白猫の嫁入り

キルキ

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「お願い、代わりに、私の気持ちを大輝くんに伝えてほしいの!」


ランドセルを背負っている一人の女の子がしゃがみ込んだまま、手を合わせて俺に頭を下げている。その小さな手から鳴ったパンッという可愛らしい音が住宅街に響いた。

いや、あの、その。お願いと言われましても。

今日は天気が良かったから気まぐれに外を散歩していただけなのに、どうしてこうなったんだ。

「私、いつも一緒に遊んでくれる大輝くんのことが好きなんだ。でもね、自分で告白するのって、恥ずかしいし……。ねえ、"猫の神様"は何でも願いを叶えてくれるんでしょう?」
「にゃ、にゃあ……?」
「友達から聞いたの!猫ちゃんには神様が宿っていて、その神様にお願いすると願いが叶うって!」

なんだその都市伝説。俺の背後には神様がいるって……それを聞いたところでどうすりゃいいんだ。

十中八九、小学生が面白がって作った嘘の話なのだろう。作り話で楽しむのは結構なことだけど、通りすがりの一般猫を巻き込むのは勘弁してほしい。

急なお願いにたじたじになっていると、女の子の背後から背の高い男が現れた。男は女の子の存在に気づくと、すぐにこちらに向かって歩いてくる。大学生くらいの歳の男の子だった。

「みきちゃん。どうしてしゃがみ込んでいるの?制服汚れちゃうよ。それとも具合悪い?」
「だ、大輝くん!」
「おや、その子猫じゃないか。かわいいなぁー、どこの子なんだろう?」

大輝というお兄さんが俺を見下ろしながらそう言った。お兄さんの言うとおり、俺は猫だ。人の言葉は理解できるが、喋ることができない猫だ。だから、みきちゃんという女の子の頼みは聞くことができないのだよ。

どうやらこの男が、女の子が言っていた件の大輝というやつらしい。うわあ、イケメンだ。遠くからでもわかるくらいのイケメンオーラが出ていたし。

女の子はその男に気づいた途端、恋する乙女のように頬を染めた。年上の男に惹かれる年頃なのだろうか。

「みゃーお」
「あ、鳴いた!にゃ、にゃあにゃあ!」

女の子が俺の真似をして、猫の鳴き声を上げる。その姿はとても健気で、慈しみを懐かせるものだった。かわいいなぁ。あ、鳴き返したらすごく嬉しそうな顔している。

鳴き声を上げるだけで女の子を笑顔にできるなんて、猫も捨てたものじゃないな。

でも、彼女が恋している相手は少し問題かもしれない。年齢差大きいと苦労が多いと聞くし、幼き日のいい思い出として終わらせておいたほうが幸せかもしれないよ。

恋愛経験皆無の俺が言うのもなんだけど……。世間体とか、税金とかで色々揉めるって、前世の妹がぼやいてたし。



……そう、前世だ。俺は前世の記憶があるのである。前の人生では、しがないサラリーマンとして一生を遂げた。

前世での最後の記憶は、出張中に飛行機事故にあったところまでだ。非常に最悪である。最後に家族と、一言でもいいから話したかったな。

飛行機体のエンジンの息が止まってからのヒュンと落下する瞬間まで覚えてしまっているものだから、正直言って高い場所は嫌いだ。猫なのに高い場所が怖いとか、狩りには致命的すぎる欠陥。そもそも、狩りとかしたことない。

もしもその辺でネズミを見つけたとして、どうすればいいんだ。噛みつくのか?生きたままのネズミを?あいにく中身は人間の思考をしているから、そんなとち狂ったことを俺ができるはずなかった。
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