白猫の嫁入り

キルキ

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11 日常

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尖ったものを俺に持たせようとしない大輝の目を盗んで、紙と鉛筆を手に入れたことがある。しかし上手に鉛筆を持つことができなくて、文字という文字を書くことが俺には難しかった。

紙に書いて意思疎通を図ろうという俺の目論見は呆気なく失敗に終わってしまったのである。つまり、八方塞がり。

自分の現状に項垂れていると、何を勘違いしたのか大輝が慌てたように頭を撫でてきた。

「ごめんごめん、ずっと勉強してたから疲れたよな。ほら、ご褒美のスイカだ。よく噛んで食べてね」

美味しそうなスイカを差し出される。俺が勝手に落胆していただけだから謝る必要なんてないのに。ああ、この優しさが身に染みる。

「大輝好き……」
「うん、ありがとう」

……でも、俺の言葉をそうやって聞き流すところは、少し気に入らない。

こっちはいつもそれを言うたびに恥ずかしくなってるっていうのに、平然と返されたらそれはそれでムカつく。俺の告白を挨拶と同じくらい軽いものに捉えないでほしい。

というか、大輝がこれ以上告白耐性つけたら、みきちゃんの想いが一生伝わらなくなるんじゃない?

つまりそれは俺の使命が果たされず、永遠とこの中途半端な人間の体でいなくちゃいけないわけで。それは困る。

「…………」
「ん、どうした?もっとスイカ欲しいのかな。……キッチンから取ってくるよ」

立ち上がろうとする大輝を引き止めるように、彼の膝に乗り上がる。そのまま大輝の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。耳元で彼の名前を呼んでやれば……、ほらこれって、好きっていうアピールになるんじゃない?

「……っ」

大輝の心音が伝わってくる。安心する体温に、だんだんウトウトしてきた。

飼い主とか恩人とか関係なしに、大輝のことがすごく好きだなあ。今世で一番気を許している人間だし、近くにいるとすごく安心する。

「……俺のお嫁さんになりたいの?」
「んー……。お嫁さんなる……」
「ちゃんと意味わかって言ってるのかなぁ。もー」

眠くなりすぎて、自分が何を言ってるのかわからない。辛うじて意識は保っていたけど、半分寝ているような感じだ。

あれ、何で俺、大輝とハグしてるんだっけ。

いつもよりちょっと早い時間だけど、もうお昼寝タイムにしようかなぁ。なんて思いながらまったりしていたところ、大輝のとある発言でぱちりと目が覚める。

「誰にでもそういうこと言ったらだめだからね?……とらまるは美人さんなんだから」

……美人?俺のことを言ってるんだよね?
え、俺って美人なの?

急に顔を上げて目をパチパチさせる俺に、大輝は困惑しながら首を傾げていた。





洗面台の鏡を前のめりになって見つめる。鏡の中には、天然パーマの白髪に青い目の男がいる。そいつは俺が思っていたよりも幼い顔立ちをしていた。高校生くらいに見える。

お、おれってこんな見た目をしてるんだ。確かに美人……だな。

前世とはまるきり別人な姿に違和感がある。俺が片手を上げると鏡の中の男も同じように片手を上げた。

じいっと観察していたら、後ろから首根っこを押さえられた。犯人は確認しなくてもわかる。

「とらまる。今日は早くお風呂に入ろうか。首元、スイカの汁で汚れちゃっているし」
「……」
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