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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
混沌が始まる日4
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救護室とやらから連れ出される形で俺はアイリスの後に続く。
さっき感じた通り、眩しい朝日が差し込む小綺麗な通路は人の往来でドタバタと慌ただしい。
それも、一般人ではない。
通り過ぎていくのは野戦服を着た自衛官やスーツを着た将校だのと……物騒なことこの上ない。
「ここは日本の防衛省」
そんな喧騒を気にも留めず、マフラーの尾を翻しながら彼女は口を開いた。
防衛省とは所謂アメリカの国防総省みたいなものであり、外敵から国を護るための設立された日本の組織だ。
その中枢を担うこの建物が眼に見えて分かるほど慌ただしということは、余程よからぬことが起きている証拠に他ならない。
「今は各国合同であの戦艦、今は『ヨトゥンヘイム』って名称で呼ばれているんだけど。あれを対処するべく忙しいんだ」
あの戦艦。
彩芽が呼び寄せえたと思われる超巨大な飛行要塞。あんなものが襲来して、国が黙って見過ごせるはずが無かった。
そう言うアイリスも心なしか足早である。
「昨夜、日本に武力攻撃したあの軍艦は、政府の要請を無視したままステルス迷彩を作動させて姿を眩ませた。そのままゆっくりと国土上空を領空侵犯して日本海へ。理由は不明にしても国土を汚された日本は各国共闘してこれを撃破することが決まったのが数時間前の話し。さっきも言ったけど、ボク達はあの戦闘の後にここに保護してもらったんだ。表では大統領暗殺容疑の掛けられていた君がここに居ても問題ないように、裏で色々と手続きとかを済ませてね」
「手続き?」
「うん、一旦は緊急ということで超法規的処置をね。ロナを介してアメリカ政府が掛け合ってくれたの。おかげでもう日本から追われるようなことはないよ」
「ロナも無事だったのか?」
地下で三日も拷問を受けていた身としてはどうもにも釈然としない話しだが、それよりも仲間の安否の方が重要だった。
「無事も何も、ロナは津波に巻き込まれてないからね。代わりに色々と立場的に引っ張り出されて大変そうだけど……それもあったから、ボクが君のことを起こしに行ったんだ。そろそろ眼が覚める頃だろうと思ってね」
「そうか……良かった」
安堵した後、しばらく無言のままアイリスについていくものの、一向に目的地へ着かずにいた。
「何処に向かっている?」とさっき聞いてみたが「行けば分かる」としか答えてくれなかったので、俺は質問の仕方を変えてみることにした。
「それにしても、よく日本はアメリカとの交渉に応じてくれたな。互いにパニックに陥っていると思っていたのによ」
「これのおかげだよ」
アイリスはパーカーのマフポケットから一発の銃弾を取り出して見せた。
「なんだこれ。ライフル弾?」
華奢な指に似合わない無骨なライフル弾。
彼女の扱う7.62x51mm 弾にも見えなくもないが。
「これは追跡弾頭。あの時、戦艦が砲撃する直前、ボクが狙撃したのを覚えているかい?」
「あぁ、ダメもとで放ったやつか」
津波に飲み込まれるまえ。
戦艦の一斉掃射に対抗したアイリスが、半ばヤケクソ気味に放った数発の銃弾……というのが俺の認識となっていた。
だが、その言葉にアイリスは見るからに気に食わないといった様子でこっちにジト目を向けてくる。
「失礼な。あれはしっかり狙って撃ったものだよ」
むーと頬を膨らませたアイリスは、スナイパーは無駄弾を撃たない。そう提言するように弾丸の説明を始める。
「これの先端にはナノテクノロジーによって超小型化された付着性探知機が何千何万と内蔵されていて、衝撃と同時に拡散、着弾した目標の内外部に潜伏、追跡できるという魔科学兵器。君の師匠を初手で逃した一件もあって、たまたま日本に居た武器の専門家から買ったものだったけど。まさかこんな形で役立つとはね……」
見たことも聞いたことの無い技術だったが、要約すると高性能のペイント弾ということらしい。
確かによく観察すると弾頭部分が僅かに半透明のガラスで形成され、その中には黒々とした微分子のもの……おそらく『探知機』がびっしりと内蔵されている。
「そうかこれであの戦艦に目印を付けて、その情報を餌に協力関係を再び構築し直したといことか」
あの戦艦は強力なステルス迷彩を搭載していたことから、情報も無く追うのは不可能に近い。
日本にとって戦艦の明確な位置情報は喉から手が出る程の代物であったはず。
敵の敵は味方という言葉通り、疑心暗鬼となっていた両者の関係を治すのに、もってこいの特効薬だと言える。
流石はロナ。俺なんかよりもよっぽど人の掌握術を理解している。
そう舌を巻きつつ、俺はふと、ある大事なことに気づいた。
「もしかして彩芽を撃った弾丸もこれか?」
「もちろん」
コクリと小さく肯定するアイリス。
数時間前、アイリスは一度だけ彩芽を狙撃していた。
それがチェイサーブレッドということは、姿を眩ませたとしてもセイナを追えるはず。
目覚めてから初めて俺は歓喜の声を上げていた。
「でかした!それで奴は何処に?」
「そ、それは……」
しかし、その話しが出た途端アイリスの表情は、俺とは対照的に陰りが増していく。
それを見ただけで全てを察してしまった。
どうしてアイリスがずっと難しい表情で思い詰めていた理由を。
「まさか……ヨトゥンヘイムの中に?」
琥珀色の瞳はその事実を伏せようとして、隠しきることができていなかった。
「クソ……っ」
思わずそう悪態をつく。
立て籠もるにしても質が悪すぎるからだ。
俺達がセイナを救うためには、ただ単にあの戦艦に乗り込み、彩芽と対峙すればよいという訳ではなくなった。
日本とアメリカが撃墜を目的としている以上、それら激戦区に忍び込み、剰え撃墜される前までに彼女を救い出さなければならないのだ、
最悪、二カ国と敵対しなければならない可能性だってある。
「それでも、ここまで来ることはできた」
俯いて歯噛みする俺へと、励ますようなアイリスの言葉が投げかけられる。
「初めは全てが敵であるような絶望的状況だった。でも今は違う。君の人望が君自身をここまで連れてきたんだ。決して悲観ばかりじゃないさ」
そう言ってアイリスは再び歩き出した。
状況を憂いていた俺にはその言葉の意味が読み取れず、同時に聞き返すこともできなかった。
だからといって、ここで思い悩んでいても状況は好転することは無い。
俺は意を決し、その甘栗色の三つ編みを追うことへ専心することにする。
それにまだ日本もアメリカも敵対している訳ではない以上、身の振り方を考えるのは全ての状況を把握してからでも遅くはないだろう。
過ぎ去った通路や階段には何の関心も抱くことなく、ただただ彼女の背中を追って早数分。
辿り着いたのは、こちらも広々とした事務室のような場所だった。
そう称さねばならないのにも理由があった。
「────────」
途切れることの無い電話のコール音。
慌ただしく駆け巡る雑多な人の群。
怒号やら金切り声まで聞こえてくる喧騒の渦。
とてもじゃないが事務室と形容するには少々騒がし過ぎるというか、どちらかというとスキャンダルを掴んだマスコミの編集室と類似していた。
昨夜の件をもってすれば、それも無理はない。
何も知らない市民からすれば、突如見知らぬ飛行兵器が襲来しては日本屈指の連絡橋を倒壊させた。それだけに留まらず、小津波による被害は沿岸部に在していた施設各位にも多大なる影響を与えた……と、ここに来るまでに聞いたアイリスからの話し。
怪我人こそ多数出たが死傷者が出なかったことは本来大いに喜ぶべきところだが、そんなことに眼を向ける彼らではない。
政府も無能ではないが、たかだか数時間程度ではまだ碌な情報開示も方針も固まっていないだろう。
情報規制は既に敷いているらしいが、SNSやらネットを介して既に事の外面的あらまし『敵が攻めて来た』という事実のみが錯綜していることは想像に難くない。
その結果がこの始末。
サイバー攻撃と大差ない電話ジャック。
サーバーをダウンさせるほどの無意識下のメール爆弾。
何も知らない市民からすればそれも当然だが、その行動が自分達を護ってくるはずの組織を阻害し、回り回って自分達の首を締めていることなど気づきもしない。
おまけにこれを好機と観た莫迦な野党が国会やら防衛省に責任転嫁とばかりにそれらを焚きつているとか。徒党を組んで押し寄せてくるのも時間の問題だろう。
さっき、裸足で駆け込むような慌ただしさで防衛大臣がここに帰ってきたことも頷ける。
「…………」
その光景を見慣れたというよりかは元より気にも留めない性格のアイリスは、供えられた観葉植物のような静かさで事務の通路を突っ切っていく。
スーツやら野戦服を着ている事務員と違って、比較的ラフな格好の俺達は奇異な眼を向けられるべき対象のはずが、ここに来るまでもそうだったように、そんな暇はない様子で誰一人こちらを一瞥することさえしかった。仮にも武装しているのに……本当に大丈夫か?この施設……
まるで透明人間にもでもなった気分で長い事務室を突っ切り、アイリスに案内されたのはこれまた建物に似合わぬこじんまりした会議室だった。
この事務室の配置、上長クラスの席近くにあることから恐らく関係者のみが使用する社内会議室とみたが、視線を遮るフロストガラスに覆われた室内には既に幾人かの人影がぼんやりと浮かんでいた。扉にも使用中というプレート表示がされている。
「あとは君次第だよ。セイナを救うために彼らを味方にできるか、敵とするかは」
「え?」
意味深長にそう告げた言葉に聞き返す間もなく、アイリスは扉をノックする。
「連れてきた」
そのまま返事を待たずして扉を開けてしまった。
「お、おい……クソッ……!」
ろくな説明も無いままに入ってしまうのでやや躊躇するも、拒まれている様子もないので流れに身を任せて会議室に突入した。
さっき感じた通り、眩しい朝日が差し込む小綺麗な通路は人の往来でドタバタと慌ただしい。
それも、一般人ではない。
通り過ぎていくのは野戦服を着た自衛官やスーツを着た将校だのと……物騒なことこの上ない。
「ここは日本の防衛省」
そんな喧騒を気にも留めず、マフラーの尾を翻しながら彼女は口を開いた。
防衛省とは所謂アメリカの国防総省みたいなものであり、外敵から国を護るための設立された日本の組織だ。
その中枢を担うこの建物が眼に見えて分かるほど慌ただしということは、余程よからぬことが起きている証拠に他ならない。
「今は各国合同であの戦艦、今は『ヨトゥンヘイム』って名称で呼ばれているんだけど。あれを対処するべく忙しいんだ」
あの戦艦。
彩芽が呼び寄せえたと思われる超巨大な飛行要塞。あんなものが襲来して、国が黙って見過ごせるはずが無かった。
そう言うアイリスも心なしか足早である。
「昨夜、日本に武力攻撃したあの軍艦は、政府の要請を無視したままステルス迷彩を作動させて姿を眩ませた。そのままゆっくりと国土上空を領空侵犯して日本海へ。理由は不明にしても国土を汚された日本は各国共闘してこれを撃破することが決まったのが数時間前の話し。さっきも言ったけど、ボク達はあの戦闘の後にここに保護してもらったんだ。表では大統領暗殺容疑の掛けられていた君がここに居ても問題ないように、裏で色々と手続きとかを済ませてね」
「手続き?」
「うん、一旦は緊急ということで超法規的処置をね。ロナを介してアメリカ政府が掛け合ってくれたの。おかげでもう日本から追われるようなことはないよ」
「ロナも無事だったのか?」
地下で三日も拷問を受けていた身としてはどうもにも釈然としない話しだが、それよりも仲間の安否の方が重要だった。
「無事も何も、ロナは津波に巻き込まれてないからね。代わりに色々と立場的に引っ張り出されて大変そうだけど……それもあったから、ボクが君のことを起こしに行ったんだ。そろそろ眼が覚める頃だろうと思ってね」
「そうか……良かった」
安堵した後、しばらく無言のままアイリスについていくものの、一向に目的地へ着かずにいた。
「何処に向かっている?」とさっき聞いてみたが「行けば分かる」としか答えてくれなかったので、俺は質問の仕方を変えてみることにした。
「それにしても、よく日本はアメリカとの交渉に応じてくれたな。互いにパニックに陥っていると思っていたのによ」
「これのおかげだよ」
アイリスはパーカーのマフポケットから一発の銃弾を取り出して見せた。
「なんだこれ。ライフル弾?」
華奢な指に似合わない無骨なライフル弾。
彼女の扱う7.62x51mm 弾にも見えなくもないが。
「これは追跡弾頭。あの時、戦艦が砲撃する直前、ボクが狙撃したのを覚えているかい?」
「あぁ、ダメもとで放ったやつか」
津波に飲み込まれるまえ。
戦艦の一斉掃射に対抗したアイリスが、半ばヤケクソ気味に放った数発の銃弾……というのが俺の認識となっていた。
だが、その言葉にアイリスは見るからに気に食わないといった様子でこっちにジト目を向けてくる。
「失礼な。あれはしっかり狙って撃ったものだよ」
むーと頬を膨らませたアイリスは、スナイパーは無駄弾を撃たない。そう提言するように弾丸の説明を始める。
「これの先端にはナノテクノロジーによって超小型化された付着性探知機が何千何万と内蔵されていて、衝撃と同時に拡散、着弾した目標の内外部に潜伏、追跡できるという魔科学兵器。君の師匠を初手で逃した一件もあって、たまたま日本に居た武器の専門家から買ったものだったけど。まさかこんな形で役立つとはね……」
見たことも聞いたことの無い技術だったが、要約すると高性能のペイント弾ということらしい。
確かによく観察すると弾頭部分が僅かに半透明のガラスで形成され、その中には黒々とした微分子のもの……おそらく『探知機』がびっしりと内蔵されている。
「そうかこれであの戦艦に目印を付けて、その情報を餌に協力関係を再び構築し直したといことか」
あの戦艦は強力なステルス迷彩を搭載していたことから、情報も無く追うのは不可能に近い。
日本にとって戦艦の明確な位置情報は喉から手が出る程の代物であったはず。
敵の敵は味方という言葉通り、疑心暗鬼となっていた両者の関係を治すのに、もってこいの特効薬だと言える。
流石はロナ。俺なんかよりもよっぽど人の掌握術を理解している。
そう舌を巻きつつ、俺はふと、ある大事なことに気づいた。
「もしかして彩芽を撃った弾丸もこれか?」
「もちろん」
コクリと小さく肯定するアイリス。
数時間前、アイリスは一度だけ彩芽を狙撃していた。
それがチェイサーブレッドということは、姿を眩ませたとしてもセイナを追えるはず。
目覚めてから初めて俺は歓喜の声を上げていた。
「でかした!それで奴は何処に?」
「そ、それは……」
しかし、その話しが出た途端アイリスの表情は、俺とは対照的に陰りが増していく。
それを見ただけで全てを察してしまった。
どうしてアイリスがずっと難しい表情で思い詰めていた理由を。
「まさか……ヨトゥンヘイムの中に?」
琥珀色の瞳はその事実を伏せようとして、隠しきることができていなかった。
「クソ……っ」
思わずそう悪態をつく。
立て籠もるにしても質が悪すぎるからだ。
俺達がセイナを救うためには、ただ単にあの戦艦に乗り込み、彩芽と対峙すればよいという訳ではなくなった。
日本とアメリカが撃墜を目的としている以上、それら激戦区に忍び込み、剰え撃墜される前までに彼女を救い出さなければならないのだ、
最悪、二カ国と敵対しなければならない可能性だってある。
「それでも、ここまで来ることはできた」
俯いて歯噛みする俺へと、励ますようなアイリスの言葉が投げかけられる。
「初めは全てが敵であるような絶望的状況だった。でも今は違う。君の人望が君自身をここまで連れてきたんだ。決して悲観ばかりじゃないさ」
そう言ってアイリスは再び歩き出した。
状況を憂いていた俺にはその言葉の意味が読み取れず、同時に聞き返すこともできなかった。
だからといって、ここで思い悩んでいても状況は好転することは無い。
俺は意を決し、その甘栗色の三つ編みを追うことへ専心することにする。
それにまだ日本もアメリカも敵対している訳ではない以上、身の振り方を考えるのは全ての状況を把握してからでも遅くはないだろう。
過ぎ去った通路や階段には何の関心も抱くことなく、ただただ彼女の背中を追って早数分。
辿り着いたのは、こちらも広々とした事務室のような場所だった。
そう称さねばならないのにも理由があった。
「────────」
途切れることの無い電話のコール音。
慌ただしく駆け巡る雑多な人の群。
怒号やら金切り声まで聞こえてくる喧騒の渦。
とてもじゃないが事務室と形容するには少々騒がし過ぎるというか、どちらかというとスキャンダルを掴んだマスコミの編集室と類似していた。
昨夜の件をもってすれば、それも無理はない。
何も知らない市民からすれば、突如見知らぬ飛行兵器が襲来しては日本屈指の連絡橋を倒壊させた。それだけに留まらず、小津波による被害は沿岸部に在していた施設各位にも多大なる影響を与えた……と、ここに来るまでに聞いたアイリスからの話し。
怪我人こそ多数出たが死傷者が出なかったことは本来大いに喜ぶべきところだが、そんなことに眼を向ける彼らではない。
政府も無能ではないが、たかだか数時間程度ではまだ碌な情報開示も方針も固まっていないだろう。
情報規制は既に敷いているらしいが、SNSやらネットを介して既に事の外面的あらまし『敵が攻めて来た』という事実のみが錯綜していることは想像に難くない。
その結果がこの始末。
サイバー攻撃と大差ない電話ジャック。
サーバーをダウンさせるほどの無意識下のメール爆弾。
何も知らない市民からすればそれも当然だが、その行動が自分達を護ってくるはずの組織を阻害し、回り回って自分達の首を締めていることなど気づきもしない。
おまけにこれを好機と観た莫迦な野党が国会やら防衛省に責任転嫁とばかりにそれらを焚きつているとか。徒党を組んで押し寄せてくるのも時間の問題だろう。
さっき、裸足で駆け込むような慌ただしさで防衛大臣がここに帰ってきたことも頷ける。
「…………」
その光景を見慣れたというよりかは元より気にも留めない性格のアイリスは、供えられた観葉植物のような静かさで事務の通路を突っ切っていく。
スーツやら野戦服を着ている事務員と違って、比較的ラフな格好の俺達は奇異な眼を向けられるべき対象のはずが、ここに来るまでもそうだったように、そんな暇はない様子で誰一人こちらを一瞥することさえしかった。仮にも武装しているのに……本当に大丈夫か?この施設……
まるで透明人間にもでもなった気分で長い事務室を突っ切り、アイリスに案内されたのはこれまた建物に似合わぬこじんまりした会議室だった。
この事務室の配置、上長クラスの席近くにあることから恐らく関係者のみが使用する社内会議室とみたが、視線を遮るフロストガラスに覆われた室内には既に幾人かの人影がぼんやりと浮かんでいた。扉にも使用中というプレート表示がされている。
「あとは君次第だよ。セイナを救うために彼らを味方にできるか、敵とするかは」
「え?」
意味深長にそう告げた言葉に聞き返す間もなく、アイリスは扉をノックする。
「連れてきた」
そのまま返事を待たずして扉を開けてしまった。
「お、おい……クソッ……!」
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