主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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この世界は、各国に保管されている精霊石で成り立っている。

精霊石というのはその名の通り、精霊の石。俺たち人間が魔法を使えているのは、この精霊石に込められた膨大な力のおかげである。

一つの国に一つだけ精霊石が設置されている。そしてその精霊石を管理するのは、教会の仕事だ。

教会は精霊に祈りを捧げる場所だ。そして、お金はかかるがそこで属性魔法を調べることもできる。金を持て余した貴族は、学校で診断を受ける前に教会で水晶の儀をすることもあった。

ただ、教会の本当の役割は、この地に宿った精霊たちを保護し、そしてその精霊が作ったとされる精霊石を守ることだ。

「精霊は穢らわしいものが嫌いです。だから、精霊が宿る聖地に入るには、清潔で清浄な身なりをしなければなりません。死を連想するもの…例えば血液や、動物の骨などは絶対に持ち込んではいけません。精霊が嫌うものを持ち込むと、精霊がその地から姿を消してしまう恐れがあります」

イノーラ先生の、珍しく真面目そうな声が聞こえる。普段はまったりした話口の彼がこんなにも神妙に話すのは、この学園に精霊の聖地が存在するからであるらしい。

「というわけで、みんなも精霊様に嫌われないよう、十分に気をつけてね。この学園の精霊の機嫌を損ねたら、即退学です!」

退学、という言葉に生徒が息を呑む。それに気づいてなのか、イノーラ先生はフォローのように"まあ、精霊は寛大な方ですので、よっぽどのことがない限り退学にはならないと思いますが"と締めくくった。





(精霊、ねぇ……いかにも本編に関係してきそうな存在だな)

例の授業も終わり、今は放課後。俺はジャンと二人で夕飯を食べていた。いつもはジャンの取り巻きも居るのだが、今日は珍しく二人だ。騒がしくないので、普段よりは心地いい。

きのこのスープを啜りながら、先程の授業を思い出していた。精霊の存在については幼い頃から知っていたのだが、今日改めてイノーラ先生の授業を受けて、考えさせられてしまった。

国、いや、世界の根幹とも言える精霊石。今後その精霊石に、何かが起こるんじゃないか?

まあ、精霊石について考察したところで、ニールの今後の展開が必ずしも思い出せるというわけじゃないけど。でも絶対に物語に関わってくる要素だと思うんだよなぁ。

「おい、レオン。さっきからぼうっとしているが、大丈夫か?」

食べかけのハンバーグを卓に置いているジャンが、話しかけてくる。普段の杜撰な行いに反して、食事中のマナーと姿勢は綺麗だ。さすが貴族の息子。

この約二ヶ月間で、ジャンのことが色々と分かってきた。原作ではジャンについて深掘りされていなかったから、最初はただのいじめっ子としか認識していなかった。だが、彼のニールに対する底意地の悪さは、両親による刷り込みが大きな要因であるらしい。要するに、「庶民=下等」という考えが彼の幼い頃から根付かされているのだ。

因みに、原作のジャンはレオンに懐いていたが、この世界のジャンも無事にレオンに懐いているようだ。原作と違って共犯者ではないものの、なんだかんだでジャンは俺の後ろをついてくる。犬みたいでちょっとかわいいなって思ってしまったときもあって、それを自覚したときは屈辱でへこみそうになった。

まあ、ジャンがニールを蔑視するのは両親のせいだとしても、ジャンが実際にニールにしでかしてることは酷いものなので、情状酌量の余地は無し。

「ごめん。考え事をしていた」
「ふぅん。どうせニールのことだろ」

少し不服そうなその声色に、内心ドキリとする。やばい、そろそろジャンの機嫌を取るのも限界か?

全てを庇いきれていないとは言え、ニールへのいじめを尽く邪魔するのはレオンだし。そろそろ真正面から不満を言われてもしょうが無い。

「お前さぁ……なんであいつのことをあそこまで庇うんだよ」

はあ、とため息をつくジャンに、慌てて弁解する。弁解というか、俺がいつも言い訳に使っている言葉を繰り返した。

「いやぁ、庇ってるつもりはないんだけどね?ただ、目の前で下手に騒ぎになったら、俺も巻き沿いになるかもしれないじゃない?無駄な時間は取られたくないんだよね」
「へーへー。相変わらずストイックというか……無駄なこときらいだよな、お前。…最初は庶民とかどうでもいいって言ってたくせに、あいつとけっこう仲良くしてるみたいだし。そのせいで、レオンがニールに取られっぱなしだし」
「…うん?なにか言った?」

ぼそぼそと何かを言っていたが、よく聞こえなかった。聞き返した俺を無視して、ジャンはフォークを置くと、先程の不機嫌そうな表情と一転してにやにやしながら口を開いた。

「ま、いいや。今度の日曜日は音楽室に来るなよ」
「…わかったよ。でも、なんで?」
「楽しいことする予定だから」

ええ~、気になる~。といっても、ジャンのこの感じだとどんな風に聞いても口を割ることはなさそうだ。

絶対ニール絡みじゃん。俺に来て欲しくないって、俺に邪魔されたくないからでしょ。でもジャン個人としては 俺と仲良くしておきたいから、ふんわりした言い方で忠告してきたんだろうな。性格の悪い奴め。お陰で俺は、今週末音楽室に行く用事がたまたまできてしまったという言い訳ができなくなった。ここでジャンに釘を差されてしまったため、当日音楽室に特攻することはできない。

(……日曜日、ニールを遊びに誘ってみるか)

なんとかニールに用事を作らせて、ジャンと会えないようにすればいいのだ。自然とジャン達の邪魔をする形になっちゃうけど、まあ、「日曜日にニールを遊びに誘うな」とは言われてないし。しょうが無いよな。

(でも、ずっとこういうことを考えながらの学園生活って大変だな)

最近、自分が疲れていることを実感する。気を使いすぎているのだろう。ニールの様子に気を配りながら同級生との仲を保つのは、労力がかかった。

もちろん、成績を落とすと両親に雷を落とされるため、勉学や運動も怠っていない。品行方正、文武両道のレオンでいるためには、努力が必要なのだ。

(勉強は楽しいんだけど、最近体調不良が続いているから、きついんだよなぁ)

そもそも、寝起きが悪いから朝食を抜く日がほとんどなのも、体調が悪い原因かもしれない。昼食を食べた後は頭がすっきりするのだけど、午前中は危ういこともある。

やばい。俺って、一人暮らしに向いてないかもしれない。

実家だったら生活習慣はしっかり管理されていたから、体調もすこぶる良かった。学園に入学して寮に入ってからは、今まできっちり管理されていた反動もあってだらけた生活になっているかもしれない。

だけど、朝弱いのはしょうが無いよな。だって、どう頑張っても起きれないし。アラームをセットしても二度寝には逆らえないからな。

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