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すれ違い

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◇◇◇


 どうしてこうなった。
 陽斗はぼんやりした頭で考えた。
 最高級のベッドルームで上質なシーツにくるまり、自分は横になっている。
 背後には全裸の男。

 朝日さす部屋の中で、呆然と瞬きもせず男の腕の中に収まっているそんな自分も全裸だ。
「……おはよう。起きてる?」

 彼が寝起きの少し掠れた声できいてくる。甘い甘い、耳から溶けていくようなハスキーボイスだ。
「起きてる。ていうか、一睡もしてないし」

 あれからふたりは、明け方まで行為に及んだ。レア・アルファの性欲は逞しく、陽斗は何度お願いしても解放してもらえなかった。挿入だけはしなかったが、それ以外の場所は散々もてあそばれた。

「陽斗君。……すごく可愛かった」
 満足げな背後の男からは、ハートがたくさん漂ってくるようだ。陽斗は男の手を振りほどいて、シーツの上に上半身を起こした。

「つか、あんた、俺が嫌がることはしないって言ったはずだよな」
 陽斗が声を荒らげると、相手がポカンと口をあけた顔になる。しかしその若干間の抜けた表情も男前だ。寝乱れた髪が超絶に色っぽい。

「嫌がってた?」
「寝こみを襲っただろ」
「けど、あれは君がフェロモンを出して僕を誘ったから」
「そんな言いわけ通用すると思うか」
「でも、君は、本気で拒否はしなかった」

 うっ……と言葉につまる。たしかに、逃げようと思えば逃げられたかもしれないし、本気で嫌がれば、この男だったら手をとめてくれた気がする。 

「……」
 結局自分は流されて受け入れたのだ。イヤイヤと言いながら、彼と共に快感に溺れた。

 陽斗は黙ってベッドをおりて、散らばっていた服を身につけた。
「帰るのかい? 朝食を一緒に食べようよ」
「光斗が心配だ」

 服を整えると、ベッドを振り返り言った。
「わかった。終わったことはもう、どうこう言わない。俺も酒入ってたし、流されてた部分あるから。けど……」

 陽斗は相手をじっと見つめた。
「けど俺、最初から最後まで、発情はしていなかった。フェロモン出てた自覚もない」
 高梨が真面目な顔になって見返してくる。

「ほんのわずかだったからね」
 優しく慰めるような口調だった。けれど陽斗はそれに傷ついた。機能不全オメガの精一杯の頑張りを褒められたようで、コンプレックスが刺激されてしまったのだ。
 
「帰る」
 ドアに向かって歩き出す。
「また会いにいってもいいかい」
「俺のほうから連絡する。……必要があれば」

 この男にイニシアチブを取られたくない。何だか同情されながら可愛がられている気がしてしまうから。自分はオメガだけれど、男だし可愛くなんて生まれてこの方なろうと思ったこともないし。

「わかった。待ってるよ」
 鷹揚なところを見せられて、さらに気持ちが塞いだ。
 親切にしてくれたのに、そんな自分の身勝手さにもうんざりする。

 陽斗は振り返らずに、別れの挨拶もしないまま部屋を出た。
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