主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

文字の大きさ
上 下
3 / 24

入学初日 2

しおりを挟む
▼△▼

朝食を抜いたお腹だったが、無事に入学式を乗り切った。教師に割り当てられたクラスで教室に向かうと、ようやく自分の席に座る。学長の話が長いというのは、異世界でも共通らしい。話を聞いているだけなのに、入学式だけでとても疲れていた。

そんな矢先のことだった。

「ニール=エグバードです。えっと、僕は皆さんのような立派な家柄の出ではないのですけど、よ、よろしくお願いします」

クラスメイトの前でおどおどしながら自己紹介をする男子生徒の姿に思考が停止する。キラキラ輝く水色の瞳に、ふわふわ跳ねた真っ白い髪。見覚えのある容姿に、聞き覚えのある名前。

ニール=エグバード……って、まさかの主人公じゃないか!

(主人公と入学時期被ってたんだ。しかも、同じクラスだし。うわー、本物じゃん。BLゲームの主人公なだけあって、めちゃくちゃ美形だな)

感覚としては、テレビの中の芸能人を目の前で見ているようなものだ。妹に見せてもらった立ち絵そっくりの容姿に、関心すら感じる。

(それにしても、今のその自己紹介…不味いんじゃないか?)

この学園に来るのは、金持ち貴族や王族の子孫ばかり。駆け引きや取引が大好きな貴族にとって、学年最初の自己紹介イベントは自らの力を他の生徒に見せつけるための、一大イベントだ。

誰もが自慢げに家柄を示し、自らの価値を見せつける。弱肉強食の意識が強いこの世界で、弱い者いじめは当たり前のようにある。誰もが自分が標的にならないよう、強く見せようとするのだ。

入学初日の自己紹介イベントは、俺たち貴族にとって自分の力を周りに知らせる大事なフェーズ。だというのに、主人公は自信なさげに、おどおどした態度で自己紹介をしてしまった。

せめてもっと自信満々に言えばそこまで浮かなかったはずなのに。と、今更そんな風に思っても時すでに遅し。

主人公のシンプルな自己紹介に、クラスメイトがざわめきだした。

「なに、あの子。声小さいし。というか、あんな見窄らしい格好の貴族なんていた?」
「知らねえよ…。つーか、自己紹介短くね?なんで自分の親の階級を言わねえんだよ」
「さあ?よっぽど没落した家なんじゃない?」
「そんな貧乏な家系の息子が、この難関学園に入学できるわけないでしょ。……なーんか、変な子だな」

生徒の前で"庶民"とはっきり言わなかったのは賢いが、身分がバレるのも時間の問題だろう。貴族の情報網っていうのは広いのだ。

(まあ、これも原作通りの展開といえば展開なのか?)

ストーリーの細かいことまであまり知らないため、これが原作通りなのかとは断言できないが。なんとなーく、これが正しい展開なんだろうなとは思う。悲しいことに。

「……いいだろう。席に戻れ」
「はい」

担任教師の声に従って、ニールは行儀よく一礼すると歩き出した。そういえば教師の中にも攻略対象がいたはずだけど、この担任だっただろうか。うろ覚えだから、うまく思い出せないな。

担任教師の名前は、イバンと言っていたな。…うーん、思い出せない。イバン先生は神経質そうな顔つきで、鋭い視線を生徒に向けているし。怖そうだし、ちょっと苦手なタイプかもしれない。

不安そうに席に戻る主人公……、ニールの姿を見ながら原作の流れを思い出す。主人公は今後、身分の違いや低い魔術能力によって悪目立ちが続き、同級生からいじめを受けることになる。

彼は何も悪くないのに、本当にかわいそうだ。というか、彼の同級生になったということは、多少原作に関わらざるを得ないということか?

……確か彼は今後とてもかわいそうな目に合うんだけど、俺は他のやつみたいに変なプライドとか自己顕示欲とかないし。俺だけは彼と普通に接してやろう。もしかしたら、主人公の友達ポジションくらいにはなれるかもしれない。

俺だけは優しくしてあげるからな……なんて思いながら、教壇から席に戻っていくニールの姿を見る。偶然にも彼は俺の隣の席だったため、近くでニールのことを観察できた。

庶民の出であるためか、周りの生徒と比べて手足も腰も細身だ。貴族は毎日満足いくまで食事を取ってツヤツヤしているから、見た目から他の生徒と雰囲気が違う。ちゃんと食事は取れているんだろうか。

ニールの自己紹介が終わって、数人後に続いた後、俺の番が来る。適当に、貴族の奴らが気に入りそうなことを言って難なく自己紹介を終えると、再びニールの隣の席に座った。

侯爵家の長男という肩書に加えて英才教育の過程で取った賞や資格をつらつら並べた後に、王族にコネがあることをほのめかしただけの自己紹介。まあ、王族と関わりがあると言えば、下手に絡んでくるやつもいないだろう。

ちなみに俺は今回の試験で首席をとっている。普通の生徒よりも嫉妬や僻みを受けやすい立場にいるため、先手を打たせてもらったということだ。

俺のコネを手に入れるためにひっついてくる輩は増えるかもしれないけど、まあ、それはそこまで問題ではないからいいか。それに、人脈が増えるのは俺も嬉しいことだし。

こうして、世渡り上手な俺は学園の第一関門を突破したのだった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました

柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!? しかも男用!? 好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて… 二作目です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

処理中です...