主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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体調不良 3

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ひっさしぶりに皿洗いをしたものだけど、意外と手際よくやれた。皿をタオルで拭いてニールに手渡して、そろそろ解散といった雰囲気に鳴ったとき、ふとスマホの様子が気になって懐を探った。手で服のポケットやカバンを探ってみて、俺はようやく気づいた。

スマホが見当たらない。

その一大事に、今までにないくらい俺は焦った。あんな個人情報の塊みたいなものを無くしたらいろいろと不味い。しかも俺のような貴族のスマホなんて、弱み握りたがりの連中に盗られでもしたら、どんなことに悪用されるかわかったものじゃない。

(やっばい……両親にばれたら、絶対どやされる…)

服のポケットを全て確認するも、見つからない。困り果てている俺を見かねたニールが手伝いを申し出てくれて、二人でスマホの捜索が始まった。今から帰るという時に引き止めてしまうのは申し訳なかったが、手伝いがあるのはありがたい。

外に落としてきたという可能性はあるものの、とりあえずまずは部屋の中を探そうということで俺たちは部屋のあちこちを探すことになった。最後に見たときを全く思い出せない俺は、手当たり次第に物をひっくり返すばかりだ。ベッドサイドのテーブルも、布団の中にも、鞄の中にもどこにもない。

大捜索が始まってしばらくして、ニールが「これかな」と声を上げた。藁にもすがる思いでニールのもとに駆け出すと、ベッドの下から四角い板を取り出しているニールの姿があった。

「それだ!!!」

ニールからそれを受け取ると、嬉しさのあまりニールに抱きついた。今度は、俺の勢いで傾いていく彼の身体を支えることなく、そのまま二人でベッドに倒れ込む。ぼすんと音を立てて一緒にマットレスに沈むと、二人でクスクスと笑いあった。

こんなに浮ついた気持ちを表に表すのは俺らしくないけど、許して欲しい。それくらい安心したんだ。

ありがとう、と言うと、ニールが照れたように笑っていた。それがかわいくて、犬を撫でるときみたいにふわふわの髪を撫でてやれば、いつものようにニールが目を細めた。そして俺の胸元に顔をやって、鼻をすんとならした。

よく胸元で鼻をすんすん鳴らしているけど、もしかして、におい嗅がれている?

「…ねえ、ニール。なんでいつも俺のにおい嗅いでるんだい?」
「あ……その…お父さんと同じ匂いがするから、無意識に嗅いでたかも」
「ふぅん?」

父親と同じ匂いって、喜んでいいところなのか?な、なんか微妙な理由…。父親と同じ匂い…?加齢臭とかだったらへこむんだけど。

なんとも言えない表情になっていると、ニールが弁解するように

「その、嗅ぎ慣れたにおいがあって安心感があるっていうか、つい意識してしまうっていうか」
「へぇ。どんなにおいがするんだ?自分ではよくわからないんだよね」
「え、えっと…」
「なんでそこで言いよどむの。まさか本当に加齢臭?」
「ち、ちがうよ。その…。タバコのにおいがするんだよ、レオンって」
「……え゛」

ぎくり、と俺は口を閉ざす。この短期間で2人にタバコばれするとか、予想外すぎるって。しかも今日は一度も吸っていないはずだから、においもそんなについていないはずなのに。吸いすぎて体に染み付いてしまったのか?もしかして、俺が気がついていないだけで寮室にもにおいが蔓延しているかもしれない。部屋で吸うときはいつも換気しているんだけどな。

ぐうの音も出ない俺の様子を見て確信した様子のニールからは、特に怒った様子も見られない。先生にチクるのはどうか勘弁してもらえないかな。

「まさか、朝ごはん食べずにタバコ吸って学校に来ていたの?」
「……まぁ、そういう日もあったかな」
「レオン…」

(呆れた目で見ないでくれ…!)

「もう!そんな生活してたら体調崩すのも無理ないって!今すぐそういうのやめてよ」

確かにそういう日もあったけど、毎日ではなかったから…!朝食は抜き勝ちだったけど。と反論したら、「どっちにしろやめた方がいい」と一刀両断された。そ、そっかぁ……。

「朝起きれないのが原因なら、今度から僕が起こしにいこうか……?そ、その……僕は早起きが得意だから」
「…じゃあ、おねがいね」

そんなにやばい生活だったのかなぁ。

ニールとベッドの上に寝転びながら、しゅんとする。さすがにこれは反省しないといけないかもしれない。

体調が崩れることくらい誰にも起こることだし、今日の俺の体調不良だってよくあることなのだろうと思っていた。だからそんなにやばいことだって感じていなかったのだが、ここまで言われれば流石に自分がおかしいってことに気づくというもので。

(あ、明日から早起きするってこと…?それはちょっと嫌だ…)

朝はギリギリまで寝ていたいのに。まあ、ニールが起こしてくれるんだったら……がんばろうかな……。

「ところで、携帯が点滅してるけど大丈夫?誰かから連絡が来てるんじゃない?」
「あ…、本当だ」

ニールの指摘で、左手に握ったままのスマホに目をやる。新着メッセージと着信を知らせる履歴が目に入って、慌てて画面を開いた。

メールを送ってきたのは、担任のイバン先生。連絡事項と「隊長が戻らなければ明日も休むように」と締めくくられたそのメッセージは、端的かつわかりやすい文章だ。イバン先生らしいメールだな。

その他にはクラスメイトからの心配メールが数件、イバン先生からの着信が一件。この着信は、メールに記載された連絡事項を伝えるためのものだったらしいので、コールバックをする必要がない。あ、ジャンからの着信が来ている。……朝にも、ジャンから電話かかってきてるんだけど。通話がつながった履歴があるから何か会話をしたんだろうけど…、あいつと何を話したんだ?

(き、きおくが無い…)

なんで電話してきたのかは知らないが、重要なことだったらメールを送ってきているだろうし、折り返さなくていっか。
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