで、長いこと彼は部屋を歩き回っていた。歯磨き終わっちゃったよ。

もう薬は塗らなくていいよと言ってあげたいところだが、例の呪縛があるせいで伝えられない。おろおろしながら大輝の側をうろちょろすることしかできなかった。

「薬がないなぁ……。二階の救急箱に入れたのかなぁ。少し待っててね」

二階、という単語が出てぴんと耳が立った。二階には物置きと、大輝の自室がある。

俺と彼はいつも別の部屋で眠っている。心配性の彼はあまり俺を一人にしたくないみたいだけど、今のところ俺は一階の敷布団で寝る生活を送っていた。その理由は彼が一人の空間を好んでいるというわけでは無い。

原因は俺だ。高いところが苦手な俺は、階段を登りきることができない。だから、大輝の部屋に入ったことすらもなかった。

……大輝の部屋に行けたら、今よりもっと彼のことが知れるだろうか。

「わ、どうしたの急に……一緒に行きたい?」

階段へ向かう大輝の腕をつかんで引き止める。彼の言葉にうなずいて返せば、大輝は驚いたように目を見開いた。

あー、やっぱり驚くよな。だっていままで頑なに行こうとしなかったんだから。





大輝の腕にひっついて、ガクブルしながら一歩一歩階段を登っていく。下を見たくないのに気になって気になって仕方がなかったから、最終手段として大輝の腕に顔を埋めながら歩いた。力技はやっぱり強い。

「あと少しだから、俺のことしっかり掴んでいて」

その声に促されるがまま、ぎゅーっと服を握りしめた。やっとのことで二階に着くと、ゼエハアしながら床に崩れ落ちる。き、気絶するかと思った……。

「よく頑張ったね」と大輝が頭をなでてくれたから、少し回復した。俺は褒められて伸びる子。

そして、ようやく大輝のお部屋とご対面である。洋風のドアが開かれて、シンプルなデザインの部屋の家具が見えた。

「物置きで薬探してくるから、俺の部屋で寛いでてよ」

大輝は隣の部屋の物置に向かったので、一人で部屋を見て回ることにする。使い古された勉強机には難しそうな教科書と、可愛らしい色の折り紙や手紙が置かれていた。薄く開いた引き出しの中にも、似たような色の紙が入っている。
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