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体調不良 2
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前世ではただベッドに寝ているだけで勝手に入院食を出される生活だったし、この世界でも他人に食事を料理してもらうのが当たり前になっているし。自分で作るよりも、お金を出して作ってもらったほうがてっとり早いってのもあるけど。
「だ、だめだよ、面倒くさくても、ちゃんと食べないと倒れるよ」
「俺身体丈夫だし、いっつも朝食抜いてるけどなんとかなってるし大丈夫だよ」
「え、いつも朝ごはん食べてないの?」
おっと、口がすべった。
信じられない、といったニールの双眼がこちらを見つめてくる。だらしない生活をしている俺にドン引きしているのだろう。でも、朝はいつも時間がないから食事が取れない日が多いのだ。
原作のレオンなら、もっときちんとした生活を送っているのだろう。
「あー、ええっと、ま、まあ、……朝は寝坊しがちだから、なかなか時間が取れなくて。昼食と夕食はちゃんと摂ってるから、心配しないで」
「ていうか、今日はご飯食べたの?朝は?昼は?」
「……」
痛いところを突かれて黙り込むと、ニールが困ったような顔をした。呆れられてしまったかな。
(今日はずっと寝てたし、何も食べてないんだよなー……)
あの優等生のレオンがこんなだらしない人間だと知ったニールは、何を思っているのだろう。彼の前ではいい格好を見せていたから、情けない姿を見せられて失望されたのかもしれない。
いつになく早口に畳み掛けてくるニールに苦笑いしながら口をつぐんでいると、不意にニールが俺に背を向けた。
「ちょっと待ってて」
「え、ニール?」
「すぐ戻る!」
その場を駆け出していくニールの後ろ姿を、俺は唖然と眺めていた。
▼△▼
机の上に置かれた、たまごサンドと温かそうなじゃがいものポタージュスープ。美味しそうな料理を目の前に、俺は机に備え付けられている椅子に腰を掛けていた。
隣の椅子に座っているニールが「召し上がれ!」と言って、期待の視線を俺に向けている。これらの料理は、彼の手作りであるらしい。料理に関しては自信があるらしく、珍しく堂々とした態度だ。
「…ありがとう」
そうお礼を言ってポタージュスープに口をつければ、まろやかで温かい味が身体に染み渡った。まさか俺が、手作り料理に感動する時が来るなんて。美味しい、と呟くと、隣のニールが笑った気配がした。
「病み上がりの身体に優しいメニューにしたんだ。時間はたくさんあるし、ゆっくりでいいからね」
(なんか、いつもと立場が逆だな)
今世の俺はどちらかというと、面倒を見る側になり勝ちだから、こんなふうに世話を焼かれるのは新鮮というか……、少し気恥ずかしい。ううん、こういうときのレオンはどんな態度をとるべきなんだろう。
何を行ったらいいのかわからなくて沈黙したまま食事を進める。部屋には食器の音しか響かなくなる。その間ニールは机にノートと教科書を開いて勉強をしていた。
しばらくして食事が終わり、皿を洗いに行くために席を立ち上がる。その際に俺が食べ終わったことに気づいたニールがこちらを見上げた。
「ごちそうさまでした。食べ終わったから洗ってくるよ。ニールはそのまま勉強してて」
「え……病み上がりの人にそんなことさせられないよ。ほら、貸して!僕はもうお暇させてもらうから」
「わ…っ、ちょ、勝手に取らないでくれよ」
手に持っていた皿をするりと取られる。ニールのやけに強引な態度に目を白黒させている間にも、ニールが食器を持っていこうとする。それを慌てて止めてなんとか言いくるめると、結局俺が自室のキッチンで食器を洗うことになった。作ってもらったというのに皿も洗わずに返すなんて、そんなに礼儀のなってない男じゃない。
席で座って勉強の続きをしていればいいものを、ニールはキッチンまで付いてきた。不満げに頬を膨らませたまま、俺の隣に立っている。そして、俺が皿を洗いだすと、その手際を見定めるかのように観察してきた。
(ふ、不機嫌だ…)
納得いっていない表情で見られて、気まずい。
「レオンはいつも、頑張り過ぎだと思うなぁ」
「……え?」
沈んだ彼の声色に、一瞬だけ手が止まる。そんな俺を介さず、ニールは続けた。
「レオンはもっと自分のための時間をとったほうが良いよ。お母様の目が気になるのはしょうがないけど、この学校で過ごしている間はもっと自由に生きても良いと、思う。それに、レオンは今のままでも十分すぎるくらいすごい人だし……」
「……」
ニールのその言葉に、俺は違和感しか感じることができなかった。だって、俺は十分自由に生きていると思う。だって、思いのままに動く手足に身体があって、好きな時に行きたい場所に行けて、四六時中誰かの手を借りなくても自分の世話は自分でできる。
前世での寝たきりだった俺には無かった『自由』が、ここにはある。これ以上、俺は何を望めるというのだろう。
ーーーーなんて疑問をニールにぶつけるわけにも行かないから、黙ることしかできないんだけど。
「僕は貴族のお家のしきたりとかわからないけど、でも、自分の体は大切にしないとだめだよ。たまには休んでも良いんじゃないかって、僕は思うんだけど…ご、ごめん。勝手に色々言って」
「……うん。大丈夫だ。ありがとう」
俺は十分幸せに生きていると思う。だけど、ニールが俺のことを心配していることは十分わかった。
(……ニールが心配するのなら、明日からはもっと健康的な生活を心がけておこうなか)
うん、そうだ。それがいい。俺が彼の懸念材料に鳴ってはいけない。主人公であるニールは。自分のことだけを気にして生活していればいいのだ。今でさえ彼の境遇は劣悪なのだから。
「だ、だめだよ、面倒くさくても、ちゃんと食べないと倒れるよ」
「俺身体丈夫だし、いっつも朝食抜いてるけどなんとかなってるし大丈夫だよ」
「え、いつも朝ごはん食べてないの?」
おっと、口がすべった。
信じられない、といったニールの双眼がこちらを見つめてくる。だらしない生活をしている俺にドン引きしているのだろう。でも、朝はいつも時間がないから食事が取れない日が多いのだ。
原作のレオンなら、もっときちんとした生活を送っているのだろう。
「あー、ええっと、ま、まあ、……朝は寝坊しがちだから、なかなか時間が取れなくて。昼食と夕食はちゃんと摂ってるから、心配しないで」
「ていうか、今日はご飯食べたの?朝は?昼は?」
「……」
痛いところを突かれて黙り込むと、ニールが困ったような顔をした。呆れられてしまったかな。
(今日はずっと寝てたし、何も食べてないんだよなー……)
あの優等生のレオンがこんなだらしない人間だと知ったニールは、何を思っているのだろう。彼の前ではいい格好を見せていたから、情けない姿を見せられて失望されたのかもしれない。
いつになく早口に畳み掛けてくるニールに苦笑いしながら口をつぐんでいると、不意にニールが俺に背を向けた。
「ちょっと待ってて」
「え、ニール?」
「すぐ戻る!」
その場を駆け出していくニールの後ろ姿を、俺は唖然と眺めていた。
▼△▼
机の上に置かれた、たまごサンドと温かそうなじゃがいものポタージュスープ。美味しそうな料理を目の前に、俺は机に備え付けられている椅子に腰を掛けていた。
隣の椅子に座っているニールが「召し上がれ!」と言って、期待の視線を俺に向けている。これらの料理は、彼の手作りであるらしい。料理に関しては自信があるらしく、珍しく堂々とした態度だ。
「…ありがとう」
そうお礼を言ってポタージュスープに口をつければ、まろやかで温かい味が身体に染み渡った。まさか俺が、手作り料理に感動する時が来るなんて。美味しい、と呟くと、隣のニールが笑った気配がした。
「病み上がりの身体に優しいメニューにしたんだ。時間はたくさんあるし、ゆっくりでいいからね」
(なんか、いつもと立場が逆だな)
今世の俺はどちらかというと、面倒を見る側になり勝ちだから、こんなふうに世話を焼かれるのは新鮮というか……、少し気恥ずかしい。ううん、こういうときのレオンはどんな態度をとるべきなんだろう。
何を行ったらいいのかわからなくて沈黙したまま食事を進める。部屋には食器の音しか響かなくなる。その間ニールは机にノートと教科書を開いて勉強をしていた。
しばらくして食事が終わり、皿を洗いに行くために席を立ち上がる。その際に俺が食べ終わったことに気づいたニールがこちらを見上げた。
「ごちそうさまでした。食べ終わったから洗ってくるよ。ニールはそのまま勉強してて」
「え……病み上がりの人にそんなことさせられないよ。ほら、貸して!僕はもうお暇させてもらうから」
「わ…っ、ちょ、勝手に取らないでくれよ」
手に持っていた皿をするりと取られる。ニールのやけに強引な態度に目を白黒させている間にも、ニールが食器を持っていこうとする。それを慌てて止めてなんとか言いくるめると、結局俺が自室のキッチンで食器を洗うことになった。作ってもらったというのに皿も洗わずに返すなんて、そんなに礼儀のなってない男じゃない。
席で座って勉強の続きをしていればいいものを、ニールはキッチンまで付いてきた。不満げに頬を膨らませたまま、俺の隣に立っている。そして、俺が皿を洗いだすと、その手際を見定めるかのように観察してきた。
(ふ、不機嫌だ…)
納得いっていない表情で見られて、気まずい。
「レオンはいつも、頑張り過ぎだと思うなぁ」
「……え?」
沈んだ彼の声色に、一瞬だけ手が止まる。そんな俺を介さず、ニールは続けた。
「レオンはもっと自分のための時間をとったほうが良いよ。お母様の目が気になるのはしょうがないけど、この学校で過ごしている間はもっと自由に生きても良いと、思う。それに、レオンは今のままでも十分すぎるくらいすごい人だし……」
「……」
ニールのその言葉に、俺は違和感しか感じることができなかった。だって、俺は十分自由に生きていると思う。だって、思いのままに動く手足に身体があって、好きな時に行きたい場所に行けて、四六時中誰かの手を借りなくても自分の世話は自分でできる。
前世での寝たきりだった俺には無かった『自由』が、ここにはある。これ以上、俺は何を望めるというのだろう。
ーーーーなんて疑問をニールにぶつけるわけにも行かないから、黙ることしかできないんだけど。
「僕は貴族のお家のしきたりとかわからないけど、でも、自分の体は大切にしないとだめだよ。たまには休んでも良いんじゃないかって、僕は思うんだけど…ご、ごめん。勝手に色々言って」
「……うん。大丈夫だ。ありがとう」
俺は十分幸せに生きていると思う。だけど、ニールが俺のことを心配していることは十分わかった。
(……ニールが心配するのなら、明日からはもっと健康的な生活を心がけておこうなか)
うん、そうだ。それがいい。俺が彼の懸念材料に鳴ってはいけない。主人公であるニールは。自分のことだけを気にして生活していればいいのだ。今でさえ彼の境遇は劣悪なのだから。
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