SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

仲間と共に《Bet my soul》6

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 MiG-29の爆撃により態勢を崩してしまったロナ。
 その小さな体躯に向かって獰猛な触手達が襲い掛かる。

「あ────」

 それ以上の言葉を発する間も無かった。
 やっぱり……ロナは悪い子なんだ。
『必ず生きて帰ってこい』
 大好きだった人に隠しごとをするのみならず、交わしたその約束さえ守ることが出来ないなんて。
 でも良いんだ……これで。
 最後の一瞬まで抗おうとした指先の力を緩めた。
 大好きな人を欺き続けるくらいなら、ここでいっそ────
 そうやって運命を受け入れたその時だった。

 ドガァァァァァァァァァンッ!!!!

 さっきの爆撃など比べ物にならない衝撃音が鳴り響いた。
 ロナの背後から聞こえてきたそれは、銃弾でも壊れなかった艦橋の窓を突き破り、荒々しい爆風と共に飛び込んできたらしい。
 ミサイルでも打ち込まれたのか?
 そう錯覚するほどだったけど、倒れていたロナには不思議と影響は無く、寧ろ被害を被ったのは触手達だった。

「くっ!何よこれ……っ!」

 夏の熱気すら焦がす猛熱が背上を駆け抜けていく。
 半ばそれに押し付けれる形で地面にへばりついていると、数秒も経たないうちに猛威は去った。
 おっかなびっくり顔を上げてみると、目に映ったのは焦土と化した最新機器と、バラバラに砕かれた触手達の無残な姿だった。

「一体これは────」

 状況の移り変わりの激しさについていけず、何が起こっているか確認しようとした矢先のことだった。

「────あーあ、手加減しろって言ったのにバラバラじゃねーか……って、あれ?」

 ロナの背後より聞こえてきたのは男性の面倒そうなぼやき声。
 突き破った艦橋のガラス窓より侵入したその人物は、周囲の光景を見渡したのち、ボロボロのロナの姿に気付いて声を掛けてきた。

「あー……お前何やってんだ?」

 聞き覚えのある呆れた態度に『げっ』と内心で頬を引き攣らせた。




「真正面から突っ込んでくるとは────」

 オスカーが右手の指輪二つに魔力を込める。

「舐められたものだな!!」

 身体中に溜め込んだ怒気を吐き出すように、灼熱の火炎を照射する。
 触れた瓦礫はドロドロと融解し、過ぎ去ったあとは灰すら残らない程の業火。
 それを俺達はタイミングすら取らず、同時に左右へ跳んだ。

「逃がすかぁぁッ!」

 追尾するために両手を広げるオスカー。
 瓦礫の隙間を器用に縫うようにして、弧を描きながら逃げる俺達の側面を薙ぎ払う焔。
 しかし、両手から片腕となった魔術の威力は半減していた。
 特定の位置までをしていた俺は立ち止まり、その焔に向かってクルりと身体を回転させる。

「逃げねえさ────」

 ひるがえった八咫烏ヤタガラスごと火炎をぶっ叩く。

「お前を倒すまではな!」

 巨大な樹木の如く太い火炎の円柱が俺を支点に方向を反転させる。
 狙ったのはオスカー本人……ではなく、その下に聳える神殿の土台だった。
 白き石製を幾重にも積まれたピラミッドにも似た造形。
 積み重ねられた絶妙なバランスを倒壊させるようにして、弾き返した炎が土台の根元を焼き払った。

「ぬぅッ!?」

 足場の神殿が崩れかけたことで姿勢を崩したオスカーの両手が明後日の方角へと逸れ、無差別の破壊を戦艦へと広げていく。
 魔術防壁を失ったことでその頑丈さだけが取り柄となった戦艦ヨルムンガンド
 しかし、この神殿の間においては最早原型すら留めておらず、寧ろここまで破壊が進んでいてもなお飛び続けていることが不思議なくらいだ。

「矮小な小細工ごときでいい気になりおって……ッ」

 破壊を巻き散らす火炎を止めたオスカーの注意がこちらへと向けられる。
 瞳孔を見開かれたブルーサファイアが怒りに染まっていた。
 その業火の如き直情は、例え獅子であろうと失神してしまうほどの迫力だろう。
 だが、俺はそれに動じることなく軽く口角を吊り上げる。
 空に翻る相棒の金髪が眼に映ったからだ。

「はぁぁぁぁぁあッ!!!!」

 瓦礫の豪雨に怯むどころか、それすらを足場に利用しつつセイナが中空を駆ける。
 脱兎の如く道なき道を奔り抜け、こちらに注意を引かれていたオスカーが反応する間に肉薄。
 振りかざした一撃を陽の暁に染め、気迫と共に打ち墜とす。

「未熟な貴様達ごときに……ッ!」

 背後からの一撃にオスカーは振り返ることなく左手を無造作に払う。
 その指先からほとばしる雪結晶が花々の如く咲き乱れ、術者の周囲を覆う結界を構築する。
 しかし、先ほど見せたアルシェの氷壁よりも遥かに薄く、見るからに軟な造りとなっていた。
 おそらくやぶれかぶれで発動時間が短い下位の魔術を用いたのだろう。
 だがセイナは一切の躊躇いなく刃を振った。
 殆ど無抵抗に視えた防壁はほんの僅かに刃先を逸らさせ、その隙に半身に態勢を変えつつあったオスカーはなんとか攻撃を躱す。

「世界を統べるべき私がこうも苦戦するとはッ」

 悪態を付きつつも素早く詠唱を無視した魔術を練り上げ発動。
 式となる文字列が地面に走ったかと思えば、石造りの地面から突如として太い丸太が飛び出した。

「未熟とか世界だとか、そんな小さなことは関係ないわ────」

 飛び掛かるセイナに対しカウンター気味の一撃に、彼女は全く怯むことなく双頭槍グングニルの柄で受け止める。

「これはただの意地よ。アンタとアタシ達、どっちの方が自らの意志を貫き通せるかの……ねっ!」

 槍術を駆使して押し出された勢いを往なしつつ、太い丸太の上へとセイナは躍り出た。
 そのまま彗星の如く金の髪を靡かせながら、再びオスカーへと特攻を仕掛ける。

「自惚れるな、たかが貴様らの痴情いろこいざたを意地だと?」

 追加の術式を編み上げていたオスカーが魔術を発動させると、丸太の至るところから幼木が生え出し、それがみるみる内に成長していく。
 あっと言う間に腕程の太さとなった枝類がセイナの脚へと巻き付いた。

「グ……ッ!」

 前のめりへ倒れそうになった態勢を何とか槍で支えることで堪える。
 しかし、脚を止めた隙をついてオスカーは別の丸太を精製、それを娘ごと薙ぎ払うよう投擲する。

「ぅきゃッ!」

 回転する丸太を何とか槍で受けたものの、脚を止められたことで逃げ道を失っていたセイナはそれをまともに食らって吹き飛ばされる。

「そんな稚拙な感情ごときに敗ける私じゃない!!」

 雄叫びのような宣言は、オスカーのポーカーファイスを完全に亡きモノとしていた。
 剥き出しの感情は意地を通り越して執念すら感じる。               

「────いいや、違うなオスカー」

 数発の銃声。
 俺が放った五発の銃弾がオスカーへと迫る。

「人を想う心に稚拙も何もない。相手を想うことが大切なんだ」

 天を目指して突き進む.45ACP弾。
 その軌跡に蒼碧の尾が五つの流線を描き、入り混じるように螺旋を描いていく。

「アンタだって初めはそうだったはずだ!!」

 俺の左眼ブルームーンアイに宿る蒼い炎。
 その魔力を纏った弾丸がそれぞれ五つの方角に進路を捻じ曲げる。

魔弾サルトブレット

 一番初歩的な魔術でもある『魔弾』だが、俺が放ったのは銃弾と魔術を織り交ぜた併合ハイブリット
 銃弾の威力をそのままに軌道のみ魔眼の力で捻じ曲げた45口径弾は、グニャグニャと出鱈目な動きで相手を翻弄しつつ標的オスカー追跡ホーミングする。

「国民、そして家族を第一に考えていたはずのアンタなら────」

「黙れ、黙れ黙れぇ!!」

 子供の癇癪かんしゃくのように喚き散らすオスカー。
 もはや俺の言葉の意味すら理解していないようなヒステリックと共に、練り上げた術式────いや、感情任せのただの魔術防壁を展開させる。
 世界トップクラスの魔力による暴力が、それぞれ違う角度から襲い掛かる魔弾サルトブレット、周囲の神殿、突出していた丸太など、障害となり得るモノを全てを薙ぎ倒す。
 全方位に向けた自然現象のような散弾は各所に大なり小なり破壊の跡をもたらし、そしてそれは俺自身も例外ではなく、受けることも躱すことも敵わない面攻撃が目前まで迫る。
 だが俺は決して引くことはせず、やや肩幅よりも広く両足を開くことで姿勢を下げた。
 右眼レッドデーモンアイで肉体に力を供給し、左眼ブルームーンアイからは魔力による蒼き半円状の結界を構築させる。
 荒々しい暴風雨が襲い掛かる寸前────俺はそっと撫でるような優しい仕草で腰鞘の小太刀を引き抜いた。

「絶対斬殺距離!!」

 半透明のガラスを思わせる蒼藍の結界に触れた全ての物体が塵となって霧散する。
 荒れ狂う暴風すらも斬り裂いた俺の視線の先、強大な力を放出した反動で硬直するオスカーの無防備な状態が眼に映った。

「これで終わりだッ!!」

 真っすぐオスカーへと踏み出し左脚の下で石畳が霜を踏んだようにひび割れる。
 そのままの勢いで全体重を乗せた一撃を右腕にのせ、オーバースローで手にしていた小太刀を俺はぶん投げた。
 指先で押し出された村正改は回転することなく、ただひたすらに真っ直ぐオスカーへと飛翔する。
 その速度は拳銃弾のそれを遥かに上回り、ライフル弾に匹敵する加速で突き進む。

「クッ……このぉ……っ!!」

 感情任せに魔力を消費してしまい動くことの適わないオスカー。
 ここまで聞こえてきそうなほどの歯ぎしりと滲み出た脂汗は、本当に余裕がないことの証明だ。
 しかし、そんな簡単に倒せるくらいの『運』ならば、こんなところまで来ることはなかっただろう。

 フラッ……

 本人自身意図はしていなかったことは、その表情をみれば明白だった。
 ムキになっていたオスカーの全身から不意に力が抜け、図らずも片膝をつくような態勢となったのだ。
 そのおかげで何とか俺の攻撃を寸でのところで躱すことに成功する。

「ククッ……やはり私は神に選ばれた者なのだ。貴様ごときが────」

 高笑いしていたオスカーの双眸が、目の前の光景に気づいて見開かれる。
 フォルテ・S・エルフィーがいない!?
 眼下に見下ろしていたはずの、あの愚かな悪魔の姿が見当たらない。

「一体どこに────」

 血眼となって辺りを探すオスカーが、その途中で言葉を飲んだ。
 頭上から墜ちる暁の陽光に照らされていたはずの身体に翳り増していく。
 不滅の太陽は未だ健在だ。
 なのに私の場所だけ闇が濃くなっていくということはすなわち────

「フォルテ・S・エルフィーッ!!」

 投げつけた契約武器こだちの位置まで魔眼で転移していた俺は刃を振り落とした。
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