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体調不良 1

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休日にニールを遊びに誘って、なんやかんやで一緒にいることになって。ジャンたちに見つかったら面倒だから、周囲に気を配りながら街で一緒に遊んで……、それなりに楽しかった時間は一瞬で過ぎて、気がつけば今週の休日は終わっていた。

今日は忌々しい月曜日。鳴り止まない着信音で意識が浮上する。こんな朝っぱらから電話をかけられたのは、入学式当日以来かもしれない。

(はー…、なんかだるいな)

もともと寝起きがいい方ではないけど、今朝は特に体が重い。

相手の名前を確認することさえ億劫で、半分意識が夢に囚われた状態のまま手探りで四角い板を探すと、スマホの画面をタップした。

「だれぇ?」
「うわ、声ガッスガス…。画面くらい見てから電話にでろ。ジャンだ」
「……へぇー」

朝っぱらからかけてくるなんて、珍しい。と思いながらも、今はとにかく睡眠を貪りたかった。無関心そうに返事をする俺に、ジャンが不機嫌そうなため息をつく。

「授業始まってるっていうのに教室でレオンの姿が見えないから、電話してやったんだ。その様子だと、今まで寝ていたんだな。次の授業の実技でテストあるから、それまでに来ないと点がもらえないぞ。今は休み時間中だから、今のうちに学校に来い」
「ジャンのくせに、気が利くじゃん…」
「…は!?し、失礼なやつだな貴様!せっかく電話してやったというのに……。お前もしかして、そっちが素なのか?」
「んー…」
「……ふぅん。いいこと知ったな」

ジャンの声がよく聞こえなくて、携帯を耳に近づけた。そのままうとうとしてきて、寝息にも似た声が出る。

「お前、本当に寝起き悪いんだな。俺が毎朝モーニングコールでもしてやろうか」
「いらない。冗談はよせ」
「俺だって嫌だ。今のはただの冗談だってば。いつもこれくらいの軽口たたいているだろ。本当に本調子じゃないんだな。…ほら、もうすぐ2限始まるぞ。俺は先にグラウンドに向かうから。じゃ」

こいつ、こんなに面倒見の良いやつだっけ。…いや、これはきっと夢か幻だな。

目を閉じて、ふわふわした思考でジャンの声を聞いていたら、電話がブツリと切られた。
急に部屋が静かになって、ちょっと変な感じがする。ようやく身体を起こすと、時計を横目でちらりと見た。あと少しで2限が始まるという時間帯だ。間に合うだろうか。

えーと、2限は実技だから、これからグラウンドに向かえばいいんだっけ。たぶん、そんな事をさっき聞いた気がする。前の授業サボっちゃったから、後で1限担当の先生に謝りに行こう。職員室に向かうのは、……昼休みでいっか。

これからのことをふわっと考えながら制服に袖を通す。本来ならもっと焦るべき事態なのだろうが、今日の俺は何故かやけに落ち着いていた。落ち着いているというか、いまいちこれが現実なのかどうか分からなくて、頭がぼうっとするのだ。まだ目が覚めきっていないのだろう、とまで考えたところで、身支度のためにせわしなく動いていた足がふと止まった。

「…あれ?さっき誰と通話してたんだっけ」






▼△▼

今日はなぜか、いつもより頭が働かない。それに気づいたのは、3限が終わった後だった。

2限の実技の少テストは普段どおり難なくこなしたし、3限の座学だってとくに問題は生じなかった。ただ、全体的に身体が気怠いのだ。

身体が重いのは自覚していたが、それを表に出したつもりはなかった。だけど無意識下では不調が現れていたようで、「何かあったの?」と何度もクラスメイトに声をかけられたり、「体調が悪いんじゃないか」と、イバン先生にまで心配されたりした。隠しきれないくらいの不調に陥っているということに、自分でもちょっとやばいかなと感じた。

今世では滅多に体調を崩していないから、久しぶりのそれに戸惑っていたのかもしれない。


保健室に強制的に連行されて熱を測ってもらうも、平熱だった。おそらく疲れが溜まっているのだろう、と保健医に診断されて、とりあえずは休養を取るべきということで無理やり寮に連れ戻されることになった。本当は保健室のベッドで休むという話だったのだが、他人の気配がするところでゆっくり休める気がしなかったため断らさせてもらった。一人暮らしを始めてからというもの、一人の空間が一番心休まるということを知ってしまったのだ。

イバン先生に付き添ってもらって寮室前まで送ってもらう。とにかく今日は休め、と先生に念を押された俺は一人で寮室に入ると、大人しくベッドに潜り込んだ。これくらいの不調、そこまで大げさにしなくても大丈夫と思うのだけど、そこまで言われるのなら今日くらいはゆっくりさせてもらおうかな。目を閉じればびっくりするくらいすんなり眠りにつくことができた。保険医の言う通り、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたんだろうな。

そうして夢の世界に旅立って、どれくらいの時間が経過しただろうか。ふと目を覚ませば、空が赤くなっていた。けっこう長い間寝ていたみたいだ。

茶色の髪についた寝癖を手で直しながら、ベッドから降りる。寝ぼけているけど、眠る前より遥かに体の調子が良くなっていた。休息って大切だなぁ。

(無理矢理にでも休ませてくれた先生方に、後でお礼を言いに行かないといけないな)

しかしずっとベッドに寝ていたものだから、身体のあちこちがこっている。両腕を上にあげながら伸びをして、寝起きのストレッチをしていると、寮室の玄関の方から、コンコンと叩く音がした。

今は放課後の時間帯だし、授業を終えた先生が見舞いにでも来てくれたのだろうか。と思いながら玄関に向かって返事をし、ドアを開けるために音が鳴ったほうに足を向けた。

「あ、あの、僕、ニールです」
「…ニール!?」

ドアの向こうからニールの声が聞こえてきて、寝起きの割に大きな声が出てしまった。だってまさか、わざわざ部屋まで来てくれると思わなかったのだ。

急いで玄関に走って扉を開く。部屋の外には、制服姿のニールが立っていた。

「…レオンが今日早退したって聞いて、心配で来ちゃった。調子は、どうかな」

何でここに、と言う前に、ぐらりと視界が傾いた。寝起きで走ったのがいけなかったらしく、一瞬だけ足から力が抜けてしまったのだ。ニールにぶつからないようにするために既の所で踏ん張る。急に倒れそうになった俺を見たニールはびくりと体を揺らしながらも、心配そうに声をかけてくる。

「レオン…!?だ、大丈夫?」
「うん。寝起きだから、少し立ちくらみしただけみたいだ。体調は随分良くなってるから、心配しないで」
「そっか……、ご飯はたべてないよね?今まで寝ていたみたいだから……。夕飯食べに、食堂行く?」
「んえー…面倒くさいし、いらない」
「ここで食べるの?自炊してる?」
「料理はしないけど、…冷蔵庫の中探せば何か入ってるでしょ」

前世でも今世でも、台所に立つような環境で生きてこなかった俺は、料理をしたことがあまりない。やればできないこともない気がするものの、料理に対してそこまで興味がわかないのだ。

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