主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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体調不良 4

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人と居るというときにメールの返事を打つのはあまり良いことではないのだが、メールはなるべく早めに返しておきたい。

一応ニールに断りをとって、彼と反対の方に身体を向けると返信メールを打つことにする。ベッドでごろごろしながら、適当にメッセージを打っていると、画面に黒い影がかかった。目で見上げれば、ベッドから上半身を起こしたニールが俺の胴を腕で跨ぐように身を乗り出しながら、スマホを覗き込んできている。

「レオンって、たくさん友達いるね」
「あー、そう、かな」

実際に友達って言えるような人は少ないと思うけど、という言葉は飲み込んだ。貴族同士の付き合いって社交辞令半分のところあるし。それに、貴族だろうがなかろうが、表面上の付き合いってあるじゃん?

と、全て正直に言うわけにもいかないため、思わず曖昧な反応になってしまう。

微妙な返事をする俺に、ニールは訝しげそうにしていた。

「いつも人の輪の中にいるでしょ?優秀だし人当たり良いし、先生方にも頼りにされていてみんなに好かれていて。…なのに、僕なんかとずっと一緒にいてくれるし」
「…ニール?」
「……優しすぎるんだよ、レオンは」

ニールの表情が一瞬悲しげになった気がして、思わず彼の名を呼ぶ。

(え……、どうしたんだ、急に)

どうしてそんな表情をするのかわからない。戸惑う俺をさておいて、ニールが手を伸ばしてくる。

「この子と特に仲が良いんでしょ?」と言って、ニールがスマホの画面を指さした。彼の指の先にあったのは、”ジャン”の文字。

(おい、こいつと仲良いとかやめてくれ)

俺がジャンと一緒にいる時間が長いのは、授業が被っていることが多いのと、向こうが何故か俺に懐いているからで。俺としてはジャンとはそこそこの良好関係でいられれば満足なのだから、別に一緒にいたいというわけではない……!

「ジャンといつも一緒にいるよね。…無理して僕に構わなくても、本当に仲のいい人と一緒に過ごしなよ。このこと、ずっと言いたかったんだ」
「いや、待て、誤解してるよキミ!」

勝手にぺらぺら話し出すニールを静止して、頭を抱えた。まさか自分がしていたことが、こんな風に悪い方向に行くと思わなかった。なんか、ニールの雰囲気もいつもと違っている気もする。っていうか、ニールの想像力が変な方向に行っている気もするし。これはここで、きちんと正しておかないと。

「俺とジャンは…、まあ、傍から見れば仲良く見えるかもしれないけど、そこまで親しいわけではないんだ。それに、ニールに話しかけるのは、俺がニールと一緒にいたいからだよ。食堂に誘うのも、教室に一緒に行くのも、こうして自分の部屋に入れるのも、ニールが好きだからだよ」

ゆっくり丁寧に、相手に伝わるようにはっきりとそう言う。ちょっと気恥ずかしいことを言ってしまったが、これでニールの懸念が晴れるなら安いものだ。

「…僕のことが好きなの?」
「あ、ああ」
「ジャンよりも?」
「もちろん。誰よりも好きだよ」

そう断言すれば、ニールが驚いたように数回瞬きをした。

(……うん。これ、本当に恥ずかしいんだけど。顔に出てないよな?)

もちろんこの「好き」は友情的な意味で使っているつもりなのだが、如何せん普段使わない言葉なため、そわそわしてしまう。この国は日本よりもそういった感情を素直に言葉にするから俺が今言っていることはおかしいことではないはずなのだが、日本人的な感覚が残っている俺は直球に言葉に表すということが慣れなくて、これまでも滅多に言ってこなかったのだ。

意識すればするほど恥ずかしくなるためなるべく冷静であろうとしているが、そんな俺の心情なんて露ほど知らないニールは、未だ信じられないといいたげな顔をしていた。ここまで言わせておいて疑うとか、勘弁してください。

「……ほんとうに?」
「俺が言うことを疑うの」
「…ううん」

少し間をおいて、ゆっくりニールが頷く。

ニールがぽすんとベッドに寝転んだ。そのままベッドシーツにうつ伏せになってしまったから、どんな表情をしているのかわからない。

よし、なんとか誤解を解くことはできたか…?

何となく、ニールの雰囲気がいつも通りに戻ったのを感じて、ほっと息をつく。いやあ、あんな風に言われると思っていなかったから驚いたな。

要するにニールは、レオンが色々な人と交友関係があるゆえに、自分が友人として大切にされている自信がなかったわけだ。これからはもっと気をつけてやらないと。

……でも、彼があんなことを言ってくるってことは、ニールも俺と友達でありたいって思っているっていうことだよな。そう思ったら、嬉しくなってきた。

もしも前世でこんな友達ができていたら、あの退屈な入院生活も少しは楽しく過ごせていたのだろうか?

ベッドに伏せているニールの頭を軽く叩きながら、時計に目を向ける。あれこれしているうちに随分時間が経っていたようだ。そろそろニールを部屋に返して寝かせてやらないと、明日に響くかもしれない。

「ニール、もうすぐ部屋に戻った方がいいよ。明日も授業があるんだから」
「今日はここに泊まってもいい?」
「良いけど、ベッドは一つしか無いよ」
「い、一緒に寝ればいいじゃん」

ニールが照れくさそうに自分の髪を指でいじっている。彼が言ったのは、思いがけない提案だった。

寮室は一人暮らし想定の家具しかないから、ベッドも一つしかない。シングルベッドで二人で眠るのは狭いだろう。だが、ベッド以外に他に寝れるような場所はない。

どうしようかと返事を渋っていると、ニールがごそごそと動き出す。そのまま掛け布団に潜り込んでいくものだから、俺は慌ててその体を揺すった。

本当にここで寝るつもりなのかよこの人!!二人で使うには狭いって!

「ちょっと」と文句を言って布団を捲りながら声をかけると、顔だけ布団から出したニールが俺の手首を掴んできた。水色の瞳をやけにうるませながら、俺を見上げていた。

「僕と一緒にいたいんでしょ?さっき、そう言ってたよね」

そう言うニールから謎の気迫を感じて、思わず息を呑んだ。

こ、こんなにぐいぐい来る子だったっけ。俺の知ってるニールは、もっと気弱で大人しくて流されやすい性格だったはずなんだけど。

珍しく押しの強いニールに、俺は頷くことしかできなかった。
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