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月下の鬼人(ワールドエネミー)下
断罪の銃弾(コンティニューザフューチャー)4
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「────っ!?」
反射的に飛び起きた俺。
「うっ……!」
長らく凝り固まっていた筋肉が悲鳴を上げる。
随分久しく開けた視界は、まるで白昼夢でも見ているかのように眩しく。
そして、聞き慣れた計器類の音とともに耳に届いたのは────
「────ようやくお目覚めかしら?」
懐かしさすら感じる幼き少女の声。
年頃らしい白いブラウスと、折り目正しい黒いプリーツスカートを身に着け、特徴的な長い黄金色のポニーテールと、宝石のようなブルーサファイアの瞳を瞬かせたのは……
「……セイナ……」
個室に設けられた医療ベットの横、椅子に腰掛けていたのは最近組んだばかりの相棒。
顔を合わせるのは随分久しぶりなような気がしたものの、俺の舌はその名を口にすることに違和感を感じなかった。
「全く……いつまでそんなところで寝ているつもり?お寝坊さんにも程があるわよ?」
呆れ口調で話すも、彼女は何処か嬉しさのようなものを表情に滲ませていた。
「随分長い、長い夢を見ていたようだ……」
「どんな夢?」
「お前と出会う前……過去に体験した出来事だ」
「それって……SEVEN TRIGGER時代の?」
「そうだ……別に大した話しじゃないけどな……」
「どんなことがあったの?」
藪蛇だったかもしれない。
まだはっきりとしていない意識のせいで、考えなしにペラペラと喋る自分に向けて溜息を漏らした。
でも、そろそろ頃合いなのかもしれない。
「……聞けば、お前も俺と同じ、要らぬ火の粉を被るかもしれないぞ?」
釘さすように告げた俺の言葉を、セイナは一笑に付し、無い胸を大きく張る。
「何よ今更……アタシ達はパートナーでしょ?それに、フォルテはアタシにそんな脅し文句が通用するとでも思っているの?」
違いない。
相棒の指摘を受けて、俺は肩を竦めた。
そう言えば、セイナには俺の過去について話したことは無かったなと、背もたれを起こしたベッドへと身体を預け俺は話す。
仲間のことや、部隊のこと、ベアードのこと。
彼女の身を案じて隠していたFBIの真実も、全て包み隠さず話した俺の言葉の全てに、セイナは最後まで話し手を飽きさせない喜怒哀楽な反応を見せつつ、全ての話しを聞いてくれた。
「……ありがとう」
あらかた話し終えた俺に、セイナは最後にそう告げた。
「フォルテの過去を話してくれて……おかげで、前よりずっとアンタのことを理解できた気がするわ」
相棒はそう告げて小さくはにかんだ。
雪のように白かったその頬が、どういうわけか僅かに赤味がかっている。
「にしても……どうして俺はこんなところに……?」
ざっと小一時間程の自分語りを終えた俺が、素朴な疑問をぶつけると、セイナは眼を眇めるようにして訝る表情を作った。
「覚えてないの?ベトナムで空港に向かう途中、糸が切れたように気を失って、それからずっと寝たきりだったのよ」
チャップリンことボブ・スミスを乗せた飛行機が忽然と姿を消した後、厳重な警備体制や空域の精査をレクスがしてくれていたらしい。その間に長らく戦闘で酷使していた俺の身体は限界を迎えて気絶。自宅療養する前に状態が悪化した関係から、都内の病院に搬送され、現在に至るとのこと。
「俺はどれくらい寝ていたんだ……?」
高層階の部屋から覗く夕暮れの街並みと、都内であることを示す、未だ壊れたままの東京タワーを遠目に見やる。
「んー今日でちょうど一か月くらいよ」
また随分と寝ていたな……
身体がここまで鈍るのも頷ける。
……あれ?
っていうか待てよ……
一か月寝たきりの割には、妙に清潔感のある自分の身体に気づいて俺は何気なく訊ねる。
「もしかしてセイナ、お前付きっ切りで俺の看病をしてくれていたのか?」
「ぎくっ!……な、ななななな、何のことかしら……?」
不器用な手つき軽食のリンゴを剥いていたセイナが、危うく自分の手をナイフで突き刺しかねない勢いで身体を跳ね上げた。
「今日はたまたま!そう、たまたまよ!!誰がアンタのために付きっ切りでなんて……」
口籠る彼女から眼を背けると、部屋の隅には大量の私物らしき荷物の詰め込まれたリュックが数個置かれている。
「じゃあ……なんで眼の下にクマ何て作ってるんだ?」
「えっ!!嘘ッ!?バレないようちゃんと化粧で隠していたはずなのに……ッ!!あ……」
ニヤニヤとする俺を見ては、自ら掘った墓穴に気づいてカァーっと頬を紅潮させたセイナは両手を振り上げた。
「バカバカバカッ!!」
ぽかぽかぽか。
恥ずかしさを隠すように、力のないハンマーパンチを繰り出すセイナ。
「イテテてッ!止めろって!」
それでも病み上がりの身体には結構利くその連打に俺が半笑いで対処していると……
「バカバカ……」
ぽか……ぽか……
ベッドに顔を埋めては、元気だった声音を震わせるセイナ。
ポタ……ポタ……
さっきまでの勢いを失った両手が、俺の身体を離さんとばかりにしがみ付く。
「お、おい……?」
流石に虐め過ぎたか?と反省半分、動揺半分と言った具合で俺が訊ねる。
するとセイナは、ぎゅっと俺の身体を更に強く、強く掴んでくる。
「バカッ……本当に……心配したんだから……っ」
「……ごめん」
悪ふざけが過ぎた。
考えてみればすぐに分かることだ。
魔眼の反動とはいえ、これほどまでに寝込んだことは俺自身初めての経験。
きっと、何度も生死の淵を彷徨っていたのだろう。
そんな、いつ目覚めるかも分からない状況の中、俺が目覚めることだけを信じて彼女は、毎日毎日身の回りの世話をしてくれていた。
眼の下にクマまで作って……
「謝るくらいなら……もっと自分の身体を大切にしてよ……バカフォルテ」
「あぁ……そうだな……」
泣きじゃくるセイナの滑らかな背を優しく撫でてあげる。
今の俺にできることは、これで精いっぱいだった。
セイナらしからぬ、感情をさらけ出して数分が経った頃。
引いた涙と合わせて、ずっと強張っていた身体から力が抜けたらしく、凭れるようにベッドの淵から俺の身体に縋りつくセイナ。
目覚めたことへの安心感もあってか、今はすやすやと小さな寝息を立てていた。
静寂に満ちた病室から、夕闇に沈もうとしている東京の街並みを眺めていると、
ガラガラ……!
「あっ!ダーリン!!」
開いたドアの向こうから、特徴的な元気いっぱいな声をした、銀髪をツインテールにした少女。
その頭には今日も、特徴的なアメジストのリボンがパタパタとひらめいていた。
反射的に飛び起きた俺。
「うっ……!」
長らく凝り固まっていた筋肉が悲鳴を上げる。
随分久しく開けた視界は、まるで白昼夢でも見ているかのように眩しく。
そして、聞き慣れた計器類の音とともに耳に届いたのは────
「────ようやくお目覚めかしら?」
懐かしさすら感じる幼き少女の声。
年頃らしい白いブラウスと、折り目正しい黒いプリーツスカートを身に着け、特徴的な長い黄金色のポニーテールと、宝石のようなブルーサファイアの瞳を瞬かせたのは……
「……セイナ……」
個室に設けられた医療ベットの横、椅子に腰掛けていたのは最近組んだばかりの相棒。
顔を合わせるのは随分久しぶりなような気がしたものの、俺の舌はその名を口にすることに違和感を感じなかった。
「全く……いつまでそんなところで寝ているつもり?お寝坊さんにも程があるわよ?」
呆れ口調で話すも、彼女は何処か嬉しさのようなものを表情に滲ませていた。
「随分長い、長い夢を見ていたようだ……」
「どんな夢?」
「お前と出会う前……過去に体験した出来事だ」
「それって……SEVEN TRIGGER時代の?」
「そうだ……別に大した話しじゃないけどな……」
「どんなことがあったの?」
藪蛇だったかもしれない。
まだはっきりとしていない意識のせいで、考えなしにペラペラと喋る自分に向けて溜息を漏らした。
でも、そろそろ頃合いなのかもしれない。
「……聞けば、お前も俺と同じ、要らぬ火の粉を被るかもしれないぞ?」
釘さすように告げた俺の言葉を、セイナは一笑に付し、無い胸を大きく張る。
「何よ今更……アタシ達はパートナーでしょ?それに、フォルテはアタシにそんな脅し文句が通用するとでも思っているの?」
違いない。
相棒の指摘を受けて、俺は肩を竦めた。
そう言えば、セイナには俺の過去について話したことは無かったなと、背もたれを起こしたベッドへと身体を預け俺は話す。
仲間のことや、部隊のこと、ベアードのこと。
彼女の身を案じて隠していたFBIの真実も、全て包み隠さず話した俺の言葉の全てに、セイナは最後まで話し手を飽きさせない喜怒哀楽な反応を見せつつ、全ての話しを聞いてくれた。
「……ありがとう」
あらかた話し終えた俺に、セイナは最後にそう告げた。
「フォルテの過去を話してくれて……おかげで、前よりずっとアンタのことを理解できた気がするわ」
相棒はそう告げて小さくはにかんだ。
雪のように白かったその頬が、どういうわけか僅かに赤味がかっている。
「にしても……どうして俺はこんなところに……?」
ざっと小一時間程の自分語りを終えた俺が、素朴な疑問をぶつけると、セイナは眼を眇めるようにして訝る表情を作った。
「覚えてないの?ベトナムで空港に向かう途中、糸が切れたように気を失って、それからずっと寝たきりだったのよ」
チャップリンことボブ・スミスを乗せた飛行機が忽然と姿を消した後、厳重な警備体制や空域の精査をレクスがしてくれていたらしい。その間に長らく戦闘で酷使していた俺の身体は限界を迎えて気絶。自宅療養する前に状態が悪化した関係から、都内の病院に搬送され、現在に至るとのこと。
「俺はどれくらい寝ていたんだ……?」
高層階の部屋から覗く夕暮れの街並みと、都内であることを示す、未だ壊れたままの東京タワーを遠目に見やる。
「んー今日でちょうど一か月くらいよ」
また随分と寝ていたな……
身体がここまで鈍るのも頷ける。
……あれ?
っていうか待てよ……
一か月寝たきりの割には、妙に清潔感のある自分の身体に気づいて俺は何気なく訊ねる。
「もしかしてセイナ、お前付きっ切りで俺の看病をしてくれていたのか?」
「ぎくっ!……な、ななななな、何のことかしら……?」
不器用な手つき軽食のリンゴを剥いていたセイナが、危うく自分の手をナイフで突き刺しかねない勢いで身体を跳ね上げた。
「今日はたまたま!そう、たまたまよ!!誰がアンタのために付きっ切りでなんて……」
口籠る彼女から眼を背けると、部屋の隅には大量の私物らしき荷物の詰め込まれたリュックが数個置かれている。
「じゃあ……なんで眼の下にクマ何て作ってるんだ?」
「えっ!!嘘ッ!?バレないようちゃんと化粧で隠していたはずなのに……ッ!!あ……」
ニヤニヤとする俺を見ては、自ら掘った墓穴に気づいてカァーっと頬を紅潮させたセイナは両手を振り上げた。
「バカバカバカッ!!」
ぽかぽかぽか。
恥ずかしさを隠すように、力のないハンマーパンチを繰り出すセイナ。
「イテテてッ!止めろって!」
それでも病み上がりの身体には結構利くその連打に俺が半笑いで対処していると……
「バカバカ……」
ぽか……ぽか……
ベッドに顔を埋めては、元気だった声音を震わせるセイナ。
ポタ……ポタ……
さっきまでの勢いを失った両手が、俺の身体を離さんとばかりにしがみ付く。
「お、おい……?」
流石に虐め過ぎたか?と反省半分、動揺半分と言った具合で俺が訊ねる。
するとセイナは、ぎゅっと俺の身体を更に強く、強く掴んでくる。
「バカッ……本当に……心配したんだから……っ」
「……ごめん」
悪ふざけが過ぎた。
考えてみればすぐに分かることだ。
魔眼の反動とはいえ、これほどまでに寝込んだことは俺自身初めての経験。
きっと、何度も生死の淵を彷徨っていたのだろう。
そんな、いつ目覚めるかも分からない状況の中、俺が目覚めることだけを信じて彼女は、毎日毎日身の回りの世話をしてくれていた。
眼の下にクマまで作って……
「謝るくらいなら……もっと自分の身体を大切にしてよ……バカフォルテ」
「あぁ……そうだな……」
泣きじゃくるセイナの滑らかな背を優しく撫でてあげる。
今の俺にできることは、これで精いっぱいだった。
セイナらしからぬ、感情をさらけ出して数分が経った頃。
引いた涙と合わせて、ずっと強張っていた身体から力が抜けたらしく、凭れるようにベッドの淵から俺の身体に縋りつくセイナ。
目覚めたことへの安心感もあってか、今はすやすやと小さな寝息を立てていた。
静寂に満ちた病室から、夕闇に沈もうとしている東京の街並みを眺めていると、
ガラガラ……!
「あっ!ダーリン!!」
開いたドアの向こうから、特徴的な元気いっぱいな声をした、銀髪をツインテールにした少女。
その頭には今日も、特徴的なアメジストのリボンがパタパタとひらめいていた。
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