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第一章 誰か、中にいる。

15.仲直り

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 監視カメラの録画映像を入手するため、依頼したハッカーの場所に行く。浅霧と帆野、粗里の二手に分かれた。二人の向かう先は、高速道路を使うため、少しばかりの遠出になる。

 本当であれば、調べ終わるまで待機していてもいいのだが、制限時間ということ、一人で録画のデータを見続けるのもミスが増える可能性があり、浅霧と帆野を入れて三人で確認することになった。

 もし、小萱の訪れが、なんらかの揺さぶりであるならば、尾行をしてくるだろう。二手に分かれるということが、良い目くらましになるだろうかという予測はしていたが、どちらに行っても都合が悪い。つけられているのであれば、巻くことも考えなければならない。

 東京から群馬への高速道路へ向かう途中、バックミラーを凝視していた帆野は、浅霧に伝えて、同じ黒い車が後をつけているのを確認し、脇に停車させて過ぎていくことを待つ。
(あぁ……これで疑いが濃くなったな)
 もう後戻りはできない。再び発車させて、高速道路へと入っていった。

 直線距離が続いていく中、一息ついた帆野は、大して変わらない景色を、助手席から眺めていた。ふと、浅霧の様子が気になる。ここまで一切の会話がなく、じっと見るわけにもいかないので、意識だけを向けていた。

 粗里曰く”任せてください”と言ってはいたが、信用できるのだろうか。冷戦が続いている中でハッカーの元へ行けば、相手にも空気感が伝わってしまう。それでは失礼ではないか。しかし、努力してもなお、浅霧は振り向くことはなかったため、こちらから話しても結果は変わらないだろう。

 ため息に似た、鼻息をする。断続的に続く、ガタッという音が、段々と心地よくなってきた。
「あの……」
 と、思ってもいなかった、浅霧から声をかけられた。
「はい?」
「嫌われたのかと思って」

「え? ……なんで?」
「あんまり、慣れてなくて」
「い、いや、あれは俺が悪かったので、気にしなくても」
「反射的にとは言え、怒鳴ってしまったから」
「なんで、浅霧さんが落ち込むんですか?」

「それは、そうなんですけど……今まで、こうしたことがあると、そのままにして、話もしなくなったなんてこと、やってきて。わからなかったんです」
「は、はあ」
「”君の気持ちを率直に伝えればいいんだよ”って言われたので、言ってみたんですが……」

「伝わってますよ。てっきり、怒ってるのかと思ってました」
「まぁ、最初は、なんで伝わらないんだろうって思ってましたけど」
「だから、別に謝らなくても」
「はい」

「そんなんで、人を嫌いになったりしないので、考え過ぎですよ」
「ありがとうございます」
「お礼なんかいらないよ。っていうか、琳とよく続きましたね」
「喧嘩しなかったので」
「まぁ、あいつは話し上手だからな……」
「そうですね」

 早海の話をして、反すうするたびに気持ちが沈んでいく。それと同時に、奥深くから湧き上がってくる怒りの感情。早海だけは返されない。何故なのか。他の人間とどう違うのか。ストーカーと言うのであるから、もしかしたら恋愛的な強い感情があって、返さないとでもいうのだろうか。

「早海さんは、帆野さんのことを頼りにしていないわけじゃないですよ」
 突然、浅霧から予測もしていなかったことを言われ、思わず聞き返してしまった。

「”対等でいたい、一緒に頑張りたい”そんな風に言っていました」
 言葉も出ない。恐らく、過去に琳がいじめられていた時に助けたのが、一番の原因だろう。

「でも、付き合ってはないんですね」
「そう、ですね」
 確かに、向こうから告白はされた。しかし、帆野がそれを拒んだのだ。決して嫌いでもなく、無関心というわけでもない。

「聞いてもいいですか? そこは、話してくれなかったので」
「単純に、いじめから助けたことによって付き合う……なんだか、下心があって助けた、そんな風になるのが嫌だったんです。たぶん、俺のことだから、ずっと気にするような気がして」

「そうなんですか……ずっと、気にしていたものですから。唯一無二になれた代わりに、自分が枷になって彼女が出来ないんじゃないかって」
「そんなことは……」
(だから、なのか)

 過去に、何度か”私のことは気にしないでね”と言っていたことがあった。早海からの愚痴は、少ししか聞かないために、話しつつも悪い気持ちも抱いていた。しかし、その反面、距離を取ってしまっては、相手に無駄な気遣いをさせてしまうため、気にしないよう普段通りを心がけて接していた。

「早く、助けましょう」
「ですね」
 助けて、お互いに今まで話せなかったことを話そう。心にそう誓った。

「そうそう」
 浅霧が声を掛けてくる。
「はい?」
「さっき粗里さんから連絡があって、”上手く行った”って」
「それはよかった!」

 恐らく、帆野が景色を見ているときに、連絡がきたのだろう。概ね、気まずくて言えなかったといったところだろうか。これで、監視カメラの映像と合わせて、死体の隠し場所がわかれば、詰めることも可能だろう。移動が二時間と行きと帰りで掛かるが、四時間もあれば十分だろう。期待を膨らませ、群馬県へと入った。
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