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8 家猫
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久しぶりの人の体に感動していると、廊下から大輝の足音が聞こえた。時計を見れば、普段大輝が目を覚ましている時間だった。
……あれ、これって、俺の姿見られちゃうんじゃない?まだ言い訳考えてないんだけど。
そう焦っている間にも足音はこちらに近づいてくる。結局何を言えばわからないまま、ふすまが開かれてしまった。
「おはよう、とらま……え、とらまる……?じゃ、ない?」
俺を見るなり困惑した様子の大輝に、申し訳無さが出てくる。急に見知らぬ男が全裸でいたらびっくりするよね。
いやでもここは、俺がとらまるだってわかってもらえるほうがいいかもしれない。大輝に見せつけるように白いしっぽを振ると、彼は目をパチパチさせた。
「とらまるが、人間に……?……夢でも見てるのか?それとも、そんなに疲れているのかな……昼寝したほうがいいかも……」
夢ではないし幻覚でもない!どうしたら伝わってくれるのかな。
……そうだ、俺って今人間の口があるんだ。だったら、言葉で説明したほうが手っ取り早くない?なんで今の今までこのことに気づけなかったんだ。
はじめましてから言おう!そして、自己紹介をして"いつもお世話になっております"とお礼を言って、今後のことについて話し合って……社会人の対応を猫がいきなりしたらしたら驚かれそうだな。じゃ、じゃあ、何を言ったらいいんだ?とりあえず挨拶をしよう!
おはよう御座います、と俺は大輝に向かって言った。言ったつもり、だったのだが。俺の口から出たのは、全く別の言葉だった。
「好き!」
「えっ」
違う違う!どんないい間違えだよ!
久しぶりの人の体だから言い間違えたのだろうか。と、とにかく今の訂正と謝罪をしなければ!
「大輝のこと大好き。大輝のお嫁さんになりたい」
おい、どんどん酷くなってるんだけど!?どうしちゃったの俺!
今までの人生で言ったことない小っ恥ずかしいセリフが口から出てくる。前世でもこんなに恥ずかしいことは無かった。
大輝の顔を真っ直ぐ見ることができず、顔を伏せる。わけも分からず、勝手に熱くなっていく頬に手を当てながら"神様"とやらに念じた。
『おい、俺に何したんだ』
『何とは。娘の願いを叶えてやっただけだが』
再び脳内にヤツの声が響き出した。きょとんとした顔で言ってそうで、腹が立つ。この醜態はお前のせいで晒すことになったんだぞ、お前が!
───お願い、代わりに、私の気持ちを大輝くんに伝えてほしいの!
神様が言っている娘の願いって、代わりに気持ちを伝えてほしいってところ?
……恋を成就させるとか、そういうのではなく?ただ思いを伝えるだけ?
待て待て、俺がみきちゃんの気持ちを大輝に伝えるのは5千歩譲って良いとして、なぜこれしか言えなくしたの?これじゃ主語が誰かわからないし、意味なくないか?俺が大輝に告白しただけになってるじゃん。
『安心しろ。大輝の前以外では普通に話せるようにしておいた』
『何に対して安心しろと……』
第一、俺が一番長い時間一緒にいるのは大輝なのだ。お世話をしてくれているのも大輝だし。彼と暮らしている限りは、ずっとこの縛りがつくというわけである。
『ふむ……しかし、思いを伝えたら直ぐに解除してやろうと思っていたのだが。これだけお前が言っても、彼女の思いは伝わっていないようだ』
……あれ、これって、俺の姿見られちゃうんじゃない?まだ言い訳考えてないんだけど。
そう焦っている間にも足音はこちらに近づいてくる。結局何を言えばわからないまま、ふすまが開かれてしまった。
「おはよう、とらま……え、とらまる……?じゃ、ない?」
俺を見るなり困惑した様子の大輝に、申し訳無さが出てくる。急に見知らぬ男が全裸でいたらびっくりするよね。
いやでもここは、俺がとらまるだってわかってもらえるほうがいいかもしれない。大輝に見せつけるように白いしっぽを振ると、彼は目をパチパチさせた。
「とらまるが、人間に……?……夢でも見てるのか?それとも、そんなに疲れているのかな……昼寝したほうがいいかも……」
夢ではないし幻覚でもない!どうしたら伝わってくれるのかな。
……そうだ、俺って今人間の口があるんだ。だったら、言葉で説明したほうが手っ取り早くない?なんで今の今までこのことに気づけなかったんだ。
はじめましてから言おう!そして、自己紹介をして"いつもお世話になっております"とお礼を言って、今後のことについて話し合って……社会人の対応を猫がいきなりしたらしたら驚かれそうだな。じゃ、じゃあ、何を言ったらいいんだ?とりあえず挨拶をしよう!
おはよう御座います、と俺は大輝に向かって言った。言ったつもり、だったのだが。俺の口から出たのは、全く別の言葉だった。
「好き!」
「えっ」
違う違う!どんないい間違えだよ!
久しぶりの人の体だから言い間違えたのだろうか。と、とにかく今の訂正と謝罪をしなければ!
「大輝のこと大好き。大輝のお嫁さんになりたい」
おい、どんどん酷くなってるんだけど!?どうしちゃったの俺!
今までの人生で言ったことない小っ恥ずかしいセリフが口から出てくる。前世でもこんなに恥ずかしいことは無かった。
大輝の顔を真っ直ぐ見ることができず、顔を伏せる。わけも分からず、勝手に熱くなっていく頬に手を当てながら"神様"とやらに念じた。
『おい、俺に何したんだ』
『何とは。娘の願いを叶えてやっただけだが』
再び脳内にヤツの声が響き出した。きょとんとした顔で言ってそうで、腹が立つ。この醜態はお前のせいで晒すことになったんだぞ、お前が!
───お願い、代わりに、私の気持ちを大輝くんに伝えてほしいの!
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……恋を成就させるとか、そういうのではなく?ただ思いを伝えるだけ?
待て待て、俺がみきちゃんの気持ちを大輝に伝えるのは5千歩譲って良いとして、なぜこれしか言えなくしたの?これじゃ主語が誰かわからないし、意味なくないか?俺が大輝に告白しただけになってるじゃん。
『安心しろ。大輝の前以外では普通に話せるようにしておいた』
『何に対して安心しろと……』
第一、俺が一番長い時間一緒にいるのは大輝なのだ。お世話をしてくれているのも大輝だし。彼と暮らしている限りは、ずっとこの縛りがつくというわけである。
『ふむ……しかし、思いを伝えたら直ぐに解除してやろうと思っていたのだが。これだけお前が言っても、彼女の思いは伝わっていないようだ』
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