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入学初日 3
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クラスメイト全員の自己紹介が終わると、お試し授業が始まった。入学初日は試用授業で、明日からは本確定な授業が始まるらしい。お試しだから授業も午前で終わるみたい。
授業と言っても、オリエンテーションみたいなものだ。この学園で何を学ぶのか、それぞれ何を目指すのかについて、あの怖そうな担任のイバン先生に教わった。あと、学内地図も配布された。これが一番ありがたかった。俺は方向音痴だから、地図はなるべく手放さないようにしよう。
「では、本日の授業はこれまでとする。明日は水晶の儀があるため、必ず学校に来るように」
イバン先生は最後にそう締めくくると、キビキビした足取りで教室を出ていった。おい、連絡事項あれだけかよ。こっちは新入生だというのに、随分と放任してくれたものだ。クラスメイトも戸惑いにざわめいていたが、ひとりふたりと席を立つ者が増えて、教室が話し声で包まれる。
はじめまして、と早速友達(コネ)作りに励んでいるクラスメイトの声が飛び交う。
(水晶の儀、か。本当にあるんだな。どんなのだろう?楽しみだな)
水晶の儀とは、15才以上になる子供が必ず受けなければならない儀式のことである。儀式では子供がひとりひとり水晶の審査を受け、そこで初めて自分の属性魔法を調べてもらうのだ。
水晶の儀は同級生と先生、全員の前で行われる。だから、誰がどの属性なのかその場で全員に知られてしまう。
属性魔法は15才になると現れる。それまでは無属性の魔法しか使えない。属性魔法がわかると、属性専用の杖を使って、より広い幅の魔法を使うことができる。
大抵の子供は学園に入学する際、学校に強制的に受けさせられる。偶に教会で受けるやつもいるが、それは少数派だ。
小学校の頃に初めて水晶の儀について学んだときは、「異世界っぽい~!」とテンションを上げていたものだ。それを明日、とうとう俺が受ける時が来るなんて。少し現実味がないことだった。
(っと、こんなことをしみじみ思い返してる場合じゃないな。俺からもクラスメイトに話しかけて、適当に愛想よくしておかないと)
いつまでも自分の席から離れず黙っていたら、根暗なやつだと思われてしまう。そろそろ自分もあの地獄のような会話に混ざらなければ、と思ったところで、とんとんと右肩が叩かれる。
右を見れば、主人公…ニールが席から立って俺の直ぐ側に立ち、気遣わしげな瞳でこちらを見下ろしていた。
「あ、あの、はじめまして……。隣の席の、ニール=エグバードです」
どうやらニールの方から話しかけに来てくれたらしい。よほど勇気を振り絞って話しかけてくれたのか、めちゃくちゃ不安そうだ。社交的な性格ではないみたいだから、俺から話しかけてやればよかったなぁ。
「…さっき聞いたよ、ニールだね。俺はレオン=フェレオルだ。よろしく」
「よ、よろしく……。あの、僕、ここにも引っ越してきたばかりでわからないことだらけで……。隣の席になった縁に、色々と助けてくれると嬉しい、です」
うんうん、言われなくても助けてやるとも。
席から立って、同じくらいの高さでニールと目を合わせる。子犬のようにぷるぷるしている主人公を安心させるように、にこりと笑いかけると、ニールの表情が少し明るくなった。近くで見ても、本当に美人だなぁ。さすがBLゲームの主人公。
と、ニールの顔立ちに感嘆していたところで、あることに気づいた。
(…あれ?この場面、既視感があるな)
入学初日、ニールはなかなか生徒たちの会話に混ざれない。どんどん人の輪ができていく中で、唯一未だにひとりでぽつんとしていた隣の席の生徒にニールはようやく話しかける。隣の席の生徒が親切に言葉を返してくれると、自らの事情を少し話して、「色々と助けて欲しい」と頼むニール。
先程の会話内容も、なんか聞いたことあるものだったし…、これってもしかして、原作にある場面か?
それに気付いた瞬間、頭の中に自分の意志と反して口が勝手に動き出した。
「お安い御用さ。何か困ったことがあったら俺に言って。なんてったって俺は、王家に匹敵するほど聡明なフェレオル家の嫡男なんだから」
「う、うん!ありがとう!」
まてまて、俺はこれほど自信満々に自分の血筋を語るような性格じゃない!王家って言っても、一応は侯爵の身だぞ!こんなこと言ったら頭が高いって怒られる!
そう心のなかで突っ込んだところでも、既に言ってしまったことは取り消せない。
「じゃあ、せっかくだし連絡先交換しようか。スマホは持ってる?」
「うん。……えっと、どう操作したらいいのかな。ごめん、スマホをこの前買ったばかりだから、使い方をあまり知らなくて」
「ああ、貸して。俺が教えてあげるよ」
つらつらと並べられたセリフは、予め誰かに決められていたようにぺらぺら出てきた。貴族らしく上品なほほ笑みを浮かべながら胸を張る俺の姿は、ニールからしてみれば頼りがいのあるものだっただろう。早くも俺に信頼の眼差しを向けているニールの視線が痛かった。
(おい、まて……俺が今言ったセリフって、まさか……)
点と点が繋がって、だんだん前世での記憶が蘇ってくる。その内容に、俺は後ろにひっくり返りたい気持ちになった。
どうして今まで気づけなかったのだろうか。レオン=フェレオル…そんな名前を持つ男子生徒が原作にいたのだ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も魔法の才能もあって、身分もそこそこ高く、性格は人に好かれるもので、同級生の中では頼れる兄貴分ポジションにいる男。誰にでも親切で、貴族特有のプライド高い性格はあるものの、ほかと比べては薄いほうだから接しやすい。先生にも同級生にも上級生にも人気者の優等生。それが、レオン=フェレオルという男子生徒の、表向きの評価だ。
(たしかレオンって、裏ではけっこうとんでもないことやってるんだよな……俺はやってないけど…)
レオンはいじめの常習犯で、人好きしそうなことを言うくせに人を踏み台にすることに何の罪悪感も抱かないような、とんでもないやつだ。
主人公であるニールは、彼に尊敬の眼差しを向ける男子生徒の一人だった。だが……、レオンはニールを裏切るのだ。物語の中の、悪役として。
「……まさか悪役に生まれ変わっちゃうなんてなぁ………最悪だ」
さーて、今になって色々と原作のことを思い出してきたぞ。原作時間までの今まで、何も考えずに好き勝手生きてきたものだから、これからは今後のストーリーのことを考えて行動しないといけない。
幸い今のところ、これといって悪いことはしてないし、これからもする気はない。
だけど、うかうかしていると原作補正によってざまぁ展開に持っていかれるかもしれない。今後充実した人生を送るためにも、しっかりしなくては……!
授業と言っても、オリエンテーションみたいなものだ。この学園で何を学ぶのか、それぞれ何を目指すのかについて、あの怖そうな担任のイバン先生に教わった。あと、学内地図も配布された。これが一番ありがたかった。俺は方向音痴だから、地図はなるべく手放さないようにしよう。
「では、本日の授業はこれまでとする。明日は水晶の儀があるため、必ず学校に来るように」
イバン先生は最後にそう締めくくると、キビキビした足取りで教室を出ていった。おい、連絡事項あれだけかよ。こっちは新入生だというのに、随分と放任してくれたものだ。クラスメイトも戸惑いにざわめいていたが、ひとりふたりと席を立つ者が増えて、教室が話し声で包まれる。
はじめまして、と早速友達(コネ)作りに励んでいるクラスメイトの声が飛び交う。
(水晶の儀、か。本当にあるんだな。どんなのだろう?楽しみだな)
水晶の儀とは、15才以上になる子供が必ず受けなければならない儀式のことである。儀式では子供がひとりひとり水晶の審査を受け、そこで初めて自分の属性魔法を調べてもらうのだ。
水晶の儀は同級生と先生、全員の前で行われる。だから、誰がどの属性なのかその場で全員に知られてしまう。
属性魔法は15才になると現れる。それまでは無属性の魔法しか使えない。属性魔法がわかると、属性専用の杖を使って、より広い幅の魔法を使うことができる。
大抵の子供は学園に入学する際、学校に強制的に受けさせられる。偶に教会で受けるやつもいるが、それは少数派だ。
小学校の頃に初めて水晶の儀について学んだときは、「異世界っぽい~!」とテンションを上げていたものだ。それを明日、とうとう俺が受ける時が来るなんて。少し現実味がないことだった。
(っと、こんなことをしみじみ思い返してる場合じゃないな。俺からもクラスメイトに話しかけて、適当に愛想よくしておかないと)
いつまでも自分の席から離れず黙っていたら、根暗なやつだと思われてしまう。そろそろ自分もあの地獄のような会話に混ざらなければ、と思ったところで、とんとんと右肩が叩かれる。
右を見れば、主人公…ニールが席から立って俺の直ぐ側に立ち、気遣わしげな瞳でこちらを見下ろしていた。
「あ、あの、はじめまして……。隣の席の、ニール=エグバードです」
どうやらニールの方から話しかけに来てくれたらしい。よほど勇気を振り絞って話しかけてくれたのか、めちゃくちゃ不安そうだ。社交的な性格ではないみたいだから、俺から話しかけてやればよかったなぁ。
「…さっき聞いたよ、ニールだね。俺はレオン=フェレオルだ。よろしく」
「よ、よろしく……。あの、僕、ここにも引っ越してきたばかりでわからないことだらけで……。隣の席になった縁に、色々と助けてくれると嬉しい、です」
うんうん、言われなくても助けてやるとも。
席から立って、同じくらいの高さでニールと目を合わせる。子犬のようにぷるぷるしている主人公を安心させるように、にこりと笑いかけると、ニールの表情が少し明るくなった。近くで見ても、本当に美人だなぁ。さすがBLゲームの主人公。
と、ニールの顔立ちに感嘆していたところで、あることに気づいた。
(…あれ?この場面、既視感があるな)
入学初日、ニールはなかなか生徒たちの会話に混ざれない。どんどん人の輪ができていく中で、唯一未だにひとりでぽつんとしていた隣の席の生徒にニールはようやく話しかける。隣の席の生徒が親切に言葉を返してくれると、自らの事情を少し話して、「色々と助けて欲しい」と頼むニール。
先程の会話内容も、なんか聞いたことあるものだったし…、これってもしかして、原作にある場面か?
それに気付いた瞬間、頭の中に自分の意志と反して口が勝手に動き出した。
「お安い御用さ。何か困ったことがあったら俺に言って。なんてったって俺は、王家に匹敵するほど聡明なフェレオル家の嫡男なんだから」
「う、うん!ありがとう!」
まてまて、俺はこれほど自信満々に自分の血筋を語るような性格じゃない!王家って言っても、一応は侯爵の身だぞ!こんなこと言ったら頭が高いって怒られる!
そう心のなかで突っ込んだところでも、既に言ってしまったことは取り消せない。
「じゃあ、せっかくだし連絡先交換しようか。スマホは持ってる?」
「うん。……えっと、どう操作したらいいのかな。ごめん、スマホをこの前買ったばかりだから、使い方をあまり知らなくて」
「ああ、貸して。俺が教えてあげるよ」
つらつらと並べられたセリフは、予め誰かに決められていたようにぺらぺら出てきた。貴族らしく上品なほほ笑みを浮かべながら胸を張る俺の姿は、ニールからしてみれば頼りがいのあるものだっただろう。早くも俺に信頼の眼差しを向けているニールの視線が痛かった。
(おい、まて……俺が今言ったセリフって、まさか……)
点と点が繋がって、だんだん前世での記憶が蘇ってくる。その内容に、俺は後ろにひっくり返りたい気持ちになった。
どうして今まで気づけなかったのだろうか。レオン=フェレオル…そんな名前を持つ男子生徒が原作にいたのだ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経も魔法の才能もあって、身分もそこそこ高く、性格は人に好かれるもので、同級生の中では頼れる兄貴分ポジションにいる男。誰にでも親切で、貴族特有のプライド高い性格はあるものの、ほかと比べては薄いほうだから接しやすい。先生にも同級生にも上級生にも人気者の優等生。それが、レオン=フェレオルという男子生徒の、表向きの評価だ。
(たしかレオンって、裏ではけっこうとんでもないことやってるんだよな……俺はやってないけど…)
レオンはいじめの常習犯で、人好きしそうなことを言うくせに人を踏み台にすることに何の罪悪感も抱かないような、とんでもないやつだ。
主人公であるニールは、彼に尊敬の眼差しを向ける男子生徒の一人だった。だが……、レオンはニールを裏切るのだ。物語の中の、悪役として。
「……まさか悪役に生まれ変わっちゃうなんてなぁ………最悪だ」
さーて、今になって色々と原作のことを思い出してきたぞ。原作時間までの今まで、何も考えずに好き勝手生きてきたものだから、これからは今後のストーリーのことを考えて行動しないといけない。
幸い今のところ、これといって悪いことはしてないし、これからもする気はない。
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