4 / 30
4 出会い
しおりを挟む
……しょうがないな~、ちょっとくらいなら触らせてやっても良いよ。
差し出されたチーズに噛みつくと、大輝がチーズから手を離す。いつもの癖で早食いしたせいで、あっという間にチーズがなくなってしまった。飯は食えるときに食う、が習慣づいているせいだ。獲物を横取りされてはたまらない。
「ふふ……。チーズ好きなんだね。機嫌は直してくれた?」
「ニャ~」
「うん、よかったあ。ねえ、撫でてもいい?」
撫でることに許可を求めてくる人間は初めて見た。不思議な感覚だ。みんな勝手に触ってくるし、許可も求めない。
でも、こうやって人間に下手に出てこられると、なんだか気分が良かった。前世で猫は罪深いと思っていたが、こうして実際に猫になってみて彼らの気分がわかった気がする。
気分がいいついでに、撫でさせてやろう。言葉で返事ができないからその代わりに、頭を大輝の手のひらに押し付けた。俺の反応に答えるように、大輝の手が俺の頭を撫でる。
「……ありがとう、とらまる。かわいいね、ふわふわしてる」
「にゃーん」
「お風呂に入れたあとにとらまるの毛並みを見て、すごく驚いたよ。こんなに毛並みが白いなんて思ってなかったんだ。出会ったときは薄汚れていたから」
白?ってことは、俺って白猫だったのか。
「知っているかな。とらまるの目って、青色をしているんだよ。美人さんだねー」
……。
すごく喋るな、この男。俺の目を見つめながらそう言ってくる大輝に対して、そんなことを思った。
動物に対して話しかけてくる人間はいたけど、こんなに話しかけてくる人は初めてかもしれない。
「青色の瞳の猫って難聴の子が多いみたいだから心配だったけど、この様子だったら本当に大丈夫そうだね。お医者さんにも見てもらったし……」
え、そうなの?それは知らなかったな。
思わず自分の耳を片手で触る。俺の聴覚は前世と変わらず、正常に感じていた。
難聴じゃなくて本当によかった。もしも耳が聞こえていなかったら、もっと早い段階で猫生を終えていただろうな。外の世界は危険がいっぱいなのだ。
「……あれ、耳が気になる?」
「みゃあ……」
「大丈夫だよ、もしもなにか障害があったとしても、きみのことを大事に大事にするから。絶対に捨てたりしないから、安心して」
そういうことじゃない……けど、そう言ってもらえるのは…、ちょっと安心するかも。
……俺、この人に愛されてるのかなぁ。
ふと視界に入った大輝の腕に、ひっかき傷がついているのが見えた。あれは、彼が俺を抱き上げたときの……、俺が数時間前につけてしまった傷である。
自分の手当もせずに俺ばっかり構っているのかよ。変な人だな。
「………にゃ」
「あれ、眠くなった?……めっちゃ溶けてるじゃん。猫ってこんなに液状化するんだ」
仕方ないから、今日のところはこれで大人しくしておいてやろう。こいつが自分のために時間を使えるように、おりこうにしておくから。……抱っこされない限りは。
「おやすみ、とらまる。夕飯になったらまた来るよ」
おやすみ、大輝。
前世ぶりにかけられたその言葉に、そう返してやりたかった。だけど俺は猫だから、そういう代わりにしっぽを一振りすることしかできなかった。
差し出されたチーズに噛みつくと、大輝がチーズから手を離す。いつもの癖で早食いしたせいで、あっという間にチーズがなくなってしまった。飯は食えるときに食う、が習慣づいているせいだ。獲物を横取りされてはたまらない。
「ふふ……。チーズ好きなんだね。機嫌は直してくれた?」
「ニャ~」
「うん、よかったあ。ねえ、撫でてもいい?」
撫でることに許可を求めてくる人間は初めて見た。不思議な感覚だ。みんな勝手に触ってくるし、許可も求めない。
でも、こうやって人間に下手に出てこられると、なんだか気分が良かった。前世で猫は罪深いと思っていたが、こうして実際に猫になってみて彼らの気分がわかった気がする。
気分がいいついでに、撫でさせてやろう。言葉で返事ができないからその代わりに、頭を大輝の手のひらに押し付けた。俺の反応に答えるように、大輝の手が俺の頭を撫でる。
「……ありがとう、とらまる。かわいいね、ふわふわしてる」
「にゃーん」
「お風呂に入れたあとにとらまるの毛並みを見て、すごく驚いたよ。こんなに毛並みが白いなんて思ってなかったんだ。出会ったときは薄汚れていたから」
白?ってことは、俺って白猫だったのか。
「知っているかな。とらまるの目って、青色をしているんだよ。美人さんだねー」
……。
すごく喋るな、この男。俺の目を見つめながらそう言ってくる大輝に対して、そんなことを思った。
動物に対して話しかけてくる人間はいたけど、こんなに話しかけてくる人は初めてかもしれない。
「青色の瞳の猫って難聴の子が多いみたいだから心配だったけど、この様子だったら本当に大丈夫そうだね。お医者さんにも見てもらったし……」
え、そうなの?それは知らなかったな。
思わず自分の耳を片手で触る。俺の聴覚は前世と変わらず、正常に感じていた。
難聴じゃなくて本当によかった。もしも耳が聞こえていなかったら、もっと早い段階で猫生を終えていただろうな。外の世界は危険がいっぱいなのだ。
「……あれ、耳が気になる?」
「みゃあ……」
「大丈夫だよ、もしもなにか障害があったとしても、きみのことを大事に大事にするから。絶対に捨てたりしないから、安心して」
そういうことじゃない……けど、そう言ってもらえるのは…、ちょっと安心するかも。
……俺、この人に愛されてるのかなぁ。
ふと視界に入った大輝の腕に、ひっかき傷がついているのが見えた。あれは、彼が俺を抱き上げたときの……、俺が数時間前につけてしまった傷である。
自分の手当もせずに俺ばっかり構っているのかよ。変な人だな。
「………にゃ」
「あれ、眠くなった?……めっちゃ溶けてるじゃん。猫ってこんなに液状化するんだ」
仕方ないから、今日のところはこれで大人しくしておいてやろう。こいつが自分のために時間を使えるように、おりこうにしておくから。……抱っこされない限りは。
「おやすみ、とらまる。夕飯になったらまた来るよ」
おやすみ、大輝。
前世ぶりにかけられたその言葉に、そう返してやりたかった。だけど俺は猫だから、そういう代わりにしっぽを一振りすることしかできなかった。
1
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿


僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる