24 / 24
使い魔 3
しおりを挟む
「ニールも術をかけてみたら?もしかしたら、発動するかも」
俺の方を見ているニールに、”レオン”が言う。ニールの足元には、書き終わった魔法陣があった。
(あー、いつになったら自由に動けるようになるんだろう)
こんな、みんなが注目するようなど真ん中でニールに魔法をかけさせるようなことを、いつもの俺だったらしない。ニールが無属性だというのは、学年中に広まっていることだ。そんな場所でニールに魔法を使わせるなんて、晒し上げもいいところだ。
しかも、みんなが見ているような場所で首席のレオンが言ったことに対しニールが断れば、それはそれで野次が飛んでくるだろう。つまりニールは、俺の命令を聞いても聞かなくても、悪い方向にしか向かないということである。
「……っ、うん、やってみる…!」
ニールが茶色の杖を握る。力のこもった瞳で、彼の小さな口が呪文を紡ぎ出した。
凛とした声がその場に響く。呪文を唱え終わっても、案の定ニールの魔法陣はうんともすんとも言わない。
(やっちまった……ごめん、ニール)
無属性の杖では、使える魔法に限度がある。何も起こることのない魔法陣を見て、ニールが悲痛な顔をした。それがとても心苦しくて、俺が泣いてしまいそうになる。なんか死にたくなってきた。
周囲から、くすくすという笑い声が聞こえた。
何をやっているんだ、俺は。彼に普通の学園生活を送って欲しいと願った俺が、こんな状況を作ったらダメだろ。彼を晒し上げるようなことは絶対にしたくなかったのに。
原作のレオンもこんな風にニールを言いくるめて、善人のふりをしてニールを晒し上げていたんだろうな。表向きは正義の体でいて、裏ではニールを嘲笑っていたんだ。
たまらなくなって、視界がぐらりと揺らいだ。胸が詰まりそうな思いで俯いているニールに手を伸ばそうとして、伸ばせない。俺の身体なのに、どうして自由に動かすことができないんだ?
『ニール』と名前を呼びたいのに呼べなくて半泣きになっていると、先にニールが俺を見上げて口を開いた。
「レオン」
甘えるように俺の腕に寄り添いながら、ニールが俺の名前を呼んだ。瞬間、身体に絡みついた蔦が一気に消え去った感覚に、一瞬息を呑む。
(あ、戻った…?)
支配される感覚がなくなり、自由に息ができるようになる。何が引き金だったのかわからないが、ようやく原作から抜け出すことができたらしい。
「やっぱり駄目だったなぁ。また今度にも挑戦したいから、次も付き合ってくれる?」
「…あ……、もちろんだよ」
「うん。約束ね」
それにしても、だ。少し前のニールだったら、こんな場面に遭遇したら何も言えずに俯くばかりだったはずだ。俺が助け船をだすまで周囲の生徒に怯えて動けなくなっていたのが常だったのに、さっきのニールは自分から動き出した。
周囲の陰口も気にせず俺に絡んでいくニールを見た同級生たちは鼻白んだのか、残念そうな声を出しながら少しずつ散っていった。
ニールは人前で、こんな風に俺にくっつくようなことをめったにしない。しかもこんな、多くの人が見ているような場所ではしたことがなかった。俺からはあってもニールは絶対にしないと思っていた。
それにしても、どうして戻れたんだろうか。やっぱり主人公のおかげなのだろうか。すごいな、主人公パワー。次はあんなことにならないように気をつけておかないといけないな。
ニールは俺から身を離すと、俺の腕に止まった鳥を見ながら使い魔に触らしてほしいと頼んでくる。戸惑いを隠せないながらも、俺の腕で大人しくしている使い魔を触らせていると、和気あいあいとした雰囲気になる。
いつから見ていたのか、生徒の波をかき分けながら近づいてきたゾランが、俺たちに話しかけてきた。
「おいニール、またレオンとつるんでんのかよ?」
「…うん。レオンは、僕の友達だから」
ニールはゾランには目もくれず、俺の使い魔の顎を撫でている。
(と、友達…!いざこうやって言ってもらえると嬉しいけど……!)
ニールの良き友になるという、俺の当初の目的が達成されていることをまざまざと感じて、浮足立った気持ちになる。緩む頬を隠せないでいると、ゾランがそんな俺を見て嘲笑いながら口を開く。
「随分そいつを信頼しているようだけど、知っているか?フェレオル家の悪評。娼婦の女が王族に取り入ったことで爵位を得たような、汚らしい血筋だ。表面上はにこにこしているが、簡単に人を踏み台にして上に登るような家系なんだよ、こいつの生まれって。その笑顔に騙されるなよ」
不敵な笑みを浮かべたそいつは、まるで悪役のように笑った。攻略対象とは思えない顔だ。こういうダークな性格が、腐女子の心を射止めていたのだろうか。
俺の方を見ているニールに、”レオン”が言う。ニールの足元には、書き終わった魔法陣があった。
(あー、いつになったら自由に動けるようになるんだろう)
こんな、みんなが注目するようなど真ん中でニールに魔法をかけさせるようなことを、いつもの俺だったらしない。ニールが無属性だというのは、学年中に広まっていることだ。そんな場所でニールに魔法を使わせるなんて、晒し上げもいいところだ。
しかも、みんなが見ているような場所で首席のレオンが言ったことに対しニールが断れば、それはそれで野次が飛んでくるだろう。つまりニールは、俺の命令を聞いても聞かなくても、悪い方向にしか向かないということである。
「……っ、うん、やってみる…!」
ニールが茶色の杖を握る。力のこもった瞳で、彼の小さな口が呪文を紡ぎ出した。
凛とした声がその場に響く。呪文を唱え終わっても、案の定ニールの魔法陣はうんともすんとも言わない。
(やっちまった……ごめん、ニール)
無属性の杖では、使える魔法に限度がある。何も起こることのない魔法陣を見て、ニールが悲痛な顔をした。それがとても心苦しくて、俺が泣いてしまいそうになる。なんか死にたくなってきた。
周囲から、くすくすという笑い声が聞こえた。
何をやっているんだ、俺は。彼に普通の学園生活を送って欲しいと願った俺が、こんな状況を作ったらダメだろ。彼を晒し上げるようなことは絶対にしたくなかったのに。
原作のレオンもこんな風にニールを言いくるめて、善人のふりをしてニールを晒し上げていたんだろうな。表向きは正義の体でいて、裏ではニールを嘲笑っていたんだ。
たまらなくなって、視界がぐらりと揺らいだ。胸が詰まりそうな思いで俯いているニールに手を伸ばそうとして、伸ばせない。俺の身体なのに、どうして自由に動かすことができないんだ?
『ニール』と名前を呼びたいのに呼べなくて半泣きになっていると、先にニールが俺を見上げて口を開いた。
「レオン」
甘えるように俺の腕に寄り添いながら、ニールが俺の名前を呼んだ。瞬間、身体に絡みついた蔦が一気に消え去った感覚に、一瞬息を呑む。
(あ、戻った…?)
支配される感覚がなくなり、自由に息ができるようになる。何が引き金だったのかわからないが、ようやく原作から抜け出すことができたらしい。
「やっぱり駄目だったなぁ。また今度にも挑戦したいから、次も付き合ってくれる?」
「…あ……、もちろんだよ」
「うん。約束ね」
それにしても、だ。少し前のニールだったら、こんな場面に遭遇したら何も言えずに俯くばかりだったはずだ。俺が助け船をだすまで周囲の生徒に怯えて動けなくなっていたのが常だったのに、さっきのニールは自分から動き出した。
周囲の陰口も気にせず俺に絡んでいくニールを見た同級生たちは鼻白んだのか、残念そうな声を出しながら少しずつ散っていった。
ニールは人前で、こんな風に俺にくっつくようなことをめったにしない。しかもこんな、多くの人が見ているような場所ではしたことがなかった。俺からはあってもニールは絶対にしないと思っていた。
それにしても、どうして戻れたんだろうか。やっぱり主人公のおかげなのだろうか。すごいな、主人公パワー。次はあんなことにならないように気をつけておかないといけないな。
ニールは俺から身を離すと、俺の腕に止まった鳥を見ながら使い魔に触らしてほしいと頼んでくる。戸惑いを隠せないながらも、俺の腕で大人しくしている使い魔を触らせていると、和気あいあいとした雰囲気になる。
いつから見ていたのか、生徒の波をかき分けながら近づいてきたゾランが、俺たちに話しかけてきた。
「おいニール、またレオンとつるんでんのかよ?」
「…うん。レオンは、僕の友達だから」
ニールはゾランには目もくれず、俺の使い魔の顎を撫でている。
(と、友達…!いざこうやって言ってもらえると嬉しいけど……!)
ニールの良き友になるという、俺の当初の目的が達成されていることをまざまざと感じて、浮足立った気持ちになる。緩む頬を隠せないでいると、ゾランがそんな俺を見て嘲笑いながら口を開く。
「随分そいつを信頼しているようだけど、知っているか?フェレオル家の悪評。娼婦の女が王族に取り入ったことで爵位を得たような、汚らしい血筋だ。表面上はにこにこしているが、簡単に人を踏み台にして上に登るような家系なんだよ、こいつの生まれって。その笑顔に騙されるなよ」
不敵な笑みを浮かべたそいつは、まるで悪役のように笑った。攻略対象とは思えない顔だ。こういうダークな性格が、腐女子の心を射止めていたのだろうか。
17
お気に入りに追加
296
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました
柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!?
しかも男用!?
好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて…
二作目です!
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?


【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
レオンがこれからどうなっていくのか気になりすぎて眠れません笑
続き待ってます(*^^*)
更新頑張ってください(๑•̀ㅂ•́)و✧
コメントありがとうございます〜(泣)
亀更新ですみません!気長にお待ち頂けると嬉しいです!
おもろいです!頑張ってください!
感想ありがとうございます!
亀更新ですみません……!
この小説見たさにアプリを入れました😊とても心が爽やかです
なんと!ありがとうございます〜!
楽しんでいただけているのなら何よりです(о´∀`о)