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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
仲間と共に《Bet my soul》12
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「ここ一帯の制圧は完了しました。大統領」
「うむ」
防衛省外の広間。
街路樹や造形物は破壊され、建物自体も銃弾や爆発物で痛々しい騒動の跡が刻まれている。
「指示されていた各国との手続きも済みましたが……彼らは大丈夫でしょうか?」
彩芽に操られた雑兵達の制圧し終えたジェイクが、軍務経験から負傷対応をしていた大統領の隣で西の空を見上げる。
元より対岸の国々に渡るまでの時間稼ぎだったのだろう、周囲は未だ小火などの銃火や慌ただしい職員達で目立つものの、敵は数ばかりで取るに足らない民間人だけだった。
おかげで制圧するのにも時間はあまりかからず、死傷者も出さずに済んだのだが、裏を返せば主力の兵隊は皆あの戦艦にいるということになる。
例えフォルテであろうとも苦戦を強いられるのは明白だろう。
「────問題ない」
しかしベアードは手を一切休めることなく、その不安の一切をきっぱりと否定する。
「それよりも、だ。ここが片付いたのなら我々にはもっと先を見る必要がある。この戦いが終わった後、無事に彼らが戻ってこれるための……だ」
これでいい。と、ベアードは負傷した職員の包帯を取り換え終えて立ち上がる。
スーツを脱ぎ捨て白のワイシャツのみの彼の袖は、返り血で真っ赤に染まっていた。
「ですが────」
それでもジェイクは一抹の不安を拭えずにいた。
個人、組織、国……今回の件は様々な思惑が交差し過ぎている。
まだ何か見落としがあるのではないか?
そういう過剰な不安に駆られて仕方のない彼に、ベアードは一瞥と共に溜息を漏らす。
「レクス達も招集したのだ。わざわざアメリカという立場が危うくなるような暴挙まで犯してな。そしてさっき無事に現地にも着けたのだから心配することはない。君だって『S.T』の実力は肌身で知っているだろう」
S.T
久しく聞いたその言葉に夏の日差しとは別の嫌な汗が滲んだ。
確かに大統領の言う通りだ。と、たったそれだけの言葉に否応でも納得せざる得なかった。
彼自身もまた、あの世界最強の部隊と対峙した一人であり、彼らの本当の脅威がなんであるかを知っているからだ。
「これはなんだ……っ」
同時刻。
その光景を目の当たりにした彩芽の口から零れたのは、嘲笑でも、ましてや蔑みでもない。
今まで感じたことの無い迫りくる恐怖だった。
「一体私は、何を見せられているというんだ……ッ!?」
その叫びすらも合戦の銃火と共に掻き消されてしまう。
数百と下らない祝福者達達がそれぞれの武具を無差別に振るう暴力の豪雨。
何者であろうとも反逆を赦さない、全てを無に帰す絶対的な力。
これこそが神の力と言って差し支えないないはずだ。
だが、それに屈しない七つの光が今まさに眼の前で乱舞を繰り広げていた。
それも決して受け流しているわけではない、あろうことか比類なき神の力を凌駕し、更にはそれを押し返してきている。
「思ってた以上に手強いな……っと」
喧嘩嗷騒の中で俺がそう漏らしている間にも、サーベルを大上段に巨漢の敵が飛び掛かってきた。
それを難なく半身で躱し、すれ違い様に脳天へハイキックの一撃を叩き込むことで気絶させる。
ズシンッと倒れた巨漢、その背後の死角から今度は別の敵の鎖鎌が飛んできた。
「当たり前でしょ、この数をたったの八人で相手にしているのよ」
俺と背中同士を合わせていたセイナがクルリと入れ替わり、それを双頭槍で受け止める。
「本当はアタシの神の力で全て片付ければいいんだけど……ねッ!」
セイナがやろうとしていることを察して背中を離す。
彼女は金属製の鎖を介して雷神トールの電撃を流し、得物を使用していた女性を感電させる。
「そういう訳にはいかないだろ、お前が本気出して耐えられる奴がこの場に何人いるかも分からないんだ。もちろん俺も含めてな」
「分かってるわよ、だからこうして一人一人片付けているんでしょ。彩芽に操られた人達を殺さない様に」
喋っている間にも、新たに現れた細見の男がその体格に似合わない両手斧を横薙ぎに振るう。
俺の身体よりも遥かにデカい刃を持つをそれは、まとめてセイナまでも真っ二つにせんと大気を切り裂く。
幾ら倒しても次から次へと、汗を拭っている暇すらない。
「でもセイナ、愚痴ってるにしては心なしか楽しんでないか?」
「あれ、バレてた?隠してたつもりだったのに」
俺もセイナも迫りくる両手斧を見ようともしないことに、使用者の細身の男は眼を丸くする。
「これだけ素晴らしい隊員達、そしてアンタと……フォルテと一緒に戦えてるのよ。楽しくないはずが無いじゃない」
戦場にそぐわない一凛の花のような微笑み。
だが、気付いていないはずが無かった。
だって二人はその攻撃をしっかり視認していたのだから。
なら何故────その説明をするよりも先に現象として答えは顕現した。
ガキンッ────!
振るおうとしていた両手斧が二人を真っ二つにする直前で動きを止めた。
二人を護るものは何もない。
それなのに両手斧はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「────戦場で惚気るなんて、ロナちゃん嫉妬しちゃうなぁ」
少し離れた場所からボヤいたロナの右手から半透明に輝く糸が伸びる。
周囲三百六十度全域に警戒網の如く『隕石の糸』を張り巡らせた彼女は、こちらを見ないまま豪快一閃の両手斧をピタリと絡め捕ったのだ。
さらに追撃のベネリ M4を左手一本で放ち、細見の男の膝から下を真っ赤に染める。
「それにしてもお二人、クンクンっなんか匂いますなぁ」
バックステップでわざわざ俺達の間に割り込んだロナがスンスンと鼻を鳴らす。
おいおい、そんな風に顔を俺の腹に埋めんな。
動き辛い上に、隣のセイナが眦が千切れんばかりに眼をかっ開いてんぞ。
「惚気てんのはお前だろこのバカ。てか臭いだと?一体何の臭いだ?」
「それはもう……ラブのコメコメのにお────あ痛ぁッ!?」
鉄拳制裁。
銀髪脳天の旋毛への一撃に、ロナはウルウルとわざとらしい涙目で俺のことを見上げる。
「酷いよフォルテェ!?ロナちゃんだって波乱万丈の中、頑張って魔術防壁を解除してきたんだよ?なのになのに……」
ポカポカと叩く訴えは、さっき片腕で両手斧を受け止めたものとは思えないほどか細い。
まぁ、ロナも苦戦していたことはボロボロの戦闘服を見れば想像は付く。
「たくっ、悪かったよ……お前やアイリスが魔術防壁をどうにかしてくれたおかげで助かった。だから全部終わった後な」
「全部終わったあと、何してくれるの?」
「何でもいいよ、俺ができることだったらな」
ズズズッ────
埋めていた顔を再び見せると、そこには真横に緩んだだらしのない顔が現れる。
……しまった。
これはロナが画策していたことが上手く言った時に見せる綻び顔だ。
「はい、言質はこの無線機で取りました。あとでたっぷり楽しませてもらうから」
ピッと録音を切ったような音に溜息を漏らす。
この用意周到さは相変わらずだと、隣のセイナと共に頭を抱える他なかった。
「分かった、とにかく今はここを乗り切らないと、楽しみも何も無いからな」
「りょーかいダーリン!ふふっ、セイナなんかに独り占めなんてさせないんだから。ね、アイリス────」
その返事代わりに凄まじい爆風を纏った弾丸が飛来し、敵より投擲された矢や銃弾を撃ち払った。
『────ボクは美味しいものが食べれれば何でもいいよ』
遥か後方の位置、その荒々しい攻撃とは裏腹の涼し気な様子でアイリスはボソリと答える。
『それよりも早くした方がいいんじゃないかな、例のリズ・スカーレット、君達が立ち話している間にどんどん先に進んじゃってるよ』
「げ、アイツまた……行くぞ二人とも!」
「うむ」
防衛省外の広間。
街路樹や造形物は破壊され、建物自体も銃弾や爆発物で痛々しい騒動の跡が刻まれている。
「指示されていた各国との手続きも済みましたが……彼らは大丈夫でしょうか?」
彩芽に操られた雑兵達の制圧し終えたジェイクが、軍務経験から負傷対応をしていた大統領の隣で西の空を見上げる。
元より対岸の国々に渡るまでの時間稼ぎだったのだろう、周囲は未だ小火などの銃火や慌ただしい職員達で目立つものの、敵は数ばかりで取るに足らない民間人だけだった。
おかげで制圧するのにも時間はあまりかからず、死傷者も出さずに済んだのだが、裏を返せば主力の兵隊は皆あの戦艦にいるということになる。
例えフォルテであろうとも苦戦を強いられるのは明白だろう。
「────問題ない」
しかしベアードは手を一切休めることなく、その不安の一切をきっぱりと否定する。
「それよりも、だ。ここが片付いたのなら我々にはもっと先を見る必要がある。この戦いが終わった後、無事に彼らが戻ってこれるための……だ」
これでいい。と、ベアードは負傷した職員の包帯を取り換え終えて立ち上がる。
スーツを脱ぎ捨て白のワイシャツのみの彼の袖は、返り血で真っ赤に染まっていた。
「ですが────」
それでもジェイクは一抹の不安を拭えずにいた。
個人、組織、国……今回の件は様々な思惑が交差し過ぎている。
まだ何か見落としがあるのではないか?
そういう過剰な不安に駆られて仕方のない彼に、ベアードは一瞥と共に溜息を漏らす。
「レクス達も招集したのだ。わざわざアメリカという立場が危うくなるような暴挙まで犯してな。そしてさっき無事に現地にも着けたのだから心配することはない。君だって『S.T』の実力は肌身で知っているだろう」
S.T
久しく聞いたその言葉に夏の日差しとは別の嫌な汗が滲んだ。
確かに大統領の言う通りだ。と、たったそれだけの言葉に否応でも納得せざる得なかった。
彼自身もまた、あの世界最強の部隊と対峙した一人であり、彼らの本当の脅威がなんであるかを知っているからだ。
「これはなんだ……っ」
同時刻。
その光景を目の当たりにした彩芽の口から零れたのは、嘲笑でも、ましてや蔑みでもない。
今まで感じたことの無い迫りくる恐怖だった。
「一体私は、何を見せられているというんだ……ッ!?」
その叫びすらも合戦の銃火と共に掻き消されてしまう。
数百と下らない祝福者達達がそれぞれの武具を無差別に振るう暴力の豪雨。
何者であろうとも反逆を赦さない、全てを無に帰す絶対的な力。
これこそが神の力と言って差し支えないないはずだ。
だが、それに屈しない七つの光が今まさに眼の前で乱舞を繰り広げていた。
それも決して受け流しているわけではない、あろうことか比類なき神の力を凌駕し、更にはそれを押し返してきている。
「思ってた以上に手強いな……っと」
喧嘩嗷騒の中で俺がそう漏らしている間にも、サーベルを大上段に巨漢の敵が飛び掛かってきた。
それを難なく半身で躱し、すれ違い様に脳天へハイキックの一撃を叩き込むことで気絶させる。
ズシンッと倒れた巨漢、その背後の死角から今度は別の敵の鎖鎌が飛んできた。
「当たり前でしょ、この数をたったの八人で相手にしているのよ」
俺と背中同士を合わせていたセイナがクルリと入れ替わり、それを双頭槍で受け止める。
「本当はアタシの神の力で全て片付ければいいんだけど……ねッ!」
セイナがやろうとしていることを察して背中を離す。
彼女は金属製の鎖を介して雷神トールの電撃を流し、得物を使用していた女性を感電させる。
「そういう訳にはいかないだろ、お前が本気出して耐えられる奴がこの場に何人いるかも分からないんだ。もちろん俺も含めてな」
「分かってるわよ、だからこうして一人一人片付けているんでしょ。彩芽に操られた人達を殺さない様に」
喋っている間にも、新たに現れた細見の男がその体格に似合わない両手斧を横薙ぎに振るう。
俺の身体よりも遥かにデカい刃を持つをそれは、まとめてセイナまでも真っ二つにせんと大気を切り裂く。
幾ら倒しても次から次へと、汗を拭っている暇すらない。
「でもセイナ、愚痴ってるにしては心なしか楽しんでないか?」
「あれ、バレてた?隠してたつもりだったのに」
俺もセイナも迫りくる両手斧を見ようともしないことに、使用者の細身の男は眼を丸くする。
「これだけ素晴らしい隊員達、そしてアンタと……フォルテと一緒に戦えてるのよ。楽しくないはずが無いじゃない」
戦場にそぐわない一凛の花のような微笑み。
だが、気付いていないはずが無かった。
だって二人はその攻撃をしっかり視認していたのだから。
なら何故────その説明をするよりも先に現象として答えは顕現した。
ガキンッ────!
振るおうとしていた両手斧が二人を真っ二つにする直前で動きを止めた。
二人を護るものは何もない。
それなのに両手斧はうんともすんとも言わなくなってしまった。
「────戦場で惚気るなんて、ロナちゃん嫉妬しちゃうなぁ」
少し離れた場所からボヤいたロナの右手から半透明に輝く糸が伸びる。
周囲三百六十度全域に警戒網の如く『隕石の糸』を張り巡らせた彼女は、こちらを見ないまま豪快一閃の両手斧をピタリと絡め捕ったのだ。
さらに追撃のベネリ M4を左手一本で放ち、細見の男の膝から下を真っ赤に染める。
「それにしてもお二人、クンクンっなんか匂いますなぁ」
バックステップでわざわざ俺達の間に割り込んだロナがスンスンと鼻を鳴らす。
おいおい、そんな風に顔を俺の腹に埋めんな。
動き辛い上に、隣のセイナが眦が千切れんばかりに眼をかっ開いてんぞ。
「惚気てんのはお前だろこのバカ。てか臭いだと?一体何の臭いだ?」
「それはもう……ラブのコメコメのにお────あ痛ぁッ!?」
鉄拳制裁。
銀髪脳天の旋毛への一撃に、ロナはウルウルとわざとらしい涙目で俺のことを見上げる。
「酷いよフォルテェ!?ロナちゃんだって波乱万丈の中、頑張って魔術防壁を解除してきたんだよ?なのになのに……」
ポカポカと叩く訴えは、さっき片腕で両手斧を受け止めたものとは思えないほどか細い。
まぁ、ロナも苦戦していたことはボロボロの戦闘服を見れば想像は付く。
「たくっ、悪かったよ……お前やアイリスが魔術防壁をどうにかしてくれたおかげで助かった。だから全部終わった後な」
「全部終わったあと、何してくれるの?」
「何でもいいよ、俺ができることだったらな」
ズズズッ────
埋めていた顔を再び見せると、そこには真横に緩んだだらしのない顔が現れる。
……しまった。
これはロナが画策していたことが上手く言った時に見せる綻び顔だ。
「はい、言質はこの無線機で取りました。あとでたっぷり楽しませてもらうから」
ピッと録音を切ったような音に溜息を漏らす。
この用意周到さは相変わらずだと、隣のセイナと共に頭を抱える他なかった。
「分かった、とにかく今はここを乗り切らないと、楽しみも何も無いからな」
「りょーかいダーリン!ふふっ、セイナなんかに独り占めなんてさせないんだから。ね、アイリス────」
その返事代わりに凄まじい爆風を纏った弾丸が飛来し、敵より投擲された矢や銃弾を撃ち払った。
『────ボクは美味しいものが食べれれば何でもいいよ』
遥か後方の位置、その荒々しい攻撃とは裏腹の涼し気な様子でアイリスはボソリと答える。
『それよりも早くした方がいいんじゃないかな、例のリズ・スカーレット、君達が立ち話している間にどんどん先に進んじゃってるよ』
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