白猫の嫁入り

キルキ

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5 家猫

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なーんて、初日の件でちょっとだけ大輝に絆されてしまって一週間がたった。

最初に大事にすると宣言した通り、大輝は俺のことをちゃんと世話してくれた。夕方から大輝がバイトに入っている日もあるけど、夕飯はちゃんと用意してから出かけてくれるし。おやつくれるし、お風呂も入れてくれるし。

彼は一人暮らしの大学生だったみたいだ。今は夏休み中らしい。一度だけ学生証をチラ見したけど、学部は何なのかよく見えなかった。多分だけど、きっと高レベルな大学に入っているんだろう。性格の良いイケメンだし、きっと人生もうまくいってるに違いない。

そして、そんなイケメンな飼い主は俺の賢さに敬仰していた。おりこうで賢い猫だといっぱい褒めてもらえたので満足である。赤い首輪をつけたら、幸せな飼い猫の出来上がりだ。

そもそも俺には人間の頭脳があるから、普通の猫より賢いのは当たり前なんだけどね。

だから部屋のものを壊したり壁で爪研ぎしたりしないし、ご飯もこぼさないよう上品に食べれるし、その……トイレとかだって一回言われれば覚えるし。うん。たまに見られるときがあるけど、あればかりは慣れる気がしない。

そういえば、初日以来で大輝が俺を抱きかかえることは一度もなかった。おそらく、俺が抱っこを嫌っていることに気づいたのだろう。

俺が高所恐怖症だと気づいているのだろうか?でも、彼がそのことで気遣ってくれているおかげで俺の心の安寧は保たれていた。

いやあ、飼い主が賢くて助かるなぁ。

そういうわけで、俺は穏やかな日々を手に入れたのである。飼い猫になる前は絶対に人間に飼われてやるもんかと思っていたけど、実際になってみると快適すぎてもう以前の生活に戻れそうにないくらいだった。冷静に考えると、屋根がある寝床って素晴らしい。

それにしても、大学生がこんな立派な家に一人暮らししているなんて不思議だ。お金持ちなのだろうか?この世界の経済状況ってどうなっているんだろうな。俺は猫だから、この世界の金事情をよく知らないのだ。

「とらまる、縁側がお気に入りなのか?」

縁側で寝転んで太陽の光でぬくぬくしていると、先程までちゃぶ台で勉強していた大輝が直ぐ側まで近寄ってきていた。今更突っ込めなくなったネーミングになんとも言えない気持ちになる。

"トラ"って、けっこう猫の名前につけられることが多いらしいけど、虎がどんな生き物かわかってる俺からすると、何とも言えない気持ちになる。まあ、そのままトラっていう名前をつけられなかっただけマシかな。

「そういえば、そろそろおやつの時間だ。待ってて、今から取ってくる」
「にゃー!」

おやつ!おやつ!

すっかり俺の好物化した猫用チーズは、毎日の楽しみだ。飼い主は決まった時間になると、チーズを取り出してくれる。楽しみすぎるので本当ならキッチンまで取りに行きたいのだけど、キッチンは出入り禁止を食らっているため諦めるしかなかった。

一度大輝の後ろを歩きながらしれっと入ろうと試みたことがあるのだけど、"危ないものがいっぱいあるから駄目"と注意を受けてしまったのだ。

俺、賢いからキッチンでもちゃんとおりこうにできるよ?という顔で訴えてみたけど首を振られてしまった。確かにキッチンは物が多い場所だし、食べ物も置いてあるところだしな。俺はおりこうだから、彼の言うとおりにしてやろう。

「ああ、そうだ。今日はお客様が来るから、急に見慣れない子がいてもびっくりしないようにね」
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