SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

グッバイフォルテ《Dead is equal》6

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 そして時間は今に戻る。

「ハッハァァッ!!!今度こそぶっ殺してやるぜフォルテ・S・エルフィィィィィ!!!!」

 黒衣を翻して大地を蹴った青年に対抗し、隣に構えていたベルゼが勢いよく飛び出した。

「ちょっと!?ここはもっと慎重に────」

「ヴァカがッ!!相手はバケモンだ。その気になればこの街全部ぶっ壊すなんてわけねぇんだぞ?距離なんてもんは俺達にとってマイナスにしかならねぇん……だよッ!!」

 言葉の最後にベルゼとフォルテが真っ向で交錯した。
 放たれた弾丸同士ふたりの激突は衝撃波となって、周囲の風景を一薙ぎする。
 瓦礫は軋み、木々は横殴りに傾き、ベンチなど吹き飛んでしまうほどの威力に、たまらずアタシもグングニルを地に刺して耐える他ない。
 その間にも、互いの身体が触れる程の至近距離で両者は必殺を振るう。

「オラオラオラオラァァァァッッッ!!!!殺す殺す殺すゥゥゥゥゥ!!!!」

 アタシとの約束を瞬き一つで忘れたベルゼが熱い心情に胸を滾らせる。
 四肢に備えた三枚刃を巧みに、そして大胆に操り、数人でも裁き切れない乱撃を繰り出していく。

「────」

 対するフォルテはというと、いつもの虎視眈々と勝機を探る炯眼ではなく、ただ眼の前の事象へ反射的に対処しているだけといった様子。
 その挙動は悪い意味で感情がない機械的と言える。
 まるで魂の抜けた人形だ。
 いや、さっきのベルゼの話しが確かなら、フォルテは今まさに人形同然の魔眼あくま傀儡かいらいに過ぎない。
 そんな両者の接近戦インファイトは、数か月前よりも遥かに人間を辞めていた。
 中空の内に身体を捻りつつ、コマの容量で七連撃を繰り出すベルゼ。
 フォルテはその正面九方向からランダムに跳んでくる乱撃を、たった一本の刃だけで裁き切ってしまう。

 ────なんて、凄まじい闘いなのかしら……っ

 息を呑む攻防を目の当たりにして、両脚に上手く力が入らなくなっていく。
 人ならざる者同士の命の奪い合いは、常人であるアタシには少々刺激が強すぎた。

「あぁもう……っ!」

 それでも立ち止まってなんかいられない。
 両の太腿と自身の弱気な精神きもちにバチリッと平手を加える。
 数か月前にあの二人を眺めることしかできなかったあの時とは違う。
 今のアタシは身体だって拘束されていないし、それにさっき誓ったんだ。
 今度はアタシがフォルテを救うと。
 鉄丸てつがんを付けられたように重かった脚は、その気概一つで軽くなり、アタシは放たれた矢の如く走り出していた。

「やっぱ、えげつねえなぁあ!!」

 僅か数秒の内に数百と連撃を繰り出したベルゼがそう叫ぶ。
 勇猛果敢な彼が弱音を吐くのも無理はない。
 その全てを汗一つ流さずフォルテは防いでいるのだから。
 確かに一見するとベルゼの攻撃は適当で乱雑な連撃。
 だからといって勘違いしてはいけないのは、それが決して悪いということじゃない。
 むしろ、ベルゼの身体の動かし方は人種の中でも最大限理に適っている。
 型にはまらない、己の力を重々理解した自由な身体の運び方。
 生存本能むいしきのみで何も考えていない彼の動きは、無駄な動作のない自然なものとなっている。
 でもだからこそ、今のフォルテとは分が悪い。
 魔眼によって囚われた彼の動きは人の力を軽々と超えている。
 それはさっきと今の戦闘を間近で見ていたアタシだからこそ言えることであり、いつもフォルテが使用している悪魔の紅い瞳レッドデーモンアイと全く同じだ。
 違うのは、その持続時間と質。
 数倍でも堪える力をいつも以上に、そしてそれを絶え間なく連発できる今の彼に死角なんてない。
 それゆえ、質より量にこだわるベルゼの攻撃では敵うはずもなく、簡単にその綻びは生まれる。
 シュッ────
 流れるようなベルゼの連撃の隙間。
 まるで回転するヘリのローターの隙間を通り抜けるように、フォルテの刃が風を斬った。

「ぬぉッ?!」

 初めて攻撃として繰り出された顔への刺突。
 ベルゼは間一髪で避けたけど、頬を掠めてツーと血が流れている。
 ダメージこそ軽く済んだけど、僅か一撃で完全にベルゼの勢いは死んでしまった。

「やべっ」

 態勢を崩されたベルゼに二撃目は躱せない。
 無慈悲な悪魔は、その愚者ひと一人のクビ目掛け二撃目を繰り出した。

「はぁぁぁぁッッ!!」

 気概とともに両者の間へと飛び込んだアタシはその一撃を受け止めた。
 舞い散る火花が三人の表情を撫でる。
 重い……ッ!
 グングニルで何とか受けたけど、両手は感覚を失うほど痺れている。

「オラァァァッ!!」

「ッ!?」

 右側面からきた衝撃がアタシの身体を押し退ける。
 ベルゼが無理矢理アタシへと身体を押し当て、回転扉のように入れ替わると同時に斬撃を繰り出す。

「こ…のッ……!」

 連携の「れ」の字もない動きにイラっときたアタシは、感情を乗せた左切り上げを繰り出す。
 もちろんそれはフォルテへと向けた一撃だったのだけど、彼は水面に波紋すら立てないような軽い動作で五メートル弱後退し、アタシの攻撃を難なく躱してしまう。

「あ」

 自分でもマヌケだなと思うような声が漏れる。
 打ち付ける相手を失くしたアタシの斬撃は止まることなく、そのまま延長線上にいたベルゼの頭部を掠めていた。

「うおっ!?っぶねぇ~」

 間一髪でベルゼは何とか躱したものの、パラパラと切り裂かれた紫髪が虚しく宙を舞ている。

「って、何してくれてんだぁてめぇ!?」

 ベルゼが怒るのは最もだ。
 しかし、その動機を作った人物から頭ごなしに罵声を浴びせられたアタシは、カチンッと怒りスイッチがオンとなる。

「そっちこそ、二回も助けてあげたのにお礼はないのかしら!?それどころか今の連携はなに?真面目にやる気あんの?」

 まさか反論されると思ってなかったベルゼは額に手を当ててから、理解できないとばかりに両手を広げた。

「誰がてめぇと連携するなんつった?俺様はあくまで停戦協定を結んだだけで一緒に共闘するなんて言ってねーよ。それよりも俺のイカスな髪を乱しやがってぇ……寧ろてめぇこそ真面目にやれよ!!」

「ちょっと毛先が数ミリ切れただけでいちいち大げさなのよ!それにアタシだってさっきアンタのためにこの髪を分けてあげたでしょ?」

「勝手に分けておいて恩着せがましくしてくるんじゃねーよ!大体さっき……っ!」

 前方から向けられた殺気にアタシとベルゼは会話を中断し、身体を背後に逸らしつつ後方へと避ける。
 その鼻先を掠めたのは、刃によって研がれた疾風。

「月影一刀流『文月ふみづき』ッ!」

 フォルテから放たれた一撃は、彼が扱う剣術の七番目の型である『文月ふみづき』。
 確か人の薄皮一枚を裂く程度の威力だったと認知していたけど、後方側転に以降していたアタシは背後に映る光景しかいにゾッとする。
 街の色彩を飾る街路樹が、横一線に切り裂かれていた。
 真一文字とでも表現すればいいのか、斬られたことすら気付いていない樹木達は、斬撃の風圧よいんによってドミノ倒しのように倒れていく。

「な?だから距離は関係ないっつっただろ?」

 隣で態勢を立て直しつつベルゼが感想を漏らす。

「後退すればするほどやっぱこっちが不利にしかなんねーなぁおい」

「だからって無鉄砲すぎよ!」

「知るか、ビビってたら埒が明かねぇ、一気に詰めるぞ」

「待って!」

 脳みそどころか考え方まで筋肉バカなベルゼのことをアタシは呼び止める。

「んだよ?対抗できている今のうちにどうにかしねぇと、悪魔に完全に乗っ取られちまったらマジで勝機なんて訪れねえぞ?」

 フォルテの力はさっき対峙した時よりも数倍跳ね上がりつつある。
 おまけに人らしい自然ふつうな感情はどんどん削がれており、その姿は正に『悪魔』という存在を彷彿させていた。

「そんなことは分かっているわ!」

 ベルゼが言わんとしていることも。
 フォルテの状態が眼に見えて悪化していることも。
 そして、それらに対してアタシが一番焦っていることも。

「でもだからこそ、適当なことはしたくない。勝負を決めるならあと一回。それ以上無駄な時間をかけることはできないわ」

 言い切ってアタシは視線を前方へと見据える。
 確証こそなかったものの、フォルテの身体は右眼から溢れるドロドロとした紅い魔力に覆われつつあった。
 あれ以上侵食されたらもう引き返せない。
 アタシの勘がそう断言している以上、多分もって数分といったところだろう。

「じゃあどうすんだよ?さっきのとやらも、近づかなければ始まらねーんだぞ?」

 ベルゼは餌をチラつかされた犬のように、今にも飛び出してしまいそうなほど興奮している。
 身体中ボロボロだと言うのに、血走った紫の魔眼は爛々と闘志を燃やし、一歩も退こうとしない。
 いや、そうすることでしか自分の意志を体現するつらぬくことのできないのかもしれないと、アタシは人知れず思っていた。
 人は賢いが故に余分な考えを持ち、判断を鈍らせてしまうけど、彼の場合はその余計な考えを持たないことで眼の前の事象に全力で向き合っている。
 だからこそ、どんな障壁が立ちはだかろうと止まらない、止まれない。
 それがベルゼ・ラングの強さであり、同時に弱さでもあるのだろう。

「アンタは突っ込んでも構わないわ」

 これまでの話しや態度からベルゼのことを見極めたアタシはそう告げた。

「ただし、タイミングだけは合わせて、そのあとは好きにやって構わないから」

 不本意ながら、さっきの猛進で大体の動きの癖は把握出来た以上、下手な連携を強いてもさっきのような綻びが出るのは眼に見えている。
 だからベルゼの長所を活かしつつ、短所となる部分はアタシが補えばいい。
 数ヶ月前の単独行動しか頭になかったアタシが聞いたら卒倒しそうな内容だけど、今はそれが一番良策であると確信しており、それこそがお母様が求めていた『成長』であることに残念ながら今のアタシは気づいていなかった。

「ホントにいいんだな?お嬢ちゃんが合図したら、俺様の好きにぶっ殺しちまってよぉ」

「王女に二言はないわ。その代わり、それだけ盛大に見栄を切ったからには派手に暴れてよ。たぶんアンタが本気出したところであのフォルテは敗けないから」

 フォルテよりも弱いとアタシに揶揄されたベルゼは、キョトンと見開いていた瞳を激昂に染めることはせず、頬を押し上げて今日一番の笑い声を上げた。

「言ってくれるじゃねえか……いいぜ、俺の時間をてめぇにやるよ」

 よし。
 思っていた通りの答えを聞いたアタシは首肯し、武具を握り直す。
 対するは一匹の鬼フォルテは、ユラユラと感情の見えない動きで右手の刃を弄んでいた。
 その何気ない仕草に込められた殺気が精神と肉体をきゅうきゅうと握り潰そうとしてくる。
 この閉鎖型都市ショッピングモールに風など吹かないはずなのに、少しでも気を抜いたら後ろに倒れてしまいそうだ。

「おい、あれだけ盛大に俺のことを煽ったんだ。こんな程度で倒れんじゃねーぞ」

「当たり前よ。それよりもっと集中して。一瞬でもズレたら多分二人とも死ぬから」

 口でこそ条件反射でそう応対していたアタシだが、最早ベルゼのことは念頭に無かった。
 フォルテと正対してからずっとアタシが感じているのは、この肌を突き刺し内側から這い出して来るような悍ましき殺気。
 それは生物が許容できる量を遥かに超えた毒のようで、普通の常人であれば狂気生み、発狂するに違いない。
 頭のネジが外れているベルゼは例外として、ごく普通のアタシが何とかそれに耐えられているのは、ひとえにフォルテを想う強い心情が所以しているのだろう。
 おそらく、この世界でアタシより勝る人物はいないと断言できる程の。
 だからこそ感じる。
 一度浴びせられると無限のように感じる彼の殺気おもいの中に、漣のような揺らぎがあることを。

「スゥ────────いまッ!!」
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