白猫の嫁入り

キルキ

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12 日常

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「あれれ。前はあんなにお風呂好きだったのに、どうしてこんなに嫌いになったんだろうなぁ。ほら、一緒に入ってあげるからお風呂に行こ?」

一緒に入らなくていいんです。

不機嫌そうな俺の顔を見て、大輝が苦笑いする。別に風呂は嫌いじゃない。むしろ、前世からずっと風呂に入るのが好きな方だった。

野良猫になってからはきれいな湯に入る機会がなくなっていたため、この家に来て温かい湯船に使ったときはとても感動した覚えがある。が、それは猫の姿だったときの話だ。

猫のときは常に裸だったから気にならなかったけど。人の姿になってとても思うことがある。

……他人に身体を洗ってもらうのって、めちゃめちゃ恥ずかしいな??

首を振って抵抗するが、大輝は俺より体格がでかく力も強いため、いつも力技で突破されてしまう。俺の踏ん張りなんて、彼にとっては障害にすらならないのだろう。人の体に慣れていないこともあるが、この姿の俺はあまり身体能力が高くないようだった。

今日もいつものごとく無理やり風呂に入れられてしまった。身体くらい自分で洗えるっていうのに、心配性な彼は道具一つ俺に持たせようとしない。

諦めて現実逃避をしながら、大輝の好きにさせる。あー、脇のところめちゃくちゃ擽ったいんだけど。胸元もあまり触られたくないし……。なんか、変な声が出そうになるんだよな。別のことを考えて気を紛らわすか。

1、3、5、7、11、13、17……素数を…素数を数えるんだ……。あれ、1って素数なんだっけどうだっけ。


ようやく湯船に入れてもらって一息つく。毎度毎度寿命が縮みそうだ。ぼうっとしていると、大輝の露わになっている胸元が目に入った。

……俺のと全然筋肉の付き方が違うなぁ。同じ男なのに。何を食べたらあんなふうに慣れるのかな。

髪を洗うために顔を伏せている大輝のうなじを指でなぞる。すると、大輝の肩がびくりとはねた。

「とらまる……!び、びっくりしたじゃん」

あ、ごめん。ついつい。

そういえば俺が人間になったときも、すぐに服を着せようとしていたな。顔真っ赤にさせながら、服を持ってきていたな。

……大輝って平然とした顔で俺の身体に触れてくるけど、本当はどう思ってるのかな。ドキドキしてくれていたり───は、しないか。そんな様子全く無いし。

そんなことを考えている間にも、俺の口から勝手に好き好き攻撃が発動していた。気を抜くと自分の意志関係なしに言っちゃうんだよな。

って、痛い痛い!なんで急にほっぺ抓られたんだ!?

「んぎゃ~!」
「もう、人の気も知らずに呑気だなお前は。……そういうこと、ほんっとうに他の人にやったら駄目だからね。本当にだめだよ?いいね、わかった?」
「にゃ……?」

そういうことって、何のことだ。と首を傾げたら、大輝が「約束破ったらおやつ抜き」と脅してきたので慌てて首を縦に振った。人間っていうのは勝手だ。


ようやく風呂が終わって、身体を拭いて服を着ていると、先に着替え終わっていた大輝が何かを手に部屋に入ってきた。

あれは……首輪じゃなくって、チョーカー?

「その身体だと猫用の首輪はつけれなさそうだから、買い替えたんだ」

首輪っぽいデザインが施された赤いチョーカーは、一歩間違えたら危ない感じになりそうだ。猫のときにつけていた首輪と似たものだったから、俺はひと目でそれを気に入った。

チョーカーなんて見たことも触ったこともなかったから、大輝にそれをつけてもらった。首に触れると、懐かしい革の感触。妙な安心感がそこにはあった。野良のときは、首輪なんて嫌悪の対象だったのになぁ。今ではそこにないと不安になるなんて。

「……えへへ。大輝、好き~」

首輪をつけて飼われるのも、うん、思っていたより悪くないな。っていうか、首輪をわざわざ新調してくれたんだ。なんか嬉しいな。

無意識にしっぽが揺れていたみたいだが、脳みそがほわほわしていた俺は全く気づかなかった。

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