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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
仲間と共に《Bet my soul》20
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右手で拾おうとしていては間に合わない。
頭で判断するより先に小太刀を握っていた左手を外し、背中越しに回してできる限り指先を伸ばす。
「……っ!」
薬指と中指の間に僅かながら何かが引っかかる。
どうやら最悪の事態は免れたらしい。
だがそれで安堵している余裕はない。
支えの左手を失った俺の身体はミサイルから離れかけているのだから。
「こなクソがっ……!」
今度は右手で小太刀を掴もうとしたが引っかかったのは人差し指と中指だけ。
俺は今、新幹線よりも早い建造物に指先二つでしがみ付いている状態だ。
おまけに下段を切り離したミサイルは徐々に上昇を止めて目標に向かうための平行移動になりつつある。
もうこれ以上は身体も持たない────
「いい加減っ、」
指先から掌に握りしめたUSBを。
「止まりやがれ!!」
俺は電子パネル横の挿入口へと押し込んだ。
気が付けばそこは薄明と薄暮入り混じるぼやけた視界が広がっていた。
足に地の感触は無い。
黒の外套が引力に逆らう姿から堕ちていることを自認する。
でも……そんなことに躊躇う必要はない。
傷だらけの身体にはもう力が入らない。
どれだけ魂が叫ぼうとも、千切れた喉では悲鳴すら出ない。
それでも、不思議と後悔は無かった。
やれるだけのことはやったのだ。
運命に翻弄され、どれだけ絶望に打ちのめされても、ここまで歩みを止めず突き進んで来れたんだ。後悔なんてあるはずが無かった。
「────っ」
微かに届いた響きに薄っすらと瞼を開く。
「────っ!」
煙る視界の中でその瞳が視たのは、たった一筋の光。
小さくも消えることの無い一等星。
無数の星々と差異など無い筈のそれは、俺の心に何度だって灯を宿してくれる。
届くはずのないその光に向けて俺は真っ直ぐと手を伸ばした。
「フォルテェェェェッッッッ!!!!」
空から来訪した天使は俺の手をつかんで抱き寄せる。
そのまま両翼の神器を上手く使いつつ落下スピードを緩めてくれた。
「バカバカバカッ!!なんでアンタはいつも無茶するのよ!!」
胸元で泣きじゃくるセイナが背中に回した両手に力を籠める。
爪を突き立てられて痛かったが、それ以上に彼女の抱擁は暖かかった。
「セイ……ナ……魔科学弾頭……は?」
「フォルテのおかげで解除されたわ。残骸も全て日本海に沈んでいくそうよ」
「そうか……」
ぎりぎりもいいところだったが、どうやらなんとかなったらしい。
達成感よりも安堵感が先行して溜息が漏れたのは、おそらくセイナの前だからということもあるだろう。
「ありがとう……な」
その温もりを確かめるように俺に抱き返す。
小さく華奢で可愛らしい、護りたかったその人のことを。
「もう絶対に離さない。例え世界の果てにでも冥府であろうとも絶対に、絶対に離してなんてやらないんだからっ」
何かを求めるように空中で顔を近づけるセイナに、俺はめいいっぱいのキスで返事をした。
何度も何度も互いの存在を確かめ合うように。
錐揉みしながらもゆっくりと堕ちていく意識が覚えていたのはそんな幸せに満ちた光景までだった。
頭で判断するより先に小太刀を握っていた左手を外し、背中越しに回してできる限り指先を伸ばす。
「……っ!」
薬指と中指の間に僅かながら何かが引っかかる。
どうやら最悪の事態は免れたらしい。
だがそれで安堵している余裕はない。
支えの左手を失った俺の身体はミサイルから離れかけているのだから。
「こなクソがっ……!」
今度は右手で小太刀を掴もうとしたが引っかかったのは人差し指と中指だけ。
俺は今、新幹線よりも早い建造物に指先二つでしがみ付いている状態だ。
おまけに下段を切り離したミサイルは徐々に上昇を止めて目標に向かうための平行移動になりつつある。
もうこれ以上は身体も持たない────
「いい加減っ、」
指先から掌に握りしめたUSBを。
「止まりやがれ!!」
俺は電子パネル横の挿入口へと押し込んだ。
気が付けばそこは薄明と薄暮入り混じるぼやけた視界が広がっていた。
足に地の感触は無い。
黒の外套が引力に逆らう姿から堕ちていることを自認する。
でも……そんなことに躊躇う必要はない。
傷だらけの身体にはもう力が入らない。
どれだけ魂が叫ぼうとも、千切れた喉では悲鳴すら出ない。
それでも、不思議と後悔は無かった。
やれるだけのことはやったのだ。
運命に翻弄され、どれだけ絶望に打ちのめされても、ここまで歩みを止めず突き進んで来れたんだ。後悔なんてあるはずが無かった。
「────っ」
微かに届いた響きに薄っすらと瞼を開く。
「────っ!」
煙る視界の中でその瞳が視たのは、たった一筋の光。
小さくも消えることの無い一等星。
無数の星々と差異など無い筈のそれは、俺の心に何度だって灯を宿してくれる。
届くはずのないその光に向けて俺は真っ直ぐと手を伸ばした。
「フォルテェェェェッッッッ!!!!」
空から来訪した天使は俺の手をつかんで抱き寄せる。
そのまま両翼の神器を上手く使いつつ落下スピードを緩めてくれた。
「バカバカバカッ!!なんでアンタはいつも無茶するのよ!!」
胸元で泣きじゃくるセイナが背中に回した両手に力を籠める。
爪を突き立てられて痛かったが、それ以上に彼女の抱擁は暖かかった。
「セイ……ナ……魔科学弾頭……は?」
「フォルテのおかげで解除されたわ。残骸も全て日本海に沈んでいくそうよ」
「そうか……」
ぎりぎりもいいところだったが、どうやらなんとかなったらしい。
達成感よりも安堵感が先行して溜息が漏れたのは、おそらくセイナの前だからということもあるだろう。
「ありがとう……な」
その温もりを確かめるように俺に抱き返す。
小さく華奢で可愛らしい、護りたかったその人のことを。
「もう絶対に離さない。例え世界の果てにでも冥府であろうとも絶対に、絶対に離してなんてやらないんだからっ」
何かを求めるように空中で顔を近づけるセイナに、俺はめいいっぱいのキスで返事をした。
何度も何度も互いの存在を確かめ合うように。
錐揉みしながらもゆっくりと堕ちていく意識が覚えていたのはそんな幸せに満ちた光景までだった。
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