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2 風俗

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ベッドに座って部屋で相手を待っていると、部屋のドアがガチャりと開けられた。現れたのは金髪の体格のいい男だった。

やばい、客がもう来てしまった。挙動不審に見えてないだろうか。

がちがちに固まっている俺を見て目をパチクリしたあと、吹き出すように笑いだした。その笑顔に俺をばかにするようなものは含まれていなくて、少しだけ安心する。性格良さそうな男だ、というのが第一印象だった。

「あっはは、お兄さん、すごく緊張してるじゃん。初めてって聞いてたけど、本当なんだね」

俺の隣に腰掛けた男は俺に近づくなり、腰に手を回してきた。性急な手付きに身体を固くしたが、男はそれ以上の接触をしてこない。

せいぜい服の上から背中を撫でられる程度だった。俺と違い大きくてごつごつした手を意識すると、これからのことを想起させた。

この手が、今から俺を───

頭が真っ白になりながらも、男の言葉に頷く。声を出さない俺に対し男は、顔に笑みを浮かべながら囁いた。

「よしよーし……。安心しなよ、酷いことはしないから。多分」
「た、たぶんって……」
「世の中にはひどい趣味を持っている人も居るってことよ。俺は優しい方だと思うんだよなぁ」

ひどい趣味。オーナーの脅しを思い出してぞわりと背筋が寒くなった。

サドな男の元に売られたら、どんな目に合うかわからない。そのことはこの一ヶ月間、ここの店の先輩に嫌というほど聞かされたことだった。

きっと俺の想像以上のことが世の中にあるのだろう。教えてくれた先輩には重々感謝しているものの、こんな形で知りたくなかったというのが本音である。

こんな事を言っているこの男も、実際はどうなのかわからない。

恐ろしくなって身を縮こませていると腰にあった手が背に周り、宥めるようにぽんぽんと優しく叩かれた。されるがままだったが、少しずつ気持ちが軽くなった気がする。

……それにしても。ここに来てから時間が経っているのに、なんでここまで待ってくれているのだろう。

今まで一方的に嬲られれていたため、男のゆったりした雰囲気に戸惑いを隠せない。

何時もだったらすでに服を脱がされている頃なのに、客の男は優しく俺に触れるだけだ。僕の緊張がほぐれるようにと言って、服の上から肌を撫でる。

お、俺から動いたほうがいいのだろうか。どうすればいいかわからないんだけど。

ちらちら男の表情を伺いながら、恐る恐る相手の服を引っ張った。

僕の困った表情になにか察したところがあったらしい。「あいつら、雑で下手くそみたいだからな」と言って、するりと耳たぶをなぞられた。

ざ、ざつ?……あの人、下手だったの?俺が感じなかったのも、あいつのせいなのかな。

驚いていると、男の両腕が背中に回ってギュッと正面から抱きしめられる。少し苦しいと言う暇もなく、男の体重を支えきれずに体が後ろに傾いた。

「うわっ」

そのまま二人でベッドに倒れ込んだ後、何にお気に召したのか、男の機嫌良さそうな笑い声が頭上から聞こえてくる。

「おにーさん、かっわいー。ほんとは様子見だけにしろって言われたんだけどなあ。……据え膳食わぬはっていうし、仕方ないよね」
「よ、様子見ってどういう……」

気になる言葉に思わず聞き返したが、笑って誤魔化された。なんなんだ本当に。

目線だけ上にあげると、きらきら光を反射している金髪が目に入った。

よく笑う人なんだろうな。

男の胸に顔を埋めることになって、相手の匂いに包また心地になる。誰かとここまで密着することはなかなか無かった。自分よりも大きい胸筋は男らしい。

もしも押さえつけられたら自分の力じゃ太刀打ちできないだろう。ちょっと怖い

「ちゃんと可愛がってあげるからね。期待してくれていいよ、俺はここの奴らとは違うから」

こつんとおでこ同士で軽くぶつけられた。戯れるような男からの接触に、肩の力がだんだん抜けていった。心地良い低音が鼓膜を震わせて、心臓がどきどきした。

……この人なら大丈夫かもしれないな。優しそうだし、丁寧そうだし。

優しい声色は、怒涛の一ヶ月間により疲れた俺の心にじんわり溶け込んでくる。言葉の裏を読む余裕は、今の俺に残っていなかった。

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