主人公を犯さないと死ぬ悪役に成り代わりました

キルキ

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入学初日 1

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ピピピピ、というけたたましい音に、意識が浮上していく。ぼやけた視界の中、ベッドサイドにおいた時計の頭を叩く。鳴り止んだアラーム音に息をついて、再び布団の中に潜ろうとしたその時。今度はスマホがなり始める。

「うるさい……」

寝起きの頭にがんがん響く着信音を止めたくて、スマホを探す。スマホの画面には、母様の文字が並んでいた。アラームではなく、着信音だったらしい。

「えっ、母様!?ーーーはいっ、もしもし!!」

母親の文字を認識した瞬間、状況を把握して急いで電話に出る。俺の母様は、人に待たされることが大嫌いなのだ。

夢に浸かり切っていた頭が、急速に冷えていく。血の気が引く思いで通話をつなげると、案の定不機嫌そうな女性の声が聞こえてきた。

「レオン。出るのが遅かったですね。まさか、入学式当日というのに寝坊をしてたんじゃないでしょうね?」
「い、いえ、そんなことは!待ちに待った入学式ですからね。1時間前から起床して、準備万端にしていますとも」
「自分の寝起きの悪さをもっと自覚しなさい。……いつも私が叱らないとベッドから降りないというのに、信用なりませんわ」
「い、いつもという訳では…自分で起きてることもあるし…」
「何か言いましたか」
「いえいえ!」

女性でありながら威厳のある声。慌てて言い訳をしながら上半身を起こした。

(くっそ……)

おっしゃるとおり寝坊してました。とは言えない状況だ。

未だ視界はぼやけている中、手探りで机の上の杖を探した。手に杖の感触を感じると、それを握りしめてカーテンに向かって振るう。

ぽん、とカーテンに一瞬煙が上がり、布が勝手に動き出す。シャッと音を立てて、カーテンが一人でに開いていった。

この世界には魔法が存在する。人はみんな魔力を持って生まれ、杖を使うことで魔力を操り、ものを浮かせたり何もないところから何かを出したりといったことができる。

太陽の光で照らされて、部屋の中がはっきり見えるようになる。眩しさに目を細めながら、椅子にかけておいた制服に向かって杖を振った。煙が上がったあと、制服がふわりと宙に浮いて自分の方まで飛んでくる。

「……今、カーテンが開く音が聞こえましたが」
「気のせいでございますよ」
「私の聞き間違いと言いたいわけですか?」
「すみません、嘘を付きました。本当はいま起きました。ごきげんよう、母上様」
「……初日からこうとは。あなたの今後の寮生活が思いやられる」

母様の声が苛立っている。これなら最初から白状していればよかった。

俺は母のぴりぴりした声が嫌いだ。今日はまだマシな方だが、怒ると頭に響くようなキンキン声で怒鳴りつけられる。これさえなければ、嫌いとまでは感じないのに。

ああ、タバコを吸いたい。面倒事が起きたときは、いつも口淋しくなってしまう。母様に隠れて吸っているから、今すぐ吸うことができない。

「……まあ、良いでしょう。とにかく、入学式には遅れないように。それと、これからは毎日毎日あなたを起こしに電話をかける事はしませんから、明日からは時間通り、きっちり起床するように」

良いですね、と俺に念を押すと、一方的に通話が切られる。

「次顔を合わせたら、絶対なにか言われる……」

母様は俺にとても厳しい。実家にいるときは毎日のように叱られらものだ。

……よし、気持ちを切り替えよう。

ベッドにぺたりと落ちた制服に腕を通す。姿見の前でぴしりと身なりを整えると、腰に備わっている輪っかに杖をさして、バッグを手に取った。

時間は、集合時間10分前。朝食を食べる暇はなさそうだ。

「しっかりしろ、レオン=フェレオル!首席の俺が遅れたら、初っ端から先生方に目をつけられるぞ!」

母様の声を聞いた瞬間にだいぶ意識ははっきりしていたが、自らの頬を叩きながら活を入れると、一層気が引き締まった。

よし、今日もきっと上手くやれる。

新入生代表の挨拶を任されていて、本当はリハーサルするために早めの集合時間を指示されていたけど。もう時間は過ぎちゃったし、挨拶文読むだけだし。リハーサルに参加しなくても、なんとかなるだろ。たぶん。






前世で普通のサラリーマンだった俺は若くして病死した後、BLゲームの世界に転生した。レオン=フェレオルという貴族の長男に転生した俺は、この異世界での暮らしを謳歌していた。

前世での俺は、原因不明の病に犯されていた。幼い頃から病院と家を行ったり来たりするような生活を送っていて、俺は世間知らずのまま大人になった。20を過ぎてからは病気の進行が早くなり、俺は家族に見守られながら息を引き取った。真っ暗な視界の中で呆気ない最期に余韻を感じていたら、眼の前に光が差し出したのである。次に目を覚ましたときには、赤ん坊としてこの世界に生まれ落ちていた。

この世界がゲームの世界だと気づいたのは、エレメンタリースクールに入学して、この世界の歴史や魔法観を学んだときだ。

聞き覚えのある魔法陣、歴史背景。

この世界は、前世で流行っていた人気BLゲーム『異界にて、白い花を頂きに』の中だ。妹がはまり込んでいたので、ストーリーはあらかた知っている。病室で暇している俺に、妹はこのBLゲームのことで熱弁していたものだ。転生した拍子にゲーム内の知識の大半を忘れてしまったため、少ししか内容を覚えていないけど。



魔物や魔法が当たり前に存在しているファンタジーな世界観のこの世界では、子供は幼い頃から魔法の訓練を始める。

そんなファンタジックなBLゲームの主要舞台は、とある魔法学校だ。主人公が入学する、国立王印宿木学園である。通称、ヤドリギ学園だ。

ヤドリギ学園は国立という名誉がある上、国内でもトップレベルの学校で、魔法が学力に長けた人物が集まる場所である。当然のように、男子校だ。入学試験は難関クラスで、そこを突破できる選ばれし者と言えば、幼い頃からお金をかけて親に教育を受けさせられたボンボンくらいらしい。

代々高学歴者が当主となるような由緒正しい家系で育った俺も例外ではなかった。金とプライドだけは持っている家だったから、幼い頃から英才教育を受けさせられた。ビシバシ扱かれたものだ。特に母親は長男である俺に厳しく、彼女の監視下のもとで勉学に励んでいた。

普通なら音を上げそうなハードスケジュールを組まされていた。だが俺は、前世ではずっと部屋にこもりきりで退屈な時間を過ごしたことがあることもあって、新しいことに興味津々だった。だからむしろ色々なことをさせてもらえるのが嬉しくて、意欲的に勉強をすることができた。

まあ、その好奇心旺盛の性格のせいで、タバコにも手を出してしまった訳なのだが。因みにこの世界でも、未成年のタバコは良くないとされている。法律ではっきり禁止されているわけじゃないから、今のところグレーゾーンだ。まあ、この年で吸ってるやつはよほど教育が行き届いてない家庭もしくは、不良な子供くらいしかいないだろう。

お陰で家での俺の評価は、「聞き分けが良くておりこうで、優秀な息子」である。

まあ、でも、どんなに良い評価を両親に貰ったところで、あまり嬉しくないというのが正直なところだった。だってあの人達は、俺のことを一つの道具としてでしか見ていない。前世での家族に何度も会いたくなったくらいだ。

厳しい教育環境こそありましたが、その甲斐もあって俺はこのエリート学園…ヤドリギ学園の試験に合格することができた。フェレオル家の当主はみんなヤドリギ学園卒業生であるからと勝手に決められた進路だったが、特に文句はない。合格発表まで母様からのプレッシャーがすごかったけど。

ヤドリギ学園は主人公が通う学園だが、主人公がいつ入学するのか知らないため、一緒に学園に通うことになるのかどうかわわからない。今って原作ではどこの時間軸なのだろうか。

まあ仮に俺と主人公の入学が被ったとしても、きっと俺はモブ役だろうし、本編にそこまで巻き込まれることはないだろう。

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