白猫の嫁入り

キルキ

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6 家猫

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おやつのチーズを頬張っていると、大輝が思い出したようにそう言った。

ええ、知らない人間が来るのか。この一週間で大輝との生活に慣れてしまったから不安だ。急に掴まれたら、咄嗟のアッパーカット(猫パンチ)で撃退できるだろうか。

と心配し始めてから数分後。来客を知らせる玄関の鐘がなった。大輝が玄関に向かうのを見て、思わずついていく。自分では何故かわからないけど大輝の後ろを追いかける癖がついてしまったのだ。順調に飼い慣らされている。

玄関の扉の前にいたのは、一週間ぶりに見るみきちゃんだった。みきちゃんは大輝の後ろにいる俺に気づくと、こっちに向かって突進してくる。

「とらまるー!」
「ぶみゃ!」

潰れたカエルみたいな鳴き声出た。

ぎゅーっと抱きしめられて少し苦しい。今度は別の意味で意識を失いそうだ。子供というのは元気だね、脳内年齢おじさんの俺はついていけないよ。

……今のこの図、客観的に見て許されるものなの?幼女に抱きしめられて意識を失いそうになってる男(猫)って、法に許してもらえるのかな。

「とらまる元気だった?」
「みきちゃんが遊びに来てくれたんだ。みきちゃんのこと覚えてるかな?」

ええ、もちろん覚えてますとも。みきちゃんの記憶は、俺が彼女の腕の中で眠りこけたところまでだったから、あの後が割と気になってはいたんだ。彼女も元気そうで良かった。

思えば俺がここに来きたのは、彼女のヒーリング体温のおかげだったんだ。当時は不本意だったけど、今では家猫になるきっかけを作ってくれたことに感謝している。

「にゃー」

覚えているぞという意を込めてしっぽを振ると、女の子が嬉しそうに笑った。

「今日は遊びに来たんだあ。3人でいっぱい遊ぼうね!」

無邪気な笑顔が眩しい。そんじょそこらの悪ガキ小学生とは違うなぁ。

それから、大輝とみきちゃんと俺はこの家で目一杯遊んだ。

3人で遊んだ、というよりは、俺ばかりが遊ばれたような気がするが。俺は楽しいからいいんだけど、二人はそれで良かったのだろうか。

どこからか出てきた猫用のおもちゃで二人にたくさん遊ばれたのだ。思わず本気を出して遊んでしまった。つ、つかれた……。

ここ一週間怠けていたせいで、野生で培った体力がなくなっている。二人にはわからないように澄ました顔をしているが、息切れがすごい。もうへとへとだ。

もう、遊ぶのはしばらくいいです……。

おもちゃに飽きたことにして二人から離れ、自分用の寝床でくつろぐ。そのタイミングで、大輝は夕飯の準備をするために台所に向かっていった。

部屋にはみきちゃんと俺、ふたりきりである。しーんと静まり返った部屋に気まずさはあったものの、俺からなにかアクションを取るのも癪で無視を決め込んだ。すると、みきちゃんのほうから近づいてくる気配がした。

「ねえ、私のお願い聞いてくれた?」

聞いてくれてないです。

小声で言われたその言葉に、そう返事をしてやりたかった。そういえばこの子、猫の神様とかを信じてたんだっけ。

「……私のお願いは叶えてくれないの」

何も反応しないでいると、女の子はしょぼんと項垂れてしまった。ちょっと罪悪感。

でも、告白するなら自分で伝えたほうが伝わると思うんだけどな。それがわからないほどには、この子は幼いのだろう。

……このまま思いを胸に秘めている方が良いかもね。きっとこの恋は、幼き日のいい思い出になってくれるはずだから。


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