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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
仲間と共に《Bet my soul》3
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フォルテ・S・エルフィー……?
聞いたことも無いはずの名前なのに、まるで波紋のようにゆっくりと浸透してくるような響きを纏っている。
『無駄だ。こんなことして思い出すわけねーだろ。もう肉体と魔力が分離しかけてんだ。コイツの魂はもうフォルテであってフォルテじゃない。そんなこと、お前だってわかっているはずだろ?』
『いいえ、私は絶対認めない。そんな軟弱な精神の持ち主であるなら、あの『竜』が彼を認めるはずがない。こんなところで易々と死ぬ運命であるはずがない』
俺は……俺は……っ
『それにもう忘れたのですか?あの少女が最後に残してくれたその言葉を────』
『アタシだって、大好きよ……っ!』
ドクンッ一つ大きく心臓の鼓動が鳴り響く。
たったそれだけの少女言葉、思いに、崩れかけていた俺の精神が覚醒する。
「そうだ……俺は、俺は『フォルテ・S・エルフィー』だ。哀れにも復讐の果てに二つの魔眼を手にし『月下の鬼人』と畏怖された元S.Tの隊長。そして、愛する人のためにこの身を捧げた男の名前だ」
師匠に言い付かった己への執着。
愛した人物からの思い。
そうした様々な人物によって作り上げられた『俺』という人格が改めて眼を覚ました。
『……コイツは驚いたぜレヴィ。まさか本当に、死んだはずの人間の魂が自我を取り戻したってのか?』
『だから言ったじゃないですか。私達の主がこんなところで死ぬような器ではないと』
口々に感想を述べる魔眼達《?》だが、イマイチ俺は状況を飲み込めずにいた。
この視界を埋め尽くす……という表現もどこかおかしいな。元より色という概念が存在しないかのような闇の空間の中、意識はあるが実体は存在していないらしい。
まるで一人称ではなく三人称の視点から真っ暗闇を見ているような感覚だ。
「ベルフェゴール、レヴィアタン。ここは一体どこだ?俺は死んだのか?」
『まぁそんなところだ。お前の魂は今ある場所に留まってはいるものの、それを受ける器が無い状態だ』
「じゃあ、やっぱりこのまま死ぬのか?」
身体は塵一つ残っていない以上、俺にはもう為す術は残されていないのか?
『いいえ、精神が安定したのならば問題ないでしょう。肉体の再構築も時期に始まるでしょう』
「ホントか!?死んだのに戻ることができるのか?」
思ってもみなかった朗報にレヴィアタンが頷いた気がした。
『えぇ、死ぬことで一番の問題は肉体よりも精神がバラバラとなって分解されてしまうことにあります。肉体の死後、その恐怖から常人は精神を保つことが出来ずバラバラとなり、新たな魔力として各地に散らばってしまう。けど今の貴方は自我を保つことが出来ている以上、あとは戻るべき器ですが、これは私達がどうにかしてあげることができます』
「そうか……で、そのための対価は何が必要なんだ……?」
魔眼が肉体精製などという忖度を、対価無しで行うはずがない。
「あれだけ様々な情報を俺に喋ったのも、何か目的があったんじゃないのか?」
おそらく、身体の一部や精神支配。
たぶん今まで以上に重い枷となるかもしれないが、それでもセイナを救うための手立てとなるならば俺は────
『分かってんじゃねーか宿主、俺はなぁ────』
『────未来を見せなさい』
先に意見しようとしていたベルフェゴールを遮り、レヴィアタンが宣言する。
『私に貴方が見せるこの世界の行く末。神にも人にも左右されない貴方の生き様を見せてくれれば、私はそれ以上何も望まないわ』
「……そんなことで良いのか?」
『もちろん。だって私が地上に降り立ったのは、神も人も共振できるような世界を作るためだから』
鉄面皮と思っていた声音が、ほんの少しだけ弾んだ気がした。
『それで、天下の大悪魔であるベルフェゴール様は一体何をご所望されるのですか?』
『レヴィ、テメェなぁ……』
要件を言い終えどこか調子良さそうなレヴィアタンがベルフェゴールに水を向ける。
しかし、さっきまではバイキングを前にした子供のようにはしゃいでいた彼《?》であったが、今の話しを聞いた後ではどこかバツが悪そうだ。
よっぽど皆がドン引きするような契約を考えていたらしい。
『ちっ、分かったよ。今回は俺様も手ぇ引いてやる。天下の大悪魔としてな。だがなぁ、また少しでも隙見せるようならその肉体と精神、全て俺様が食らいつくしてやるなぁ!』
水の潺。
僅かに押しては返す湯水が俺の半身を濡らしている。
指先や頬にヒンヤリ伝わる岩の感触から、どうやら仰向けに倒れた状態となっているらしい。
「……っ」
恐る恐る瞼を持ち上げてみる。
生まれたての赤ん坊が初めて世界を受け入れる時のように、ゆっくりと。
「……手、左手?」
開いた瞳に映ったのは左腕だった。
傷一つ無い、初心で穢れを知らない左腕。
けれどもそれは随分と馴染と既視とを兼ね備えたモノだった。
当たり前のように動けと命じると動く、俺だけの左腕。
確かめるように顔へ触れると、指先には左眼の感触が伝わってくる。
跳ね上がるように身を起こして足元に拡がる水面へ視線を向けると、そこ映っていたのは喪われていたはずの左眼を丸くさせている自身の姿だった。
「これは……一体」
顔の古傷は残っているものの、それ以外は全て元通り。
何故かご丁寧に服まで新品そのもの、アンカースーツのパイロットウェアを身に纏っていた。
「────よぉ、ようやくお目覚めかい……眠り王子」
聞いたことも無いはずの名前なのに、まるで波紋のようにゆっくりと浸透してくるような響きを纏っている。
『無駄だ。こんなことして思い出すわけねーだろ。もう肉体と魔力が分離しかけてんだ。コイツの魂はもうフォルテであってフォルテじゃない。そんなこと、お前だってわかっているはずだろ?』
『いいえ、私は絶対認めない。そんな軟弱な精神の持ち主であるなら、あの『竜』が彼を認めるはずがない。こんなところで易々と死ぬ運命であるはずがない』
俺は……俺は……っ
『それにもう忘れたのですか?あの少女が最後に残してくれたその言葉を────』
『アタシだって、大好きよ……っ!』
ドクンッ一つ大きく心臓の鼓動が鳴り響く。
たったそれだけの少女言葉、思いに、崩れかけていた俺の精神が覚醒する。
「そうだ……俺は、俺は『フォルテ・S・エルフィー』だ。哀れにも復讐の果てに二つの魔眼を手にし『月下の鬼人』と畏怖された元S.Tの隊長。そして、愛する人のためにこの身を捧げた男の名前だ」
師匠に言い付かった己への執着。
愛した人物からの思い。
そうした様々な人物によって作り上げられた『俺』という人格が改めて眼を覚ました。
『……コイツは驚いたぜレヴィ。まさか本当に、死んだはずの人間の魂が自我を取り戻したってのか?』
『だから言ったじゃないですか。私達の主がこんなところで死ぬような器ではないと』
口々に感想を述べる魔眼達《?》だが、イマイチ俺は状況を飲み込めずにいた。
この視界を埋め尽くす……という表現もどこかおかしいな。元より色という概念が存在しないかのような闇の空間の中、意識はあるが実体は存在していないらしい。
まるで一人称ではなく三人称の視点から真っ暗闇を見ているような感覚だ。
「ベルフェゴール、レヴィアタン。ここは一体どこだ?俺は死んだのか?」
『まぁそんなところだ。お前の魂は今ある場所に留まってはいるものの、それを受ける器が無い状態だ』
「じゃあ、やっぱりこのまま死ぬのか?」
身体は塵一つ残っていない以上、俺にはもう為す術は残されていないのか?
『いいえ、精神が安定したのならば問題ないでしょう。肉体の再構築も時期に始まるでしょう』
「ホントか!?死んだのに戻ることができるのか?」
思ってもみなかった朗報にレヴィアタンが頷いた気がした。
『えぇ、死ぬことで一番の問題は肉体よりも精神がバラバラとなって分解されてしまうことにあります。肉体の死後、その恐怖から常人は精神を保つことが出来ずバラバラとなり、新たな魔力として各地に散らばってしまう。けど今の貴方は自我を保つことが出来ている以上、あとは戻るべき器ですが、これは私達がどうにかしてあげることができます』
「そうか……で、そのための対価は何が必要なんだ……?」
魔眼が肉体精製などという忖度を、対価無しで行うはずがない。
「あれだけ様々な情報を俺に喋ったのも、何か目的があったんじゃないのか?」
おそらく、身体の一部や精神支配。
たぶん今まで以上に重い枷となるかもしれないが、それでもセイナを救うための手立てとなるならば俺は────
『分かってんじゃねーか宿主、俺はなぁ────』
『────未来を見せなさい』
先に意見しようとしていたベルフェゴールを遮り、レヴィアタンが宣言する。
『私に貴方が見せるこの世界の行く末。神にも人にも左右されない貴方の生き様を見せてくれれば、私はそれ以上何も望まないわ』
「……そんなことで良いのか?」
『もちろん。だって私が地上に降り立ったのは、神も人も共振できるような世界を作るためだから』
鉄面皮と思っていた声音が、ほんの少しだけ弾んだ気がした。
『それで、天下の大悪魔であるベルフェゴール様は一体何をご所望されるのですか?』
『レヴィ、テメェなぁ……』
要件を言い終えどこか調子良さそうなレヴィアタンがベルフェゴールに水を向ける。
しかし、さっきまではバイキングを前にした子供のようにはしゃいでいた彼《?》であったが、今の話しを聞いた後ではどこかバツが悪そうだ。
よっぽど皆がドン引きするような契約を考えていたらしい。
『ちっ、分かったよ。今回は俺様も手ぇ引いてやる。天下の大悪魔としてな。だがなぁ、また少しでも隙見せるようならその肉体と精神、全て俺様が食らいつくしてやるなぁ!』
水の潺。
僅かに押しては返す湯水が俺の半身を濡らしている。
指先や頬にヒンヤリ伝わる岩の感触から、どうやら仰向けに倒れた状態となっているらしい。
「……っ」
恐る恐る瞼を持ち上げてみる。
生まれたての赤ん坊が初めて世界を受け入れる時のように、ゆっくりと。
「……手、左手?」
開いた瞳に映ったのは左腕だった。
傷一つ無い、初心で穢れを知らない左腕。
けれどもそれは随分と馴染と既視とを兼ね備えたモノだった。
当たり前のように動けと命じると動く、俺だけの左腕。
確かめるように顔へ触れると、指先には左眼の感触が伝わってくる。
跳ね上がるように身を起こして足元に拡がる水面へ視線を向けると、そこ映っていたのは喪われていたはずの左眼を丸くさせている自身の姿だった。
「これは……一体」
顔の古傷は残っているものの、それ以外は全て元通り。
何故かご丁寧に服まで新品そのもの、アンカースーツのパイロットウェアを身に纏っていた。
「────よぉ、ようやくお目覚めかい……眠り王子」
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