私の彼女は元上司

にゃる子

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それぞれの生い立ち※

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明日香さんの自宅からの帰り道、私がぐったりしていると希望さんが運転しながら私の額に触れる。

「那智さん?
熱が出てるんじゃないの?」

「希望さん…。
なんだか頭が痛いです…」

座っているのにフラフラするし、すごく気怠い。

「撮影頑張ってたからね。
私の家でゆっくりしなさい。」

希望さんの家に着いてからも足元が危ない私。
希望さんの部屋のベッドで横になりながら自分のスマホを見る。

「今日の配信…」
「今日は、休みなさいっ。」

希望さんがパジャマを持って来て私を着替えさせる。

体温計を見て

「やっぱり38度…
最近、フードデリバリーのお仕事無理してたんじゃないの?」

毎日フードデリバリーのバイトをして休みなく何かしていたので風邪でもひいてしまったようだ。

「配信の中止のアナウンスをしたら絶対安静だからね。」

確信に無理すると思われている様子だ。
その後も、玉子入りのお粥を作ってくれたり
背中をマッサージしてくれたり
希望さんの看護は完璧だ。

「もしかして、イキ過ぎて風邪引いたのかな?」

と、私が言うと大爆笑された。
「そんなの聞いたことないけど、あったら面白いわよね?
でも疲れが溜まっていたのよ。」

希望さんが、私の腕をマッサージしてくれている。

「那智さんのご実家は、確か旅館だったよね?
お店を継げとか大変じゃなかった?」

「それはないと思います。
親戚の姉を母がとても気に入っているので、彼女が後を継ぐのも決まっていますので」

私の実家は甲府にある旅館だ。
祖父母の代から経営していて、父と母が継いだ。
父は、接客が本当に向かない…

というか、完全にヒモみたいな人で毎日パチンコに競馬にとギャンブルしかしない人だった。

母がいたから回っていたようなお店だった。

母は、そんな中妊娠。
双子だった。
医者に休めと言われても、必死に働いていた。
破水するまで入院さえもしなかった。
無理が祟ったのか、私は無事だったのだけど
もう1人は亡くなっていた。

男の子だった。

「女の子の方が死ねばよかったのに」

生まれたばかりの私を見るなり、父の最初の言葉はそんな言葉だった。

男の子が生まれると信じて、野球の道具やら男の子向けのベビー用品を大量に買って来ていた。

双子は呪われている。
なんて祖母まで言い出すから、私は蔑まれた存在だった。
親戚の子に手を挙げられて、私がやり返しでもしたら、身体中があざだらけになるくらいにまわりの大人に殴られて、友達と遊んだりする自由さえもなくて、毎日旅館の掃除や洗濯ばかりだった。

一度は彼氏が出来て同棲もしたけれど、彼の病が一生治らないと発覚すると
私への暴力が始まった。
行くところがなくて、結局実家に戻ったら

「傷モノ」私はそう呼ばれるようになった。
外が怖くて仕方ないからオンラインの仕事を始めたのが、希望さんとの最初の出会い。
それから、教育係のエリコによるイジメで体調を壊して離職。
SNSで知り合ったマキの紹介で都内でネット配信のお仕事と下着モデルを紹介して貰うと、誰にも「サヨナラ」さえも告げずに高速バスに飛び乗った。

小さな時から、私に酷い言いがかりをつけて来たりされた影響で男性不審な部分もあって
いつの日からか、好きになるのもほとんどが女性だった。

そんな私の生い立ちを聞きながら、希望さんが涙を流す。

「そんな酷い扱いを受けていたのね。
私だったら実家なんか絶対帰らないと思う。
でも、東京にいるのが那智さんにとって大変でも楽しいならそれはよかった。」

「子供の時は、社会に出たら絶対に幸せになる!って決めていたので
今はたまには金欠にもなりますが、昔ほどの辛いことはないので幸せです。」

おそらく、エリコのイジメで体調を崩してしまったのは、そんな実家での暮らしで受けたトラウマに触れてしまった部分もあったのかもしれない。

あの時は、オンラインの仕事のお給料はほとんど母に渡していた。
パソコンを接続するための電気代だとか部屋代、エアコン代などと言われて
実際働いていたのかもしれないけど、手元にはほとんど残らない生活だった。

「希望さんは、どんな人生だったんですか?」

仕事が出来て何をしても優秀、私の欲しいものは全部持っている。
そんな希望さんのことも気になっていた。

「うちは、まぁまぁ資産のある都内の家なんだけど、祖父が1番よく可愛がってくれてね。」

幼稚園の送り迎えも、どこかに遊びに行くのもいつもおじいちゃんが一緒だった。
恰幅の良い豪快に笑う元気なおじいちゃんは、希望さんの友達ともよく遊んでくれた。

希望さんが中学生になった時、おじいちゃんは突然心臓発作で亡くなった。

すごく私が落ち込んで、家族も私にどうしていいか分からなくなり、中高一貫の全寮制の女子校に編入した。
勉強はまぁまぁやっていたので困らない程度だった。

そして、初めての相手も中学生の時に入った部活の先輩。
シスター制度を導入していたので、そのパートナーだった。

それからは大学時代の飲み会で今の旦那様と出会って、両親が猛反対する中駆け落ち同然で結婚。
彼の自由過ぎる行動が、特に反対の原因だったらしい。

そして、今の会社に入社して
その旦那様とも離婚が成立したばかり
もうすぐ新しい家に引っ越す予定だ。

「旦那様、海外にあちこち行ったりいろんな業種にチャレンジしたり、ユニークな方なんですね。」

「鉱山で働いてみたり、漁船だとか…私が考えつかないような勤務先もあったのよ。」

きっと希望さんの親御さんも心配だっただろうなと思った。
その、希望さんも早期退職後はアダルトグッズの会社で勤務が決まっている。

「オンライン接客用のマニュアルとか少しずつは作りはじめているのよ。」

希望さんは、やっぱりすごい人だ。

女性のお客様が、楽しくグッズを購入できるようにと友達感覚でお話しができる知識豊富な接客員を育てるために、接客のマニュアルだけではなくて、人体について学ぶ時間やらグッズの工場見学などもスケジュールに組み込まれているらしい。

「美雨さんの工房見学なんかもあるけど…」

希望さんがクスッと笑う

「なんだか賑やかなことになりそうな予感が…」

「確かに…。
研修生にリモコンローター付けて遊ばないか心配だけどね」

「美雨さんなら…やりそう…」

「じゃあ、研修生には鉄のパンツ履かせておくわ。」

私が熱を出してノックアウトしていた筈なのに、すっかり女子会モードになって
私の熱も平熱程度になっていた。

体調が落ち着いてからは、希望さんの部屋の掃除をお手伝いしたり、お買い物に行ってみたり
帰りは家まで送ってくれた。

「またね。」
私の家の玄関でキスをしてから希望さんは軽やかに帰って行った。
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