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初めての家庭料理 6

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「彼女の家を辞した後、トラックに向かうと、君は意気消沈していた部下に、優しく笑って話しかけていただろう?」
「ああ、はい」
 落ちこむなよ、誰にでも失敗はあると励ましていたはずだ。

「あれを見て、僕は、実は――激しく動揺した」
「え?」
 顔をあげると、高梨は片頬をあげて苦い笑顔を作っている。

「失敗をして社に迷惑をかけた部下に笑いかけるなんて、上司としてあり得ないと思ったからだ」
「……そ、そか」
 自分の対応は、社会人として甘かったか。

「僕だったら、きっと、きつく叱咤して原因を突きつめ、どのように反省して今後の仕事にどう向きあっていくのか、詳細に報告させただろう」
「……まあ、高梨さんはCEOでもあるんだから。それぐらいはするでしょうけど」
「いや。そういう問題じゃない」
 高橋が首を振る。

「僕は生まれついてのレア・アルファで、だから普通の人間よりも労せずして物事をこなすことができる。そのせいで、他の人間、特に部下に対して非常に厳しい態度をずっと取ってきていた。悪い言い方をすれば、見下していたんだな。失敗を犯した者にはペナルティを与えて叱咤し、ついてこられない者は切り捨てる。それがあたり前だった。父もそうだったから」
 陽斗は黙って頷いた。

「だから、僕の社での評判は最悪だった。人非人、冷酷、利益優先のロボットなどと陰口を叩かれていた。見た目も人間離れしているから怖がる人も多かった」

 そう言って微笑を浮かべる男は、陽斗の目には魅力的に映る。しかしこの整いすぎた容姿で怒られたら、さぞかし迫力があるだろうとも考えた。

「けど、あのときの、君の明るい微笑みを見て――」
 高梨が銀灰色の目を細める。
「自分には、人として大切なものが欠けているんじゃないかと、気づかされたんだ」
 じっとこちらを見つめる眼差しには、わずかに淋しげな影があった。

「君の笑顔は、落ちこんでいる人間には最良の薬になるであろう、魅力があふれていた。僕は家に帰ってからも、君の笑顔が忘れられなかった。太陽みたいな笑顔は、他人を思いやるという考え方が欠落していた僕には眩しすぎた」
「……」

 褒められて嬉しかったけれど、彼のそのときの心情をおもんぱかれば、何となく同情も覚えてしまう。この人はもしかしてずっと孤独だったのではないのだろうか。何もかもを手に入れて成功したレア・アルファだとばかり思っていたが、そばにいて優しいアドバイスをしたり、無償の愛情を注いでくれる人はいなかったのか。
 父親からの愛は得られなかったと言っていたが、それ以外の人との触れあいも乏しかったのだろうか。

「その出来事があってすぐ後に、僕の方でも取引で大きなトラブルに見舞われたんだ。同じように部下のミスで」
 高梨が少し前を思い出すようにして言う。

「ちょうどテレビ番組の取材が入っているときで、僕は面倒なことになったなと、内心、苛ついてしまったんだ。普段だったらきっと、その部下に対して冷ややかな態度で接しただろう。カメラが回っていても、それが間違いだとは気づかずに」
 ワイングラスを手に、緩やかに揺らしてみせる。

「けど幸運なことに、そのときの僕には君がいた。僕は、君がしたのと同じように部下に笑いかけて、ミスの対処方法を一緒に検討したんだ。そうしてそれを実践した。すると、予想していたよりもずっと効率的に、しかも早い時期に問題は解決した。テレビクルーも喜んでいたよ。いい場面が撮れたって」
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