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1 春の終わり

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初めて会ったときから、気に食わない男だった。


生徒会室からは、桜の木がよく見える。春の生徒会室はいつも外が満開の花に埋め尽くされるから、毎日がお花見気分になれるのだ。

しかし、今はもう5月だ。とっくに花を散らしてしまった枝が、寂しげに風に吹かれている。無防備に開かれた窓から見えた。

高校3年生の春はもう、終わろうとしている。

「かいちょー、勉強ばっかしてないで俺と遊ぼうぜ」

センチメンタルな気持ちで窓の外の景色を眺めいていたら、突如僕の耳に同級生の声が入ってきた。

会長、というのは僕のことだ。原田清一、高校3年生。数ヶ月前からこの学校の生徒会長をやっている。同級生からは大抵、原田か原田くんとしか呼ばれない。何故なのかわからないのだが、親以外に下の名前で呼んでくる人がいないのだ。おそらく、僕が人と慣れ親しみにくい性格をしているからだと思う。要するに「真面目すぎる」ということだ。

自習室は案外騒がしい。勉強会という名目で菓子パしてる集団がざらにいるのだ。去年までは僕も自習室で耳栓をして勉強していたのだが、今年からは生徒会室に入る権利を取ったため、今は生徒会室で勉強をすることにしている。

生徒会室で勉強する役員も滅多にいないから、一人になれるし勉強に集中できる。生徒会役員はみんな友人の多くて明るいやつばかりだから、大勢でわいわい勉強するために広いスペースがある自習室や図書室に行くのだ。

「テスト期間だというのに、勉強しない生徒の方が少ないんじゃないかい」
「俺は別に、赤点を取らなかったらいいから。会長みたいに進学希望の生徒じゃないから、大丈夫だぞ!」
「……そっか」

将来はどうするの、なんて質問はあえてしなかった。人の事情に軽々しく首を突っ込むものでは無いし、何より興味がなかった。

僕の正面の席に座って話しかけてくる男子生徒は、藤井陽だ。彼は僕と同じで生徒会役員のメンバーであり、書記を務めている。彼との付き合いは、今年で3年になる。入学してから何だかんだで縁があり、話すことが多かった生徒だ。

成績のことは本人が大丈夫だというのなら、教師のように勉強がどうのと説教をするつもりは無い。だが、陽が俺の勉強を邪魔しに来ることは、いただけないな。

「悪いんだけど、僕は勉強で忙しいんだよ。テストが終わったら構ってあげるから、今日は我慢してくれないかい」

しっしっと追い払うような仕草をすると、「ひどいなー」と軽薄な返事が聞こえた。

「俺は会長が寂しくないようにってここに居るのにさぁ。もうちょっと俺にも優しくしたほうがいいぞ」
「む……」

優しく言っている間にわかってくれないものだろうか。僕が苛立っているのは態度でわかっているだろうに、それでも話しかけてくるのはどういうつもりなんだ、まったく。

「会長ってホント真面目だね」
「どうせ僕は友達がいないよ」
「そんなこと言ってないぞ!?」

勉強を重んじる家庭に生まれた僕は、昔から友だちと遊ぶこともせずに家でずっと机に向かっていた。

学校で仲良く話してくれる人は、もちろんいる。けれど、付き合いの悪さ、僕の勉強へののめり込み様はどん引くものがあったらしい。普段は仲良くしている人からも、度々「とっつきにくいなこいつ……」という視線を受けているし。

けれど、僕がこうなのは生まれ持っての性である。親が僕に望むものが大きいことからプレッシャーを受けて勉強をしているところもあるが、一番の理由は、自らのプライドを守るためだ。

昔から僕は、模範生徒だった。さすが弁護士の息子、高田家の子供だと、昔から褒め称えられた。

運動もそこそこできたし、座学の成績は抜群によかった。両親からはまだまだだと厳しい評価を受けているものの、学校での俺は誰よりも上の評価を受けていた。

僕が生徒会長に立候補するのも、当然のことだと誰もが思っただろう。

そんな僕が成績を落とすわけにはいかない。というかそもそも、進路に深く関わる高3のテストは、大学進学希望者とって大事な場面だと思うのだが。

わざとらしくため息を吐いた後に、再びシャーペンを握って教科書に目を滑らした。

真剣に勉強をする僕の姿を見れば、話しかけるのも気が引けてどっかに行ってくれるだろう。そんな魂胆から黙々とノートのページを捲っていたのだが、一向に彼が動く気配はしない。

……気まずい。

無言の時間も心地よく思える相手というのは運命の友人、恋人であるらしいが、未だそのような運命に出会ったことはない。沈黙は誰相手であろうと気まずいと感じるし、僕の性格と言われてしまえばそうなんだろうけど。

何となく勉強に集中できないまま、区切りのいいところで、一旦休憩にしようと思いペンを机の上においた。ぐいっと腕を上に伸ばして、ストレッチをしながら壁の時計を見た。あれから2時間も経っていたみたいだ。

ズレた眼鏡を直しながらちらりと正面へ目を向けたら、ばちっと目があった。ずっと僕の方を見ていたのかよ、勘弁してくれ。
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