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9 家猫
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当たり前だ。主語が抜けてるんだから。日本語っていうのは主語が欠けたら、誤解が産まれやすいっていうのに。どうして神様がそれをわかっていないんだ!
要するに俺は、みきちゃんの願いを叶えるために「大輝くん大好き」しか言えない身体になっているらしい。先程の俺のびっくり発言は、そのせいで起きた悲劇だ。
……大輝、どう思ったんだろう。きっと不快に思っただろうな。そもそも男同士だし。俺、半分猫半分人間だし。
ちらりと大輝の顔色をうかがう。もしも怒っていたらどうしよう。大輝に嫌われたら、けっこうヘコむ……って、おい。
なに、その顔
「だ、だいき?」
「~~っ」
なんでそんな、顔赤らめてんだよ。なにこのくすぐったい雰囲気は。つられてまた顔が熱くなってきたし。二人で赤面してるせいで部屋が少女漫画みたいな空気になってるし。
思いもしなかった反応に、声が詰まる。そんなになるまでにびっくりしたのだろうか。それとも、見かけによらず告白されたことがない純情男子だったのか?まずい、なんて言ってあげたら良いのだろう。
俺が大輝が好きなのは本当だけど、でもそういう意味は含まれていない"普通の好き"だ。だから、早く誤解を解いてあげないと。
そうだ、紙とペンさえあれば意思疎通できる!猫がなんで文字がかけるのかとか、そういうのは適当に嘘をでっち上げたらいいだろう。
「……だいき、」
「いいから服着ろ!ばか!」
「へぶっ」
大輝が投げたブランケットが、俺の顔面にクリーンヒットする。あぶない、舌を噛みそうになった。
大輝って、バカとかいう荒っぽい言葉話したりするんだ。優男っぽい印象があったから、少し驚いた。
顔からブランケットを退けると、そこに大輝の姿は無かった。バタバタという騒がしい足音が遠くから聞こえて、ため息をつく。
『困ったな。娘の気持ちはちっとも伝わってないようだ』
本当に困っているのかわからない声色で、神様は言う。
『つまりは、お前の伝え方が甘いということ。しばらく時間を与えるから、それまでに願いを叶えてやりなさい。さすれば、お前の要望も聞いてやろう』
『え、まって、もうどこかに行っちゃうの神様?待ってくれ、ちょっと俺の話を……』
『使命を忘れるなよ。ではさらば』
『このままだといつまで経っても使命が果たせないってば!ちょっと!』
その瞬間から、神様の声が聞こえなくなる。おいおい、これからどうすればいいっていうんだ。
打ちひしがれていると、ふすまの方から大輝がこちらを恐る恐る覗き込んできた。手に持っているのは、俺の服だろうか。俺のためにわざわざ探してきてくれたのか。
「これ、服だけど……」
俺の様子をうかがいながら、大輝がゆっくり近寄ってくる。彼の声色はいつもより俺を気遣うようなもので、違和感がすごい。
差し出された服を両手で受け取って、その場で身につける。下着にTシャツに半ズボン。全部大きめなサイズだったけど簡単な服装だったからすぐに着ることができた。
「と、とらまる……?」
「んにゃ、え、あ……」
ありがとう、って言いたいんだけど、ちゃんと言えるだろうか。多分無理だけど、一応試してみるか。
「好き……」
あっ駄目だこれ。
思うままにならない自分の声を聞いて、俺の平凡な生活はまだまだ程遠いということを悟った。
要するに俺は、みきちゃんの願いを叶えるために「大輝くん大好き」しか言えない身体になっているらしい。先程の俺のびっくり発言は、そのせいで起きた悲劇だ。
……大輝、どう思ったんだろう。きっと不快に思っただろうな。そもそも男同士だし。俺、半分猫半分人間だし。
ちらりと大輝の顔色をうかがう。もしも怒っていたらどうしよう。大輝に嫌われたら、けっこうヘコむ……って、おい。
なに、その顔
「だ、だいき?」
「~~っ」
なんでそんな、顔赤らめてんだよ。なにこのくすぐったい雰囲気は。つられてまた顔が熱くなってきたし。二人で赤面してるせいで部屋が少女漫画みたいな空気になってるし。
思いもしなかった反応に、声が詰まる。そんなになるまでにびっくりしたのだろうか。それとも、見かけによらず告白されたことがない純情男子だったのか?まずい、なんて言ってあげたら良いのだろう。
俺が大輝が好きなのは本当だけど、でもそういう意味は含まれていない"普通の好き"だ。だから、早く誤解を解いてあげないと。
そうだ、紙とペンさえあれば意思疎通できる!猫がなんで文字がかけるのかとか、そういうのは適当に嘘をでっち上げたらいいだろう。
「……だいき、」
「いいから服着ろ!ばか!」
「へぶっ」
大輝が投げたブランケットが、俺の顔面にクリーンヒットする。あぶない、舌を噛みそうになった。
大輝って、バカとかいう荒っぽい言葉話したりするんだ。優男っぽい印象があったから、少し驚いた。
顔からブランケットを退けると、そこに大輝の姿は無かった。バタバタという騒がしい足音が遠くから聞こえて、ため息をつく。
『困ったな。娘の気持ちはちっとも伝わってないようだ』
本当に困っているのかわからない声色で、神様は言う。
『つまりは、お前の伝え方が甘いということ。しばらく時間を与えるから、それまでに願いを叶えてやりなさい。さすれば、お前の要望も聞いてやろう』
『え、まって、もうどこかに行っちゃうの神様?待ってくれ、ちょっと俺の話を……』
『使命を忘れるなよ。ではさらば』
『このままだといつまで経っても使命が果たせないってば!ちょっと!』
その瞬間から、神様の声が聞こえなくなる。おいおい、これからどうすればいいっていうんだ。
打ちひしがれていると、ふすまの方から大輝がこちらを恐る恐る覗き込んできた。手に持っているのは、俺の服だろうか。俺のためにわざわざ探してきてくれたのか。
「これ、服だけど……」
俺の様子をうかがいながら、大輝がゆっくり近寄ってくる。彼の声色はいつもより俺を気遣うようなもので、違和感がすごい。
差し出された服を両手で受け取って、その場で身につける。下着にTシャツに半ズボン。全部大きめなサイズだったけど簡単な服装だったからすぐに着ることができた。
「と、とらまる……?」
「んにゃ、え、あ……」
ありがとう、って言いたいんだけど、ちゃんと言えるだろうか。多分無理だけど、一応試してみるか。
「好き……」
あっ駄目だこれ。
思うままにならない自分の声を聞いて、俺の平凡な生活はまだまだ程遠いということを悟った。
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