主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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タバコの量 2

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男子生徒は俺の返答に、ますます眉を吊り上げた。そして、通路の置くまで響き渡りそうな声量で叫び始める。

「とうとう化けの皮を剥がしたな、貴様!おかしいと思っていたんだ、”あの”フェレオル家の息子が、わざわざ庶民に構うなんてな!性格の悪い奴め。弱いやつは徹底的に叩きのめさないと、気がすまないのか?」
「ちょ、うるさいな…」
「おいそこの、ニールという生徒。遊ばれて捨てられる前に、この男からはなれたほうが良いぞ。何もかもこいつが、裏で手を引いてるに決まって───」
「…知らない人にどうしてそこまで言われないといけないのかな。そもそもキミは誰なんだい」

彼のでかい声に、一気に周囲から注目された気配がした。思いがけない事態にいらいらしてきて、自然と声色が低くなる。

「っ、き、貴様…!俺の名を知らないだと…?はは、格下の人間なんて、お前にとってはどうでもいいのだろうな。いいだろう、教えてやる。俺はゾラン=バイネス。入学試験ではお前に負けて首席を取れなかった、学年二位の男だ!」

どーん!と効果音が出そうなくらい、ゾランは堂々と言い放った。俺はと言うと、ぺらぺらと話された内容に、頭がついていけてなかった。ぽかんと彼の顔を見ていたところで、あることを思い出す。

(あれ?…ゾランって、攻略対象のひとりじゃないか!)

ニールと同級生のゾランは、いじめられていたニールに唯一同情していた男子生徒だ。他のクラスであるということもあって二人の接点は殆どなかったのだが、貴族にしては正義感の強いゾランはニールをなんだかんだで気にかけていた。

ただ、ゲームで見ていたところ、そこまでニールを助けている様子はなかった。一応貴族の息子であるゾランは自分の外聞を気にして、積極的に行動をしようとはしなかったはずだ。それに、由緒正しい貴族の息子であるレオンがニールの手助けをしていたから、自分が助ける必要がないと判断したのだろう。

(ゾランは入学試験でレオンに負けて、それ以来レオンを敵対視するようになるんだよな)

レオンに勝つために、ゾランはレオン情報を調べ上げる。その際に「フェレオル家の悪評」を知り、レオンの裏の性格を疑い始めるのだ。ニールがレオンに騙されているんじゃないか、と考えた彼はレオンに真っ向勝負を仕掛けるも、尽く負けてしまう。

原作中であれば大正解な推理であるが、生憎、俺はニールを騙してなどいない。

「ゾランか。忘れてて悪いね。えーと、君はニールのことが心配で、俺に話しかけてきたのかな。君が、さも事実かのように言ったことなんだけど、それは全てゾランの妄想だよ。だから、口を閉じてくれないかな。人のことを大声で貶めるなんて、君の方こそ性格が悪いと思うんだけど」
「だからそれは、お前がニールを騙していたからで……!」
「へぇ、俺がニールを騙して?それで、実際にそういう場面を見たっていうのかい?」
「ぐ…、フェレオル家の人間のことだから、どうせ上手く隠蔽しているんだろ。白々しい態度を取るな」
「想像だけで、よくこの場で俺に突っかかって来れたよねぇ。そこだけは感心してあげるよ。で、…それはフェレオル家に対する侮辱だと捉えていいのかな?」

今にも掴みかかってきそうなゾランは、顔を真っ赤にしていた。護衛のために腰の杖を手に取ると、それを見たゾランも杖を握った。ゾランの杖は黄色の紋様が浮かんでいる。こいつ、光属性魔法の奴か。血気盛んそうだから、炎属性かと思った。

「レオン、逃げよう…!」

ニールに左腕を引っ張られる。先程まで、ゾランに対し怯えたように見を縮こませていたニールは、びくびくしながらも俺のことを守ろうとしていた。

先に行ってて、という意味を込めてニールの手を払う。気づけばその場は静まり返っていて、周囲の生徒も息を呑んで俺とゾランの対峙を観戦していた。一触即発、といった空気の中で突然、ゆるい声がその場に入ってきた。

「え、何でみんな立ち止まってんの。これってなんの騒ぎ~?」

軽快な足取りで侵入してきたのは、イノーラ = モロウ先生だ。歴史科目の教員であるイノーラ先生はそのゆるい性格から、親しみやすい先生として生徒の中で人気が高い。あの気難しそうなイバン先生でさえ、イノーラ先生には気安く会話をしているらしい。

腰まで伸ばした白髪を揺らしながら、血のように赤い目がこちらを見る。気だるそうな歩き方をしていたイノーラ先生は俺たちが杖を抜きあっているのをみて、苦笑いをした。

「もしかして喧嘩でもしてたの?元気だねー、少年はそうでなくっちゃ。でも、面前の前でやるのはやめてよね。みんな怖がってるし、通行の邪魔だし」

ピリピリした雰囲気の中で、先生の態度は酷く異様に見えた。イノーラ先生は俺たちに近づくと、ニールに向かってこう話しかける。

「それで、どっちが悪いの?」

どうやら、俺たちの真ん中にいたニールが一番状況を把握しているだろうと判断したらしい。ニールの話を聞こうとしだした途端、ゾランが逃げるようにその場から駆け出した。

(まあ、そうだよね。どう見てもニールは俺を庇っているし、ゾランが圧倒的に不利だ)

「えっと、ゾランさんが急にレオンに話しかけてきて…、あ、ゾランさん?」
「逃げられちゃった~。でも、逃げたところで名前もクラスもわかってるから、意味ないんだけどなぁ。…まあ、面倒くさいから詳しいことは聞かないけど、要するにゾランが悪いってことでしょ?後で懲らしめておくから、君たちは先に食堂に行きなよ。次の授業に間に合わなくなるよ」

これだけの情報で、ゾランが悪いと結論付けたらしい。考えなしにいきなり特攻してきたゾランの自業自得といえば自業自得なのだが、ちょっと同情する。言葉こそ強いが、彼の行動原理は正義に近しいからだ。

「いや、そんなにしなくても…。俺も少し頭に血が上ったところもあるので」
「ええ?でも、どっちか成敗しないと示しつかないじゃん。もしかして遠慮してんの?すばらしい心構えだけど、ここは先生に任せなさい。はい、行った行った!」

イノーラ先生はそう言うと、周囲のギャラリーたちにも早く行くように促し始めた。

(あー、これは何言ってもだめそう。申し訳ないけど、ゾランにはイノーラ先生のお叱りを耐えてもらおう)

イノーラ先生がどういう風に叱るのか知らないけど、まあまあ酷い目には合わされるはずだ。なんかあの人、サイコパスっぽいし。

心のなかでゾランに合掌しながら、俺はニールを連れてその場から離れていった。

「ほら、ニール。行こっか」
「…うん。…ごめんね。何もできなくて」
「何言ってるんだ。ニールは俺を守ろうとしていてくれただろう?」

ニールはいじめの件もあって、生徒から注目をあびることを嫌っている。先程ゾランが俺に突っかかって騒動になったときだって、逃げ出したくてたまらなくなっていたはずだ。なのにニールは、俺の側から離れず味方として俺を守ろうとしてくれた。それだけでも心強かったのは本当のことだった。

それに、何より嬉しかったのは、ニールがゾランの言う事を端から信じていない様子であることだ。実は、この件でもしかしたらニールが俺に寄り付かなくなるんじゃないかと内心ドキドキしていたのだ。

(ああ、でも、ゾランは俺のことを"黒側"であると確信している様子だったなぁ。どうやって誤解を解けばいいんだ……)

まったく。厄介な主要キャラだ。アレが攻略対象じゃなくてただのモブだったら、手っ取り早い手段が取れるんだけど。

なんて思っていると、ニールが落ち込んだように項垂れた。

「でも、レオンは僕がいなくても大丈夫そうだった。…あんなに言われたのに、レオンは堂々と言い返してたね。強いなぁ」
「……ニールだって、堂々と言い返せるようになれるよ。いうかジャン達に言ってやればいい。間違っているのはお前たちだ、って。俺はお前たちより強いんだ、ってさ」
「……うん」

(な、なんでこんなにしょんぼりしてるんだ?)

さっきの事件でなにか思うことがあったみたいだ。思い詰めたように表情の暗いニールを慰めたくて、俺は彼の肩を軽く叩いた。
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