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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
グッバイフォルテ《Dead is equal》7
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伸縮する殺気を掻い潜る糸のように細い軌跡。
その一瞬を逃さなかったアタシの叫びに、ベルゼは地表を脱兎の如く駆け抜ける。
「…………っ」
アタシの合図に何の疑いも持たず、一切の容赦もなく、数十メートルの距離をあっと言う間にゼロとしたベルゼの猛進に、フォルテの反応がやや遅れる。
「いい加減、俺様の血は食い飽きたってからよぉ─────」
両腕の鉤爪で描く×隙間で、光線の如く光る紫眼が獲物に食らいつく。
「─────てめぇの血を寄こしやがれ!!フォルテ・S・エルフィィィィッッッー!!!!」
疾呼する思いと共に激突した二人の爆風が、周囲へと張り巡らされていた殺気を吹き飛ばす。
そのままギシギシと互いの武器越しに力を押し付け合う様はさっきと同じだけど、技術も力も勝っていたはずのフォルテの方が僅かに押されていた。
「生憎てめぇの連れから殺しの許可を貰っちまったからなぁ!心置きなくぶっ殺してやるぜぇぇぇぇ!!!!」
猿叫のような高笑いと共に繰り出す怒涛の連撃に、流石のフォルテも反撃することができず押し下がっていく。
「─────逃がさない!!」
前しか見えていないベルゼの穴を埋めるべく、アタシはフォルテの背後に回り込んでいた。
その無防備に迫ってくる黒衣へ向けて、双頭槍の切っ先が下方から上方へと綺麗な一線を描いた。
「…………」
しかし、フォルテは背後が視えているような動きで左肩を引きながら半身となり、鼻頭すれすれでアタシの切っ先をやり過ごす。
「足元がお留守だぜっとッ!!」
そこへベルゼが左足を地へ這わせるような足払いを放つ。
それもタダの左足ではない、先端には例の三枚刃が光る一撃だ。
「…………」
タンッ
食らえば態勢を崩すどころか下半身が無くなる攻撃を、フォルテはその場で軽く跳ぶことで難なく躱す。
でも、地上から足を引きはがすことが出来た。
これなら……ッ!
アタシは空中で動きの制限されているフォルテへ再度仕掛ける。
空ぶった切りあげの勢いを殺さずクルリと一回転、威力を倍増させた一撃が横一線を描こうとした─────
ギロリッ……!
「ッ……!?」
振り返ったアタシが視たのは変色した血のように濁った片眸。
いつの間に腰背部の鞘に納刀したフォルテから、言葉で表現することのできない嫌な予感が脳裏へ飛び込んできた。
心身を上下半分に咲かれた自らの姿。
その既視感すら感じるリアルな情景に、不意に胃の中から込み上げるものをアタシは必死に堪える。
このまま攻撃を止めなければアタシは言うまでもなく、いまそこで足払いから状態を起こそうとしているベルゼも首が飛びかねない。
「危ない!!」
「おわッ!?」
咄嗟に斬撃を中段蹴りへと切り替えたアタシの攻撃がベルゼの頭上を空振った。
「てめぇ、また────」
誤射と勘違いし再び激昂しかけたベルゼの頭上を、レーザーのような紅き一線走る。
それはフォルテの身体、腰背の鞘から発せられており、まるで灯台の明かりが睥睨するように流れていく。
その光の速度は瞬きの内に彼を一周する。
あれに当たったらマズい。
さっきの情景が残っていたアタシは、咄嗟に地面へと刃を突きたて棒高跳びのように自らの身体を宙へと追いやった。
ヒュン─────!
眼下に映る光景が紅一色に染まり、街並みの足元とベルゼが一瞬だけ見えなくなる。
紅以外の色が消えてしまったような光景は、思わず見惚れてしまうほど恐ろしい。
何とかフォルテの発するその紅い光よりギリギリ位置に逃げていたアタシだが、柄を握る両指の先が紅へ染まる時、とてつもない力で双頭槍が弾かれた。
「なッ!?きゃッ」
手元の支えを失ったアタシの身体が宙へと投げ出される。
錐揉みする視界には、弾かれたグングニルが円状に残像を残しつつ、離れた場所にあった廃墟へ突き刺さる姿が映っていた。
何が起きたの……!?
紅いレーゼーを発したフォルテ自身は全く微動だにしておらず、アタシ自身も何をされたのか理解が追いつかない。
幸い身体に痛みと損傷は見受けられない。
身体もまだ思うように動くアタシが中空で何とか態勢を立て直そうと藻掻く最中、頭から墜ちる逆さの世界に変化が生じた。
バチンッ─────!!
いつの間に小太刀を抜いていたのか、鞘元で鎺の音が生じる。
それが全ての合図だった。
数百メートル規模のショッピングモールの全てが斜めに歪む。
「な、なんなの……これ……!?」
まるで悪い夢でも見ている気分だった。
スーっと乱れの無い横一線。
ちょうどフォルテの腰の位置、紅いレーゼーがなぞった場所全てが真っ二つに割れている。
さっきとは別の街路樹も、聳える建物も、地平線でも描かれたような斬撃の軌跡が走っている。
『十の奥義、神無月』
フォルテの唇が、言の葉を発することなくそう告げた。
その業は、本来彼が使えるはずのない十番目の型『神無月』。
先日、イギリス大使館を真っ二つにした竜の一撃と同じようだけど、その威力は別の業と錯覚してしまうほど比較にならない。
「─────って、なんなんだよこりゃぁ!?」
紅い雲底が晴れた下、アタシの蹴りによって頭を上げなかったベルゼだが、同じ黙示録の瞳を持つ彼すらも度肝を抜かれていた。
「これがフォルテの共鳴か、シャレになら─────」
互いに大技に魅せられて意識が逸れた瞬間だった。
片膝を着いていたベルゼ目掛け、逆手持ちのフォルテの小太刀が邪悪な鈍色の光を放った。
「ぐはぁ……ッ」
「ベルゼッ!!」
コートを肩掛けしただけの半裸の腹筋へと深々と突き刺さる刃。
体内に収まっていた赤いものが、彼の両足を濡らしていく。
あばら骨の間、肺の位置を刺されたベルゼの口が、打ち上げられた魚のように酸素を求めていた。
「…………」
苦しむ姿に慈悲すら感じさせない紅い瞳。
背まで貫いた刃を見ても彼は翳り一つ見せることは無かった。
それどころか、血で濡れた氷のように冷酷な表情が、何の躊躇いもなく傷口を広げるための捻りを加えていく。
「がぁぁぁぁッ!!!!!」
「このッ……!!」
苦痛の滲む悲鳴に、アタシは突発的にレッグホルスターの銃を握りしめていた。
しかし眼下に映るフォルテを撃とうにも、頭上からでは致命傷以外の狙いが付けられない。
タングリスニとタングニョーストの無いその身体は、迷いに揺らいでいる最中にも重力に引かれ、あっと言う間に地表が近づいてくる。
結局のところ、アタシは最後まで決意しきれなかった。
その首元へ左腕の義手が伸びる。
「ゥ……ァ……」
くる……しい……
そう吐露することすら叶わず、今まさに彼の感情と同じ冷たい指先が。グイグイとアタシの首にめり込んでいく。
バタつかせる脚は無情にも宙を掻き、引きはがそうとしていた指先も次第に力が抜けてしまう。
ここまで……か……
その一瞬を逃さなかったアタシの叫びに、ベルゼは地表を脱兎の如く駆け抜ける。
「…………っ」
アタシの合図に何の疑いも持たず、一切の容赦もなく、数十メートルの距離をあっと言う間にゼロとしたベルゼの猛進に、フォルテの反応がやや遅れる。
「いい加減、俺様の血は食い飽きたってからよぉ─────」
両腕の鉤爪で描く×隙間で、光線の如く光る紫眼が獲物に食らいつく。
「─────てめぇの血を寄こしやがれ!!フォルテ・S・エルフィィィィッッッー!!!!」
疾呼する思いと共に激突した二人の爆風が、周囲へと張り巡らされていた殺気を吹き飛ばす。
そのままギシギシと互いの武器越しに力を押し付け合う様はさっきと同じだけど、技術も力も勝っていたはずのフォルテの方が僅かに押されていた。
「生憎てめぇの連れから殺しの許可を貰っちまったからなぁ!心置きなくぶっ殺してやるぜぇぇぇぇ!!!!」
猿叫のような高笑いと共に繰り出す怒涛の連撃に、流石のフォルテも反撃することができず押し下がっていく。
「─────逃がさない!!」
前しか見えていないベルゼの穴を埋めるべく、アタシはフォルテの背後に回り込んでいた。
その無防備に迫ってくる黒衣へ向けて、双頭槍の切っ先が下方から上方へと綺麗な一線を描いた。
「…………」
しかし、フォルテは背後が視えているような動きで左肩を引きながら半身となり、鼻頭すれすれでアタシの切っ先をやり過ごす。
「足元がお留守だぜっとッ!!」
そこへベルゼが左足を地へ這わせるような足払いを放つ。
それもタダの左足ではない、先端には例の三枚刃が光る一撃だ。
「…………」
タンッ
食らえば態勢を崩すどころか下半身が無くなる攻撃を、フォルテはその場で軽く跳ぶことで難なく躱す。
でも、地上から足を引きはがすことが出来た。
これなら……ッ!
アタシは空中で動きの制限されているフォルテへ再度仕掛ける。
空ぶった切りあげの勢いを殺さずクルリと一回転、威力を倍増させた一撃が横一線を描こうとした─────
ギロリッ……!
「ッ……!?」
振り返ったアタシが視たのは変色した血のように濁った片眸。
いつの間に腰背部の鞘に納刀したフォルテから、言葉で表現することのできない嫌な予感が脳裏へ飛び込んできた。
心身を上下半分に咲かれた自らの姿。
その既視感すら感じるリアルな情景に、不意に胃の中から込み上げるものをアタシは必死に堪える。
このまま攻撃を止めなければアタシは言うまでもなく、いまそこで足払いから状態を起こそうとしているベルゼも首が飛びかねない。
「危ない!!」
「おわッ!?」
咄嗟に斬撃を中段蹴りへと切り替えたアタシの攻撃がベルゼの頭上を空振った。
「てめぇ、また────」
誤射と勘違いし再び激昂しかけたベルゼの頭上を、レーザーのような紅き一線走る。
それはフォルテの身体、腰背の鞘から発せられており、まるで灯台の明かりが睥睨するように流れていく。
その光の速度は瞬きの内に彼を一周する。
あれに当たったらマズい。
さっきの情景が残っていたアタシは、咄嗟に地面へと刃を突きたて棒高跳びのように自らの身体を宙へと追いやった。
ヒュン─────!
眼下に映る光景が紅一色に染まり、街並みの足元とベルゼが一瞬だけ見えなくなる。
紅以外の色が消えてしまったような光景は、思わず見惚れてしまうほど恐ろしい。
何とかフォルテの発するその紅い光よりギリギリ位置に逃げていたアタシだが、柄を握る両指の先が紅へ染まる時、とてつもない力で双頭槍が弾かれた。
「なッ!?きゃッ」
手元の支えを失ったアタシの身体が宙へと投げ出される。
錐揉みする視界には、弾かれたグングニルが円状に残像を残しつつ、離れた場所にあった廃墟へ突き刺さる姿が映っていた。
何が起きたの……!?
紅いレーゼーを発したフォルテ自身は全く微動だにしておらず、アタシ自身も何をされたのか理解が追いつかない。
幸い身体に痛みと損傷は見受けられない。
身体もまだ思うように動くアタシが中空で何とか態勢を立て直そうと藻掻く最中、頭から墜ちる逆さの世界に変化が生じた。
バチンッ─────!!
いつの間に小太刀を抜いていたのか、鞘元で鎺の音が生じる。
それが全ての合図だった。
数百メートル規模のショッピングモールの全てが斜めに歪む。
「な、なんなの……これ……!?」
まるで悪い夢でも見ている気分だった。
スーっと乱れの無い横一線。
ちょうどフォルテの腰の位置、紅いレーゼーがなぞった場所全てが真っ二つに割れている。
さっきとは別の街路樹も、聳える建物も、地平線でも描かれたような斬撃の軌跡が走っている。
『十の奥義、神無月』
フォルテの唇が、言の葉を発することなくそう告げた。
その業は、本来彼が使えるはずのない十番目の型『神無月』。
先日、イギリス大使館を真っ二つにした竜の一撃と同じようだけど、その威力は別の業と錯覚してしまうほど比較にならない。
「─────って、なんなんだよこりゃぁ!?」
紅い雲底が晴れた下、アタシの蹴りによって頭を上げなかったベルゼだが、同じ黙示録の瞳を持つ彼すらも度肝を抜かれていた。
「これがフォルテの共鳴か、シャレになら─────」
互いに大技に魅せられて意識が逸れた瞬間だった。
片膝を着いていたベルゼ目掛け、逆手持ちのフォルテの小太刀が邪悪な鈍色の光を放った。
「ぐはぁ……ッ」
「ベルゼッ!!」
コートを肩掛けしただけの半裸の腹筋へと深々と突き刺さる刃。
体内に収まっていた赤いものが、彼の両足を濡らしていく。
あばら骨の間、肺の位置を刺されたベルゼの口が、打ち上げられた魚のように酸素を求めていた。
「…………」
苦しむ姿に慈悲すら感じさせない紅い瞳。
背まで貫いた刃を見ても彼は翳り一つ見せることは無かった。
それどころか、血で濡れた氷のように冷酷な表情が、何の躊躇いもなく傷口を広げるための捻りを加えていく。
「がぁぁぁぁッ!!!!!」
「このッ……!!」
苦痛の滲む悲鳴に、アタシは突発的にレッグホルスターの銃を握りしめていた。
しかし眼下に映るフォルテを撃とうにも、頭上からでは致命傷以外の狙いが付けられない。
タングリスニとタングニョーストの無いその身体は、迷いに揺らいでいる最中にも重力に引かれ、あっと言う間に地表が近づいてくる。
結局のところ、アタシは最後まで決意しきれなかった。
その首元へ左腕の義手が伸びる。
「ゥ……ァ……」
くる……しい……
そう吐露することすら叶わず、今まさに彼の感情と同じ冷たい指先が。グイグイとアタシの首にめり込んでいく。
バタつかせる脚は無情にも宙を掻き、引きはがそうとしていた指先も次第に力が抜けてしまう。
ここまで……か……
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