主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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入学初日 2

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朝食を抜いたお腹だったが、無事に入学式を乗り切った。教師に割り当てられたクラスで教室に向かうと、ようやく自分の席に座る。学長の話が長いというのは、異世界でも共通らしい。話を聞いているだけなのに、入学式だけでとても疲れていた。

そんな矢先のことだった。

「ニール=エグバードです。えっと、僕は皆さんのような立派な家柄の出ではないのですけど、よ、よろしくお願いします」

クラスメイトの前でおどおどしながら自己紹介をする男子生徒の姿に思考が停止する。キラキラ輝く水色の瞳に、ふわふわ跳ねた真っ白い髪。見覚えのある容姿に、聞き覚えのある名前。

ニール=エグバード……って、まさかの主人公じゃないか!

(主人公と入学時期被ってたんだ。しかも、同じクラスだし。うわー、本物じゃん。BLゲームの主人公なだけあって、めちゃくちゃ美形だな)

感覚としては、テレビの中の芸能人を目の前で見ているようなものだ。妹に見せてもらった立ち絵そっくりの容姿に、関心すら感じる。

(それにしても、今のその自己紹介…不味いんじゃないか?)

この学園に来るのは、金持ち貴族や王族の子孫ばかり。駆け引きや取引が大好きな貴族にとって、学年最初の自己紹介イベントは自らの力を他の生徒に見せつけるための、一大イベントだ。

誰もが自慢げに家柄を示し、自らの価値を見せつける。弱肉強食の意識が強いこの世界で、弱い者いじめは当たり前のようにある。誰もが自分が標的にならないよう、強く見せようとするのだ。

入学初日の自己紹介イベントは、俺たち貴族にとって自分の力を周りに知らせる大事なフェーズ。だというのに、主人公は自信なさげに、おどおどした態度で自己紹介をしてしまった。

せめてもっと自信満々に言えばそこまで浮かなかったはずなのに。と、今更そんな風に思っても時すでに遅し。

主人公のシンプルな自己紹介に、クラスメイトがざわめきだした。

「なに、あの子。声小さいし。というか、あんな見窄らしい格好の貴族なんていた?」
「知らねえよ…。つーか、自己紹介短くね?なんで自分の親の階級を言わねえんだよ」
「さあ?よっぽど没落した家なんじゃない?」
「そんな貧乏な家系の息子が、この難関学園に入学できるわけないでしょ。……なーんか、変な子だな」

生徒の前で"庶民"とはっきり言わなかったのは賢いが、身分がバレるのも時間の問題だろう。貴族の情報網っていうのは広いのだ。

(まあ、これも原作通りの展開といえば展開なのか?)

ストーリーの細かいことまであまり知らないため、これが原作通りなのかとは断言できないが。なんとなーく、これが正しい展開なんだろうなとは思う。悲しいことに。

「……いいだろう。席に戻れ」
「はい」

担任教師の声に従って、ニールは行儀よく一礼すると歩き出した。そういえば教師の中にも攻略対象がいたはずだけど、この担任だっただろうか。うろ覚えだから、うまく思い出せないな。

担任教師の名前は、イバンと言っていたな。…うーん、思い出せない。イバン先生は神経質そうな顔つきで、鋭い視線を生徒に向けているし。怖そうだし、ちょっと苦手なタイプかもしれない。

不安そうに席に戻る主人公……、ニールの姿を見ながら原作の流れを思い出す。主人公は今後、身分の違いや低い魔術能力によって悪目立ちが続き、同級生からいじめを受けることになる。

彼は何も悪くないのに、本当にかわいそうだ。というか、彼の同級生になったということは、多少原作に関わらざるを得ないということか?

……確か彼は今後とてもかわいそうな目に合うんだけど、俺は他のやつみたいに変なプライドとか自己顕示欲とかないし。俺だけは彼と普通に接してやろう。もしかしたら、主人公の友達ポジションくらいにはなれるかもしれない。

俺だけは優しくしてあげるからな……なんて思いながら、教壇から席に戻っていくニールの姿を見る。偶然にも彼は俺の隣の席だったため、近くでニールのことを観察できた。

庶民の出であるためか、周りの生徒と比べて手足も腰も細身だ。貴族は毎日満足いくまで食事を取ってツヤツヤしているから、見た目から他の生徒と雰囲気が違う。ちゃんと食事は取れているんだろうか。

ニールの自己紹介が終わって、数人後に続いた後、俺の番が来る。適当に、貴族の奴らが気に入りそうなことを言って難なく自己紹介を終えると、再びニールの隣の席に座った。

侯爵家の長男という肩書に加えて英才教育の過程で取った賞や資格をつらつら並べた後に、王族にコネがあることをほのめかしただけの自己紹介。まあ、王族と関わりがあると言えば、下手に絡んでくるやつもいないだろう。

ちなみに俺は今回の試験で首席をとっている。普通の生徒よりも嫉妬や僻みを受けやすい立場にいるため、先手を打たせてもらったということだ。

俺のコネを手に入れるためにひっついてくる輩は増えるかもしれないけど、まあ、それはそこまで問題ではないからいいか。それに、人脈が増えるのは俺も嬉しいことだし。

こうして、世渡り上手な俺は学園の第一関門を突破したのだった。


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