白猫の嫁入り

キルキ

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2 出会い

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高い場所怖かったら狩りできないし、どうしようと思いながら猫として過ごしてきて早数年が経っている。俺は街の人間に愛想を振りまき、彼らから献上物(食べ物)を巻き上げるという生活を送っていた。

人間がくれる食べ物は衛生的にも安心できるし、何より豪華だ。そのへんの草よりもよっぽど美味しいし。多少はこのもふもふボディで人間たちを癒やしてやる必要があるけど、それも生きるためである。多少のことならば引っ掻いたりしなかった。

ああ、でも、抱き上げてくるやつにはちゃんと猫パンチを食らわしておいた。浮遊感がトラウマを刺激するのである。自衛大事。

「首輪ついてないから、野良なのかなぁ」

女の子と同様にしゃがみこんだ大輝が、俺を見下ろしながら困ったような表情をした。二人からの探るような視線が居心地悪くてその場から離れようとしたら、お兄さんに安々と捕まってしまう。

胴体を掴まれて、男に抱きかかえられる。急に高くなった視界にトラウマが発動して、なりふり構わずその腕から抜け出した。やめろコノヤロ。

「シャー!」
「うわ、気性の荒い子だな。うーん、保護しようと思ったけど、このままにしておいたほうがいいのかな」
「大輝くん……」
「……みきちゃんが怪我をしたら危ないし、今日はこのままにしておこうか」
「だ、だめ!この子、私が連れて帰る!」

じりじり後退しながら逃走のタイミングを測っていると、女の子が泣きそうな顔で俺に抱きついてきた。幼子特有の体温は、どこか安心感があった。

え、なに?そんなに俺といっしょにいたいの?

「だって、猫の神様に怒られちゃう……神様に私のお願い、聞いてもらえなくなるかもしれない……」

以外と打算的だな!まあ、そうだよな、初っ端から俺に手を合わせてたもんな!

一瞬、俺の可愛さに女の子が落ちてくれたのかと思った。この小悪魔め。この子の将来が恐ろしい。

「神様……?みきちゃん、何かお願い事をしたの?」
「えっと、えっと、大輝くんにはナイショ!」

堂々と隠し事を宣言する女の子に、お兄さんは苦笑いしている。

だが、女の子には悪いが、俺は誰の家の子にもなる気はない。だって、人間ってすぐ抱っこしてくるじゃん。こちとら、高所恐怖症系ネコなんだ。可愛い可愛いぬいぐるみになってあげたいのは山々だけど、住む場所は自分で決めたい。

そう、だから俺はここで二人を拒絶するほか道はないのだ……親切そうな二人に威嚇するのは、心苦しいけど、それは仕方ないことで。

みきちゃんの体温、温かいなぁ……久しぶりに、こんなふうに抱きしめられた気がする……。あれ、なんか、眠くなって…………。

「……あれ?猫ちゃん、寝てる」
「…本当だ。……今のうちに、連れて行こうか。起こさないように気をつけて」
「うん。疲れていたのかなあ?おやすみ、猫ちゃん」

穏やかな人間の声が、耳に入ってくる。誰かの笑い声を最後に、俺の視界は真っ暗になった。




なんか、誰かに触られてる……。

人間の手に背中を撫でられる感触で、俺は目を覚ました。

よく公園に遊びに来る、小学生の子どもたちに触られているのだろうか。あの子達、俺が昼寝しているにも変わらずいたずらを仕掛けてくる困った子たちだからなぁ。でも、幼子にしては手が大きすぎるし、ごつごつしてる。子供特有のふわふわな肌じゃない。

普段と違う感触だけど、何故かその手が心地良い。

「んにゃ……」

あれ……今まで何してたんだっけ。女の子の抱きしめられて、あのまま寝てしまったのか?

寝起きの目をパチパチさせながら辺りをうかがうと、あの男───大輝が俺を見下ろしていた。

「あ、起きた」

俺を撫でていたのは、大輝だったらしい。ちらりと下を見ると、お兄さんの膝が見えた。
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