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使い魔 3
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「ニールも術をかけてみたら?もしかしたら、発動するかも」
俺の方を見ているニールに、”レオン”が言う。ニールの足元には、書き終わった魔法陣があった。
(あー、いつになったら自由に動けるようになるんだろう)
こんな、みんなが注目するようなど真ん中でニールに魔法をかけさせるようなことを、いつもの俺だったらしない。ニールが無属性だというのは、学年中に広まっていることだ。そんな場所でニールに魔法を使わせるなんて、晒し上げもいいところだ。
しかも、みんなが見ているような場所で首席のレオンが言ったことに対しニールが断れば、それはそれで野次が飛んでくるだろう。つまりニールは、俺の命令を聞いても聞かなくても、悪い方向にしか向かないということである。
「……っ、うん、やってみる…!」
ニールが茶色の杖を握る。力のこもった瞳で、彼の小さな口が呪文を紡ぎ出した。
凛とした声がその場に響く。呪文を唱え終わっても、案の定ニールの魔法陣はうんともすんとも言わない。
(やっちまった……ごめん、ニール)
無属性の杖では、使える魔法に限度がある。何も起こることのない魔法陣を見て、ニールが悲痛な顔をした。それがとても心苦しくて、俺が泣いてしまいそうになる。なんか死にたくなってきた。
周囲から、くすくすという笑い声が聞こえた。
何をやっているんだ、俺は。彼に普通の学園生活を送って欲しいと願った俺が、こんな状況を作ったらダメだろ。彼を晒し上げるようなことは絶対にしたくなかったのに。
原作のレオンもこんな風にニールを言いくるめて、善人のふりをしてニールを晒し上げていたんだろうな。表向きは正義の体でいて、裏ではニールを嘲笑っていたんだ。
たまらなくなって、視界がぐらりと揺らいだ。胸が詰まりそうな思いで俯いているニールに手を伸ばそうとして、伸ばせない。俺の身体なのに、どうして自由に動かすことができないんだ?
『ニール』と名前を呼びたいのに呼べなくて半泣きになっていると、先にニールが俺を見上げて口を開いた。
「レオン」
甘えるように俺の腕に寄り添いながら、ニールが俺の名前を呼んだ。瞬間、身体に絡みついた蔦が一気に消え去った感覚に、一瞬息を呑む。
(あ、戻った…?)
支配される感覚がなくなり、自由に息ができるようになる。何が引き金だったのかわからないが、ようやく原作から抜け出すことができたらしい。
「やっぱり駄目だったなぁ。また今度にも挑戦したいから、次も付き合ってくれる?」
「…あ……、もちろんだよ」
「うん。約束ね」
それにしても、だ。少し前のニールだったら、こんな場面に遭遇したら何も言えずに俯くばかりだったはずだ。俺が助け船をだすまで周囲の生徒に怯えて動けなくなっていたのが常だったのに、さっきのニールは自分から動き出した。
周囲の陰口も気にせず俺に絡んでいくニールを見た同級生たちは鼻白んだのか、残念そうな声を出しながら少しずつ散っていった。
ニールは人前で、こんな風に俺にくっつくようなことをめったにしない。しかもこんな、多くの人が見ているような場所ではしたことがなかった。俺からはあってもニールは絶対にしないと思っていた。
それにしても、どうして戻れたんだろうか。やっぱり主人公のおかげなのだろうか。すごいな、主人公パワー。次はあんなことにならないように気をつけておかないといけないな。
ニールは俺から身を離すと、俺の腕に止まった鳥を見ながら使い魔に触らしてほしいと頼んでくる。戸惑いを隠せないながらも、俺の腕で大人しくしている使い魔を触らせていると、和気あいあいとした雰囲気になる。
いつから見ていたのか、生徒の波をかき分けながら近づいてきたゾランが、俺たちに話しかけてきた。
「おいニール、またレオンとつるんでんのかよ?」
「…うん。レオンは、僕の友達だから」
ニールはゾランには目もくれず、俺の使い魔の顎を撫でている。
(と、友達…!いざこうやって言ってもらえると嬉しいけど……!)
ニールの良き友になるという、俺の当初の目的が達成されていることをまざまざと感じて、浮足立った気持ちになる。緩む頬を隠せないでいると、ゾランがそんな俺を見て嘲笑いながら口を開く。
「随分そいつを信頼しているようだけど、知っているか?フェレオル家の悪評。娼婦の女が王族に取り入ったことで爵位を得たような、汚らしい血筋だ。表面上はにこにこしているが、簡単に人を踏み台にして上に登るような家系なんだよ、こいつの生まれって。その笑顔に騙されるなよ」
不敵な笑みを浮かべたそいつは、まるで悪役のように笑った。攻略対象とは思えない顔だ。こういうダークな性格が、腐女子の心を射止めていたのだろうか。
俺の方を見ているニールに、”レオン”が言う。ニールの足元には、書き終わった魔法陣があった。
(あー、いつになったら自由に動けるようになるんだろう)
こんな、みんなが注目するようなど真ん中でニールに魔法をかけさせるようなことを、いつもの俺だったらしない。ニールが無属性だというのは、学年中に広まっていることだ。そんな場所でニールに魔法を使わせるなんて、晒し上げもいいところだ。
しかも、みんなが見ているような場所で首席のレオンが言ったことに対しニールが断れば、それはそれで野次が飛んでくるだろう。つまりニールは、俺の命令を聞いても聞かなくても、悪い方向にしか向かないということである。
「……っ、うん、やってみる…!」
ニールが茶色の杖を握る。力のこもった瞳で、彼の小さな口が呪文を紡ぎ出した。
凛とした声がその場に響く。呪文を唱え終わっても、案の定ニールの魔法陣はうんともすんとも言わない。
(やっちまった……ごめん、ニール)
無属性の杖では、使える魔法に限度がある。何も起こることのない魔法陣を見て、ニールが悲痛な顔をした。それがとても心苦しくて、俺が泣いてしまいそうになる。なんか死にたくなってきた。
周囲から、くすくすという笑い声が聞こえた。
何をやっているんだ、俺は。彼に普通の学園生活を送って欲しいと願った俺が、こんな状況を作ったらダメだろ。彼を晒し上げるようなことは絶対にしたくなかったのに。
原作のレオンもこんな風にニールを言いくるめて、善人のふりをしてニールを晒し上げていたんだろうな。表向きは正義の体でいて、裏ではニールを嘲笑っていたんだ。
たまらなくなって、視界がぐらりと揺らいだ。胸が詰まりそうな思いで俯いているニールに手を伸ばそうとして、伸ばせない。俺の身体なのに、どうして自由に動かすことができないんだ?
『ニール』と名前を呼びたいのに呼べなくて半泣きになっていると、先にニールが俺を見上げて口を開いた。
「レオン」
甘えるように俺の腕に寄り添いながら、ニールが俺の名前を呼んだ。瞬間、身体に絡みついた蔦が一気に消え去った感覚に、一瞬息を呑む。
(あ、戻った…?)
支配される感覚がなくなり、自由に息ができるようになる。何が引き金だったのかわからないが、ようやく原作から抜け出すことができたらしい。
「やっぱり駄目だったなぁ。また今度にも挑戦したいから、次も付き合ってくれる?」
「…あ……、もちろんだよ」
「うん。約束ね」
それにしても、だ。少し前のニールだったら、こんな場面に遭遇したら何も言えずに俯くばかりだったはずだ。俺が助け船をだすまで周囲の生徒に怯えて動けなくなっていたのが常だったのに、さっきのニールは自分から動き出した。
周囲の陰口も気にせず俺に絡んでいくニールを見た同級生たちは鼻白んだのか、残念そうな声を出しながら少しずつ散っていった。
ニールは人前で、こんな風に俺にくっつくようなことをめったにしない。しかもこんな、多くの人が見ているような場所ではしたことがなかった。俺からはあってもニールは絶対にしないと思っていた。
それにしても、どうして戻れたんだろうか。やっぱり主人公のおかげなのだろうか。すごいな、主人公パワー。次はあんなことにならないように気をつけておかないといけないな。
ニールは俺から身を離すと、俺の腕に止まった鳥を見ながら使い魔に触らしてほしいと頼んでくる。戸惑いを隠せないながらも、俺の腕で大人しくしている使い魔を触らせていると、和気あいあいとした雰囲気になる。
いつから見ていたのか、生徒の波をかき分けながら近づいてきたゾランが、俺たちに話しかけてきた。
「おいニール、またレオンとつるんでんのかよ?」
「…うん。レオンは、僕の友達だから」
ニールはゾランには目もくれず、俺の使い魔の顎を撫でている。
(と、友達…!いざこうやって言ってもらえると嬉しいけど……!)
ニールの良き友になるという、俺の当初の目的が達成されていることをまざまざと感じて、浮足立った気持ちになる。緩む頬を隠せないでいると、ゾランがそんな俺を見て嘲笑いながら口を開く。
「随分そいつを信頼しているようだけど、知っているか?フェレオル家の悪評。娼婦の女が王族に取り入ったことで爵位を得たような、汚らしい血筋だ。表面上はにこにこしているが、簡単に人を踏み台にして上に登るような家系なんだよ、こいつの生まれって。その笑顔に騙されるなよ」
不敵な笑みを浮かべたそいつは、まるで悪役のように笑った。攻略対象とは思えない顔だ。こういうダークな性格が、腐女子の心を射止めていたのだろうか。
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