私の彼女は元上司

にゃる子

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真実 希望side※

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7:00、いつものように目覚める、
朝食を食べながらニュースをチェックしたり、身支度をしたり
それがいつもの朝の日常だった。

最近では…
「おはようございます!
今日もお仕事ですか?」

那智さんからLINEが来る。

「おはよう。
今日も会社です。」
旦那は海外の会社で輸入関係の仕事をしていて、娘は大学生。
ダンスサークルに夢中で、夜も練習したいからと学生寮に入居していてなかなか帰て来ることら少ない。

身支度を済ませて、スーツのジャケットを羽織る。

今日も部長としての私の1日が始まる。

通勤していきなり、新人のユナからメールが来ていた。
「直接お話ししたいことがあるのですが、お時間よろしいでしょうか?」
とのことだった。

今日は、店舗視察が数件と役員会議が入っているので、店舗視察の間に待ち合わせることになった。

ちょうど、ユナから倉庫に在庫確認をしているという連絡が来たので、私も倉庫に向かう。

「苅谷さん。
おはようございます。
わざわざありがとうございます。」

白いポロシャツに黒のパンツ姿のボブヘアの女性が頭を下げる。

「お久しぶり。
何かあったの?」

「実は…。

大変申し上げにくいことなのですが…」

ユナは、自分のスマホの画面を見せると音声を再生した。

その音声の声の主は、教育指導担当のエリコとエリコの親友のマイ。
「本当、あの子ムカつく!
なんで初日から苅谷さんがあんなに可愛がってるの?」と、エリコが怒りに任せて発言している。

「苅谷さんが「かわいい~。」とか「大好き~。」って言うのは口癖みたいなものだから気にしなくていいと思いますよ~。」
マイは若干苦笑いしているのが声だけでも伝わって来る。

「私、あの子は育てる気ないから。」

「じゃあどうするんですか?
指導担当エリコさんですよ?」

「一切褒めない!限界まで厳しく指導して潰れたあたりで退職させる。」

「エリコ…。
あの子が苦手なのはわかるけどさ。
そんなことしたら、エリコがパワハラになるんだよ?」

「だからうまくやる」

ユナのパソコンは以前は那智さんが使っていた。
音声データーがどこかに残っていたためにユナが見つけしまい、正義感の強いユナは誰かがいじめられていると知って、こうして私を呼び出し証拠を見せてくれたのだ。
音声データーが切り替わる。

続いて、エリコが那智さんを指導している時の音声。

「あんた、お客様にタメ口だったよね?」

「えっ…。」

「お客様には敬語って伝えているよね?」

「すみません。」

「その怯えたみたいな目が気に入らないんだよっ!!!」

他にも、明らかに些細なことを執拗に責められている音声が続く。

「ユナさん…。
伝えにくい内容なのに、ありがとう。
ユナさんのパソコンから出て来たものなの?」

「はい。」

「わかった。
辛かったでしょ?
この後休憩にしていいから、落ち着いたら仕事に戻っていいよ。」

「ありがとうございます。」
ユナは丁寧に頭を下げる。

その後、私はユナから貰った音声データーを自分のスマホにダウンロードしてから
エリコを会議室に呼び出した。

那智さんが体調を崩していて、何かしらの対人関係のトラブルとは勘付いていたけれど…

まさか、エリコだったの?

すごくショックだった。

エリコは、私が部長になる前からずっと私の下で働いてくれていてとても信頼していた部下だったから。

エリコが会議室に入って来る。
グレーのパンツスーツ姿でショートカット
会議室に入るなり

「苅谷さん。
お久しぶりです。」
と、なんだか嬉しそうな様子だった。

「エリコ、久しぶり。
ずっとオンラインだったから直接会えて嬉しいわ。
ユナさんはどう?」

「はいっ。
接客には不慣れなようでしたが、礼儀正しいしパソコンも早いので予定通りに研修も終わるかと思います。」

「そう。
安心した。

とこで…。

私宛にこんなものが届いたんだけど…。」

先程の音声データーをその場で再生する。
にこやかだったエリコの顔が、みるみるうちに青ざめて行くのが見える。

「まぁ、何かのいたずらかもしれないから声紋データーと照合してみてもいいんだけど…」

エリコは、決定的なイジメの証拠に固まっている。

「那智さんに、あなたは何をしたの?」

すると、フッとエリコが笑う。

「あの子、初日から許せなかった。
苅谷さんだって、面接官をしている時から
可愛いだとか私にもかけなかった言葉をかけたり、シフトから上がるときに「おやすみ」って…。

私はずっと、苅谷さんの下で頑張って来たのに、すごくショックだった。

仕事もまともにできないのに、あの子だけ特別扱いするから」

エリコの目には涙が浮かんでいた。

「エリコのことも、ちゃんと私は気にかけていたけどな…。

でも、これは容認できない。
たとえ仕事で優秀なエリコでも、こんなことする人間を私は下に置きたくないから」

私の目にも涙が浮かんだ。
でも、ここで決断しないと報告してくれたユナさんにも、後から入る新人のためにもよくないと思った。

「この件は、上にも報告させていただきます。
処罰が決定するまで自宅待機してください。」

そう伝えると、私はエリコの顔も見ずに会議室を後にした。

背後から、エリコの泣き声が聞こえる。

私は、なるべく自分を平常に保つように努力していた。
一連の出来事を報告してから、会社のカフェでコーヒーを飲む。

那智さんが急に心配になった。

気がつかなかったとはいえ、那智さんの契約を切ったのは私…

なんてことをしてしまったのだろう…

体調が悪いと本人が訴えて来た時
「社会人としての意識が足りない」なんて叱ってしまったこともあった。

きっと蛇に狙われた獲物のように、ジリジリと追い詰められたに違いない。
きっと誰にも言えずに苦しかったのに、何もしてあげられなかった。

那智さんには、ちゃんと謝ろう。
そして、真実を話そう。

彼女が、不当な扱いだったことを知ってくれたら、自分のせいではないということもちゃんと伝えられると思うから。

この先、どんな職業に就いたとしても自信を持って生きてほしいから。

「那智さん。
今日は夜どうしてるの?」

LINEを打ってみた。

すると…。

「撮影が夕方には終わるので時間作れます!」

とのことだった。
那智さんには、私が帰ってからうちに来てもらうことにした。

退勤の打刻をするためにオフィスに戻ると、エリコの席は何もなかったかのように綺麗に片付けられていた。

あれから、総務課の人が来てエリコの私物は宅配便を手配して発送したらしい。

彼女は即日解雇となり、一連の手続きも完了しているとのことだった。

「こんなことがなければ、エリコも笑顔で働いていたのかな…」

ふと思う。

那智さんを待たせているかもしれないと、急いで家路に着いた。

家に着くと、既に配信を終えた那智さんがキックボードを畳んでいる。

「希望さ~ん!!!」

那智さんが手を振っている。
那智さんをダイニングに招き入れてから、お茶を出した。

「那智さん…。

大事な話があるの…。」

音声データーの件、エリコからのパワハラ、私は今まで何も気がつかなかったこと。
エリコが即日解雇になったということも含めて全てを話した。

「私、なんてことしてしまったんだろう…。
本当にごめんなさい。」

と、那智さんの華奢で小さな身体を抱きしめた。

「そんな証拠があったんですね…。

私、もう気にしてないです。
会社を辞めてからは、確かに生活費には大変しましたが、配信のお仕事もモデルもフードデリバリーも、おかげで出会えたようなお仕事なんです。

辞める前より、私は幸せになってますから。」

確かに、収入も生活環境も以前に比べるとかなり良くなっていると何かのときに聞いたような…。

「じゃあ、せめてお詫びに何かさせて?」

私が那智さんの両方の肩に手を置いてまっすぐに彼女を見つめる。

「じゃあ、お詫びにこれに付き合ってください。」

彼女が手にしていたのは、ディズニーのプレミアム招待券だった。

「ホテルもセットだから、ちゃんと有給使ってくださいね!」
「わかった。
まだ消化できてない有給があるから行こう。

ディズニーなんて、何年ぶり?
うちの子が小学生のときに行って以来。」

「じゃあ、めちゃくちゃ変わってますよ!」

そのあとはスケジュール確認をして、早速チケットを使う日を予約した。

「こんなすごいチケットどうしたの?」

私が聞くと、那智さんは自慢そうに

「デザイナーの美雨さんからいただきました!
仕事が多くて期日中に行けないらしいです。」
「じゃあ、お土産くらいは用意しないとね。」

お互いに、何かが消化できたような笑顔で
なんだかスッキリしていた。

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